映画評「ジョニーは戦場へ行った」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1971年アメリカ映画 監督ドルトン・トランボ
ネタバレあり
2004年鑑賞映画メモより。
「黒い牡牛」などで知られる脚本家ドルトン・トランボが自らの小説を映画化した唯一の監督作品。
公開されたのは1973年で、まだ駆け出しの映画ファンだったが、姉と二人で映画館に見に行った。1973年は「スケアクロウ」「ジャッカルの日」「ブラザー・サン・シスター・ムーン」「ポセイドン・アドベンチャー」「激突!」と秀作が目白押しだったが、この作品には相当強く惹かれた記憶がある。パンフレットも買い、原作も読んだ。原題はJohnny Got His Gunで、恐らく「アニーよ銃を取れ」Annie Get Your Gunをもじったものであろう。
速いもので、それから31年の月日が経った。
第1次大戦中、名も知れぬ兵卒が爆撃で手足と顔を失い、大脳も働いていないと医師が宣告する状態で西部戦線のとある病院に収容される。しかし実は彼の脳はダメージを受けておらず、現実把握、回想と幻想にフルに活動する。
釣り好きの父親(ジェースン・ロバーズ)、出征前に恋人(キャシー・フィールズ)と結ばれた初々しい初体験、戦場でキリストと呼ばれる男(ドナルド・サザーランド)と出会い、休暇に米国人娼婦と過ごした時のこと。彼らは回想に留まらず、時には幻想となって現れるが、これらの場面は美しいカラーで描かれている。
一方で現実はモノクロで描かれ、唯一彼を理解し彼の脳が破壊されていないことを発見する看護婦ダイアン・ヴァーシーとの心の交流が胸に染み入る。彼女は彼の「死なせてくれ」というメッセージを実行しようとするが、軍医がストップしてしまう。永遠に病室で発信されつづけるSOS。
言葉を失う。反戦映画も数多くがあるがかようなアプローチを試みた映画は皆無であり、その叫び声の大きさは戦前の大傑作「西部戦線異状なし」に匹敵する。計算や華美を排除した作風が異様な迫力を生み出しているのである。
こんな地味な作品が、その年の洋画興行成績8位と健闘した。配給会社が頑張った結果であるが、映画が三度の飯より好きという本物の映画ファンが多かった証左でもある。
主人公を演じたのは当時有望な新人だったティモシー・ボトムズ。「ラスト・ショー」や「ペーパー・チェース」といった秀作に出たが、やがて主演作に恵まれなくなる。現在貴重なバイプレーヤーとして出演作は多いようだが、日本に輸入される作品は少ない。先日「エレファント」で久しぶりにお目にかかれ大変懐かしかった。
1971年アメリカ映画 監督ドルトン・トランボ
ネタバレあり
2004年鑑賞映画メモより。
「黒い牡牛」などで知られる脚本家ドルトン・トランボが自らの小説を映画化した唯一の監督作品。
公開されたのは1973年で、まだ駆け出しの映画ファンだったが、姉と二人で映画館に見に行った。1973年は「スケアクロウ」「ジャッカルの日」「ブラザー・サン・シスター・ムーン」「ポセイドン・アドベンチャー」「激突!」と秀作が目白押しだったが、この作品には相当強く惹かれた記憶がある。パンフレットも買い、原作も読んだ。原題はJohnny Got His Gunで、恐らく「アニーよ銃を取れ」Annie Get Your Gunをもじったものであろう。
速いもので、それから31年の月日が経った。
第1次大戦中、名も知れぬ兵卒が爆撃で手足と顔を失い、大脳も働いていないと医師が宣告する状態で西部戦線のとある病院に収容される。しかし実は彼の脳はダメージを受けておらず、現実把握、回想と幻想にフルに活動する。
釣り好きの父親(ジェースン・ロバーズ)、出征前に恋人(キャシー・フィールズ)と結ばれた初々しい初体験、戦場でキリストと呼ばれる男(ドナルド・サザーランド)と出会い、休暇に米国人娼婦と過ごした時のこと。彼らは回想に留まらず、時には幻想となって現れるが、これらの場面は美しいカラーで描かれている。
一方で現実はモノクロで描かれ、唯一彼を理解し彼の脳が破壊されていないことを発見する看護婦ダイアン・ヴァーシーとの心の交流が胸に染み入る。彼女は彼の「死なせてくれ」というメッセージを実行しようとするが、軍医がストップしてしまう。永遠に病室で発信されつづけるSOS。
言葉を失う。反戦映画も数多くがあるがかようなアプローチを試みた映画は皆無であり、その叫び声の大きさは戦前の大傑作「西部戦線異状なし」に匹敵する。計算や華美を排除した作風が異様な迫力を生み出しているのである。
こんな地味な作品が、その年の洋画興行成績8位と健闘した。配給会社が頑張った結果であるが、映画が三度の飯より好きという本物の映画ファンが多かった証左でもある。
主人公を演じたのは当時有望な新人だったティモシー・ボトムズ。「ラスト・ショー」や「ペーパー・チェース」といった秀作に出たが、やがて主演作に恵まれなくなる。現在貴重なバイプレーヤーとして出演作は多いようだが、日本に輸入される作品は少ない。先日「エレファント」で久しぶりにお目にかかれ大変懐かしかった。
この記事へのコメント
観直すのにも、勇気がいるなあ。
「ローマの休日」の作者というのも後で知り、この悲惨な話と超ロマンチックな話とのギャップにも驚いた次第です。
彼は赤狩りの関係で色々な別名で書いているようですが、男っぽい作風ですから、「ローマの休日」の原案・脚本にはちょっと驚きますね。
確かにそうそう見返したくなるタイプの作品でないですが、強烈でした。反戦映画やユダヤ人ものは嫌いではないんだなあ。
>リアルタイム
当時はパンフレットも買っていました。
安いもので150円、高いもので200円くらいでしたね。
今ならミニシアターでしかかからないようなこんな作品が大ヒットした時代でもありました。
入場者数が一番落ち込んだ時代でしたが、映画ファンは多かったのです。
>号泣した名作5本
おおっ、そうですか!
僕はショックで声を失った感じでした。