映画評「輝ける青春」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年イタリア映画 監督マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ
ネタバレあり
「宮本武蔵」5部作、「人間の条件」6部作など数回に分けた上映で8時間を超える作品はあるが、一般上映の形態としてこの作品の上映時間375分(WOWOW放映版)は、中断が一度入るとは言え、映画史上稀に見る長さである。
監督マルコ・トゥリオ・ジョルダーナは初めて。こういう若手なら大歓迎だ。
1966年のローマ、中流インテリ階級の医学生ニコラ(ルイジ・ロ・カーショ)が弟マッテオ(アレッシオ・ボーニ)と共に、精神病院で不当な扱いを受けていた少女ジョルジア(ジャスミン・トリンカ)を救出しようとして果たせず、彼はそのまま北欧への半放浪の旅を続ける。
その年の11月洪水に襲われたフィレンツェで軍人となった弟と再会する一方で、ボランティアで一緒に働いたジュリア(ソニア・ベルガマスコ)と結ばれ一女サラを儲けるが、革命運動に目覚めてしまったジュリアはテロ集団<赤い旅団>の殺し屋になり家を飛び出してしまう。
ここまでが述べれば後半の物語を詳述する必要はない。
精神科医として堅実な道を歩んでいる兄と内省的で恐らく思うところと違う道を歩まざるをえなかった弟の対照的な人生を綴りつつ、37年間に渡り<赤い旅団>のテロリズムやマフィアの傍若無人ぶりなどイタリアの荒れた社会情勢を描くことをテーマとしたところは、316分とこれまた長尺だったイタリア映画の先輩「1900年」を思い起こさずにはいられない。
まるで第二次大戦の終戦で終ったベルナルド・ベルトルッチのあの大作の続編のように1960年代から物語がスタートするのも面白く、この二本を観ればイタリアの20世紀がほぼスキャンできる。
事実上主人公はニコラ一人で、弟マッテオは人生に行き詰まって自殺してしまうのだが、彼に本人が知らない間に出来た子供がいたことで、ニコラにも色々と影響を与え、なかなか後味の良い終盤を迎える。マッテオの<見えざる手>といったところですかな。
ジョルジアの使い方、母の死を知らせる手紙を児童に読ませるという扱いも頗る宜しい。物語の展開で唯一不満なのが、マッテオが自殺に至る真の理由がよく解らないことで、それ以外は過不足なく順調に展開しているように思う。
ローマ、フィレンツェ、トリノ、パレルモ等イタリア各地の風景も上手く取り込んでいるが、火山の挿入などには後期イングマル・ベルイマンを思わせるところがある。彼の後期の最高傑作「ファニーとアレクサンデル」も311分と長尺だった。
因みに「1900年」は316分を立ち見で観た。素晴らしい映画だったが、腰が痛くなったことばかり思い出す。何故そんなに混んでいたかと言えば、12月1日<映画の日>で半額だったから(それも多分第一回目ではなかったか?)。それ以来割引の日に行くのは避けることにしている。
2003年イタリア映画 監督マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ
ネタバレあり
「宮本武蔵」5部作、「人間の条件」6部作など数回に分けた上映で8時間を超える作品はあるが、一般上映の形態としてこの作品の上映時間375分(WOWOW放映版)は、中断が一度入るとは言え、映画史上稀に見る長さである。
監督マルコ・トゥリオ・ジョルダーナは初めて。こういう若手なら大歓迎だ。
1966年のローマ、中流インテリ階級の医学生ニコラ(ルイジ・ロ・カーショ)が弟マッテオ(アレッシオ・ボーニ)と共に、精神病院で不当な扱いを受けていた少女ジョルジア(ジャスミン・トリンカ)を救出しようとして果たせず、彼はそのまま北欧への半放浪の旅を続ける。
その年の11月洪水に襲われたフィレンツェで軍人となった弟と再会する一方で、ボランティアで一緒に働いたジュリア(ソニア・ベルガマスコ)と結ばれ一女サラを儲けるが、革命運動に目覚めてしまったジュリアはテロ集団<赤い旅団>の殺し屋になり家を飛び出してしまう。
ここまでが述べれば後半の物語を詳述する必要はない。
精神科医として堅実な道を歩んでいる兄と内省的で恐らく思うところと違う道を歩まざるをえなかった弟の対照的な人生を綴りつつ、37年間に渡り<赤い旅団>のテロリズムやマフィアの傍若無人ぶりなどイタリアの荒れた社会情勢を描くことをテーマとしたところは、316分とこれまた長尺だったイタリア映画の先輩「1900年」を思い起こさずにはいられない。
まるで第二次大戦の終戦で終ったベルナルド・ベルトルッチのあの大作の続編のように1960年代から物語がスタートするのも面白く、この二本を観ればイタリアの20世紀がほぼスキャンできる。
事実上主人公はニコラ一人で、弟マッテオは人生に行き詰まって自殺してしまうのだが、彼に本人が知らない間に出来た子供がいたことで、ニコラにも色々と影響を与え、なかなか後味の良い終盤を迎える。マッテオの<見えざる手>といったところですかな。
ジョルジアの使い方、母の死を知らせる手紙を児童に読ませるという扱いも頗る宜しい。物語の展開で唯一不満なのが、マッテオが自殺に至る真の理由がよく解らないことで、それ以外は過不足なく順調に展開しているように思う。
ローマ、フィレンツェ、トリノ、パレルモ等イタリア各地の風景も上手く取り込んでいるが、火山の挿入などには後期イングマル・ベルイマンを思わせるところがある。彼の後期の最高傑作「ファニーとアレクサンデル」も311分と長尺だった。
因みに「1900年」は316分を立ち見で観た。素晴らしい映画だったが、腰が痛くなったことばかり思い出す。何故そんなに混んでいたかと言えば、12月1日<映画の日>で半額だったから(それも多分第一回目ではなかったか?)。それ以来割引の日に行くのは避けることにしている。
この記事へのコメント
座席80人程度、スクリーンの小さい単館系劇場は好調だった初期上映に気をよくしてまた続映、来年も期間限定で再続映するようです。
流れるような語り口、悲哀とユーモアをからめた兄弟の波乱の生き方模様、すべらかなカメラ、変にお涙頂戴でもなく、仰々しくもなく、画面の移り変わりにただカラダを預ける・・・こんな観方で若い時は2本立てを堪能したものだわ~~~そんな感慨にひたりながら鑑賞した映画でした。
弟マッテオ役の男優さんは「いい表情」を持った役者さんと観ました。
1時間6本のミニシリーズを観ている感じでした。
滅亡寸前かと思っていた映画ファンもかなりいるわけですね。良かった(笑)。
全く知らない役者ばかりでしたが、皆さん、なかなか味わいがありましたね。この映画のイタリア語はかなり上品に聞こえました、昔の、ほら「鉄道員」などとは違って。やはり庶民と中流の差?
ニコラ役の、ええと、ルイジ・ロ・カーショという役者も気に入りましたよ。
マッテオはどうして自殺したのでしょうか? viva jijiさんのお考えはいかに? 彼は兄さんの名前を騙っていましたよね。うん、その辺りがヒントかな。
ルイジ・ロ・カーショという役者はいかにも南イタリア系、弟役のアレッシオ・ボーニは北イタリア系という感じですね。
南伊系はマカロニ・ウェスタン、北伊系は史劇が似合うと勝手に決めているのですが、いかが?(笑)
>マッテオの自殺
丁寧なご説明、有難うございました。^^
こうして想像し考えるのも映画を観る楽しみの一つとは言え、もう少し伏線らしきものが欲しいような気がしました。
本作で感じた唯一の不満ですね。