映画評「この胸いっぱいの愛を」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2005年日本映画 監督・塩田明彦
ネタバレあり

「黄泉がえり」と同じ原作・梶原真治と監督・塩田明彦のコンビ作。テーマは似ていて同工異曲と言って良い。

2006年、福岡行きの飛行機に乗った青年・伊藤英明は、自分が20年前の1986年にいることを知る。場所は故郷の北九州市は門司。
 彼は祖母の料亭が火事になったのを思い出して火を消しに走り、使える金を持ち合わせていないので、そのまま居候になる。その場所には勿論十歳の本人(富岡涼)がいる。
 少年は音大を首席で卒業しながら難病の為に故郷に舞い戻った姉さん・ミムラが大好きで大人になったら結婚したいと思っているのだが、大人の彼は手術をせずに死んでしまった彼女を何とか手術させる気にする為に懸命に奔走する。

梶原という小説家は<悔悟の消去>というテーマが好きなようで、彼と同じように過去に舞い込んだ人々は失敗した過去を取り消した時姿を消していく。

ネタを明かせば彼らは飛行機事故で死んだ人々なのだが、「黄泉がえり」とは逆に死んだ人間の視点で語られ、そこにタイムスリップものの要素を加えたところが新味となっている。
 それは<悔悟の消去>の為には「バタフライ・エフェクト」を引合いに出すまでもなく過去に戻る必要があるからなのだが、他の3人はともかく、主人公だけは本人に会って教育的指導をしているだけでなく、ミムラの考えを変えているので、結果的に本人の運命を変えてしまう可能性があり、タイム・パラドックスが発生しかねない。

それはともかく、主人公たちが因縁のある人々と交流する場面には味わい深いものが少なくない。特に、チンピラ・勝地涼が生誕とともに死んでしまった実母と逢う場面はとしんみりとする。

僕の考える塩田明彦の実力を遺憾無く発揮したとは言えないが、きちんと作っていることは認めたい。

この記事へのコメント

2006年10月04日 14:41
こんにちわ~
最近忙しくてTB頂いてもコメントを残す暇がなくてTBのみで失礼しておりました~
私は、幼少のヒロが、大好きなお姉さんの死に行く運命を受け止められない少年期にはありがちな、未熟であるがゆえの、どこにもぶつけようもない、やり場のない気持ちが凄く良く心に響いて涙腺がゆるみそうでした・・・
そして、当たり前の事ですが、大人になったヒロ本人がそれを一番理解している、そんな場面が良かったです。
オカピー
2006年10月04日 18:19
rikocchinさん、ようこそ。
コメントは嬉しいものですが、忙しい時はお構いなく。
タイム・パラドックスはともかく、なかなか素晴らしいエピソードが多かったですね。
タイム・パラドックスが避けられないのなら、彼女が手術に応じたことによって彼の人生も変わって飛行機事故にも遭わなかった、という話を期待するところが私にはありましたが、さすがにそこまで行くと漫画になってしまいますかね。^^;)
kimion20002000
2008年04月19日 00:04
僕はクドカンの懺悔がよかったですね。
つまらないことなんだけど、ああいうことがずっと生涯ひっかかっている
というのは、わかるような気がするんです。
思わず、もらい泣きしてしまいましたよ。
オカピー
2008年04月19日 16:27
kimion20002000さん、TB&コメント有難うございます。

>クドカンの懺悔
花壇を壊したんでしたっけ。
大げさではないのが、極めて人間らしくて良かったですね。

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