映画評「世界」
☆☆★(5点/10点満点中)
2004年中国=フランス=日本映画 監督ジャ・ジャンクー
ネタバレあり
単細胞な僕には、ジャ・ジャンクーは苦手な監督である。実際の時間感覚に近い長廻しには映画的な面白味が乏しいし、人物や情景の捉え方が余りにもあるがままで、映画の感銘を生み出す簡潔さや省略が上手く使えているとは思えないのである。
北京郊外に【世界公園】というアミューズメント・パークがある。北京にいながらピラミッドやエッフェル塔など世界各地のモニュメントが楽しめる観光スポットで、そこで踊子として働くチャオ・タオは同僚からも慕われ、守衛主任チェン・タイシェンと付き合っているが、彼との仲もなかなか順調に行かない。
という設定で、外国へ旅立つ前の恋人、ゴタゴタの末に結婚する同僚、ホステスに転業したロシア人芸人、上司に媚びを売って舞踏団団長になる後輩、建設事故で死ぬタオシェンの後輩といった幾多の人物を出入りさせながら、仕事場の名前とは正反対に北京から出ることすら殆どない恋人たちの閉塞的な生活を描く。
北京の若者の現状をやや皮肉な角度から切り取っているわけだが、大活用される長廻しが退屈を誘う。ヒッチコックや溝口健二がワンショットの中に句読点を用いて複数のショットに近い映画的効果を出していたのとは対照的で、しかもこれだけ雑多な人物が交錯すると長廻しは物語の把握を難儀ならしめる。
正直なところ彼女が何に苦しんでいるのかよく解らず、幕切れでは描写の的確性を欠いて監督が独りで良い気になっているだけという印象を残す。
映像の魅力はあるが、観客が物語に引き込まれなければ<宝の持ち腐れ>的になる。一言で言えば余りにも文学的な映画であり、文学的に語らねばつまらない作品である。それは僕の考える良い映画とは大分違う。ジャンクーは、初めて観た「プラットフォーム」より前作「青の稲妻」にピンと来る部分が多く、次回作に期待していたのだが。
2004年中国=フランス=日本映画 監督ジャ・ジャンクー
ネタバレあり
単細胞な僕には、ジャ・ジャンクーは苦手な監督である。実際の時間感覚に近い長廻しには映画的な面白味が乏しいし、人物や情景の捉え方が余りにもあるがままで、映画の感銘を生み出す簡潔さや省略が上手く使えているとは思えないのである。
北京郊外に【世界公園】というアミューズメント・パークがある。北京にいながらピラミッドやエッフェル塔など世界各地のモニュメントが楽しめる観光スポットで、そこで踊子として働くチャオ・タオは同僚からも慕われ、守衛主任チェン・タイシェンと付き合っているが、彼との仲もなかなか順調に行かない。
という設定で、外国へ旅立つ前の恋人、ゴタゴタの末に結婚する同僚、ホステスに転業したロシア人芸人、上司に媚びを売って舞踏団団長になる後輩、建設事故で死ぬタオシェンの後輩といった幾多の人物を出入りさせながら、仕事場の名前とは正反対に北京から出ることすら殆どない恋人たちの閉塞的な生活を描く。
北京の若者の現状をやや皮肉な角度から切り取っているわけだが、大活用される長廻しが退屈を誘う。ヒッチコックや溝口健二がワンショットの中に句読点を用いて複数のショットに近い映画的効果を出していたのとは対照的で、しかもこれだけ雑多な人物が交錯すると長廻しは物語の把握を難儀ならしめる。
正直なところ彼女が何に苦しんでいるのかよく解らず、幕切れでは描写の的確性を欠いて監督が独りで良い気になっているだけという印象を残す。
映像の魅力はあるが、観客が物語に引き込まれなければ<宝の持ち腐れ>的になる。一言で言えば余りにも文学的な映画であり、文学的に語らねばつまらない作品である。それは僕の考える良い映画とは大分違う。ジャンクーは、初めて観た「プラットフォーム」より前作「青の稲妻」にピンと来る部分が多く、次回作に期待していたのだが。
この記事へのコメント
確かに若干冗長気味で退屈してしまう面がありましたね。
次回作にも期待したいところです。
長廻しと言ってもだらだらした感じは余りよろしくないですね。同じようにだらだらした感じでも、ギリシャのアンゲロプロスは、被写体の方が動いてくるのでちょっと違うんです。
軽々に駄作などとは言えませんが、少なくとも傑作などとは言いたくない作品でした。
同感のコメントだけですが…。閉塞感そのものも伝わってこなかったしなんかし、無理やりそういう状況において物語をつくっているような。やっぱりいい映画って静かで動きがなくても画面に見入ってしまうもんですよね。分からんといえば、突然飛びますが、タルコフスキーなんて、あまりよくわかってないんですけど、私は。でもひきつけられるものがある。そろそろ(旧姓・Rei)はずして大丈夫でしょうか?
外されて全く大丈夫でございます。
文学的なのも結構ですが、やはり映像と上手くタッグを組まないと。
長廻しを使えば芸術的になるという考えは浅はかで、きちんと計算しなければ何にもなりません。
タルコフスキーは内省的すぎてしんどかったですが、晩年の作品は彼の思想が映像に上手く沈潜して、好ましく思い始めました。そしたら、間もなく死んでしまう。世の中うまく行かないものです。