映画評「ディア・ウェンディ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2005年デンマーク=ドイツ=フランス=イギリス映画 監督トマス・ヴィンダーベア
ネタバレあり

デンマークを基軸とした欧州合作映画だが、舞台はアメリカである。

炭坑町、平和主義者を自認する店員ジェイミー・ベルが、家政婦ノヴェラ・ネルスンの孫ダンソー・ゴードンへのプレゼントとして購入したおもちゃの拳銃が古い本物と知りウェンディと名付け自分で持つことにする。
 携帯するだけで使用する気はないもののそれにより自信を得た彼は、友人四人と共に【銃による平和主義】を標榜する秘密結社<ダンディーズ>を作り廃坑で射撃の実力を付けていく。
 数年後、自分たちの存在の証しとして、自閉症になったノヴェラを護衛する役目を作り上げるが、世間を信用しない老婆は官憲に発砲してしまい、彼女を匿った<ダンディーズ>は官憲たちに包囲されてしまう。

監督はデンマークのトマス・ヴィンダーベアだが、注目すべきは脚本を書いたのがラース・フォン・トリアーということで、どうしても「ドッグヴィル」と比べたくなる。
 あの作品は単なるアメリカ批判ではなく人間と神の問題を扱った意欲作と思っているが、これを観るとやはり単なるアメリカ批判だったのかなとがっかりしてしまう。というのも本作が平和の為に銃を持つ、抑止力の為に武器を持つと標榜するアメリカ的思想を風刺的に描いたものとしか思えないからである。

本作に関してはそれでも良いのだが、タッチに問題がある。「ドッグヴィル」が特殊な作り方により素直に寓話と観ることができたが、こちらはリアリズムを基調としたタッチだから感覚的に寓話として扱いにくく、後半の展開はまるで理解を超えたものになってしまう。つまり、何故若者たちは自身の作り上げた大義にあそこまで固執する必要があるのかと思えてきてしまうのである。この辺りは監督がタッチとムードを工夫する必要があった。
 全く別のタイプの映画になってしまうが、お話を<ダンディーズ>対町のギャングたちといった構図にすれば、その勝敗の行方の如何を問わず、西部劇の<砦もの>のような感覚で楽しめたであろう。序盤の飄々としたムードは悪くないので惜しい。

この記事へのコメント

ぶーすか
2006年11月19日 20:21
ラース・フォン・トリアーものにしては取っ付きやすい内容でした。この監督、アメリカ文化が好きなくせにアンチ・アメリカな態度を取りたがる…という感じがします^^;)。今回の作品も少年たちに西部劇ごっこさせているし…。新しい脚本もイイけど「キングダム」をちゃんと終わらせて欲しかったです。
オカピー
2006年11月20日 03:43
ぶーすかさん
ドグマ95は評価しつつありましたが、これはやはりテーマに対して演出法を間違えた失敗作と言わざるを得ません。詳細は上に書いたとおり。
アメリカを風刺するにしても、彼らと対決する相手を警察にしたら余りにも絶望的でしょう。

「キングダム」は結局、何だか分らない状態ですね。

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