映画評「緑色の部屋」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1978年フランス映画 監督フランソワ・トリュフォー
ネタバレあり
フランソワ・トリュフォーが自ら主演する作品はいずれも、トリュフォーの三つの分野に入らない作品である。
1928年頃、先の大戦で生き残ったことが苦痛になっている新聞社編集部員ジュリアン(トリュフォー)は、また、新婚早々死んでしまった妻のことが忘れられず、妻の思い出の品が置かれた緑色の部屋で過ごすのを日課としている。
妻の実家が競売に付されることになり、思い出の指輪を手に入れようと出かけた先で助手セシリア(ナタリー・バイ)と知り合うが、彼女は少女時代彼を知っていて、同じように父の霊を敬っている。
やがて廃虚となっていた礼拝堂を手に入れて改装、蝋燭が林立する中で彼女と共に死者の霊を弔おうとするが、彼が裏切り者と思っている友人が彼女の元恋人ということを知って憤然、絶交状態になっている時に彼は病に伏してしまう。
「ねじの回転」で霊と縁の深いヘンリー・ジェームズの小説「死者の祭壇」「ジャングルの野獣」を土台にしているということだが、具体的には全く知らない。
それはともかく、死者を敬う気持ちの強い日本人の映画でさえ全くお目にかかったことのないような異色の内容である。
主人公はとにかく潔癖症(性)で、自分が生き残ったことも許せず、「思う相手は生涯一人でなければならない」とも思っている。
そんなわけで、死ぬ瞬間の父の生き霊を観たというセシリアが自分と同じような人間かと思ったら「愛する人は一人でなくても良い」と言うのみならず、裏切り者の恋人だったことを知って完全に調子が狂ってしまう。そこには彼がセシリアに惹かれて行く矛盾を見出すことができる。
彼はある意味、戦後10年間に渡り生きる屍であったわけで、彼が実際に死んだ時にセシリアが彼の為に一本の蝋燭に灯を点すラスト・シーンには深い鎮魂の思いが我々の心の中に湧き上り、作品に一貫する異様な静けさ、林立する蝋燭の美しさに名状し難い感銘を覚えざるを得ない。
霊感の強い僕の母も少女時代に伯父が死んだ瞬間に墓場で霊を見たと聞く。但し、当人ではなく、髪の長い女性の姿をしていたという。
1978年フランス映画 監督フランソワ・トリュフォー
ネタバレあり
フランソワ・トリュフォーが自ら主演する作品はいずれも、トリュフォーの三つの分野に入らない作品である。
1928年頃、先の大戦で生き残ったことが苦痛になっている新聞社編集部員ジュリアン(トリュフォー)は、また、新婚早々死んでしまった妻のことが忘れられず、妻の思い出の品が置かれた緑色の部屋で過ごすのを日課としている。
妻の実家が競売に付されることになり、思い出の指輪を手に入れようと出かけた先で助手セシリア(ナタリー・バイ)と知り合うが、彼女は少女時代彼を知っていて、同じように父の霊を敬っている。
やがて廃虚となっていた礼拝堂を手に入れて改装、蝋燭が林立する中で彼女と共に死者の霊を弔おうとするが、彼が裏切り者と思っている友人が彼女の元恋人ということを知って憤然、絶交状態になっている時に彼は病に伏してしまう。
「ねじの回転」で霊と縁の深いヘンリー・ジェームズの小説「死者の祭壇」「ジャングルの野獣」を土台にしているということだが、具体的には全く知らない。
それはともかく、死者を敬う気持ちの強い日本人の映画でさえ全くお目にかかったことのないような異色の内容である。
主人公はとにかく潔癖症(性)で、自分が生き残ったことも許せず、「思う相手は生涯一人でなければならない」とも思っている。
そんなわけで、死ぬ瞬間の父の生き霊を観たというセシリアが自分と同じような人間かと思ったら「愛する人は一人でなくても良い」と言うのみならず、裏切り者の恋人だったことを知って完全に調子が狂ってしまう。そこには彼がセシリアに惹かれて行く矛盾を見出すことができる。
彼はある意味、戦後10年間に渡り生きる屍であったわけで、彼が実際に死んだ時にセシリアが彼の為に一本の蝋燭に灯を点すラスト・シーンには深い鎮魂の思いが我々の心の中に湧き上り、作品に一貫する異様な静けさ、林立する蝋燭の美しさに名状し難い感銘を覚えざるを得ない。
霊感の強い僕の母も少女時代に伯父が死んだ瞬間に墓場で霊を見たと聞く。但し、当人ではなく、髪の長い女性の姿をしていたという。
この記事へのコメント
我がアラン・ドロンの気に入っている「緑色の部屋」にTBします。しかも、この「真夜中のミラージュ」では、ナタリー・バイとの共演です。
ドロンの嗜好には興味深いですね。他にレネの「24時間の情事」も好きな作品だそうです。案外深い恋愛観を持っているのでしょうか?
実は「緑色の部屋」は未見なんですが、レンタル等されているんですかね?オカピー評でも興味をそそられます。
さて、TBした記事は、姐さんとシュエットさんにわたしのロマンティズムを粉砕され、追い詰められて更新した記事です(笑)。ご高覧くださいませ。
では、また。
「緑色の部屋」と「二十四時間の情事」が好きなんて、
ドロン氏も隅に置けませんね(笑)。
>ナタリー・バイ
この映画の彼女は(も)なかなか良いですよ。
笑うシーンは勿論ないですが(笑)。
>レンタル等
ビデオのレンタルはあるようですが、トリュフォーのフィルモグラフィーの中でも恐らく一番不人気の作品ですからねえ。
>ロマンティシズム
はいはい。
トムさんはシュエットさんに「リアリストなんです!」と反論していませんでしたっけ?
>ご高覧
読みました。
作品を観ていないので内容については具体的に何とも言えませんが、速攻であれだけで記事をものしますか! 凄いなあ。
やはりトリュフォーの中で撮らなければならないものだったんだろうな、って、トリュフォーの今まで見せなかったというか、見えなかった一面を見たような思いに、ちょっと胸がつまる作品でもありました。できたてホヤホヤ。さきほどトムさんとこにもTBしてきました。
レンタル?
いわゆる普通のレンタルですか?
この作品が置いてありますか!
>トリュフォーの中で撮らなければならないもの
具体的な死のイメージ、即ち、自らの死の予感でもあったのでしょうか。
勘の良い(笑)僕もさすがにこの時点で、トリュフォーの死は予感できなかったです。