映画評「過去のない男」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2002年フィンランド映画 監督アキ・カウリスマキ
ネタバレあり
2004年映画鑑賞メモより。
アキ・カウリスマキは苦手とまでは行かないまでもピンと来ない部分が多い監督だったが、この作品は通俗的な要素を適度に取り入れ、素直に胸に染み込んでくる印象がある。台詞が少なく、素っ気ない場面転換は変わっていないが、気に入った。
ヘルシンキに流れてきた男マルッキ・ペルトラが数人の暴漢に教われ、瀕死の重体になる。医者が死を認めた後突然蘇り、ある僻地で記憶喪失の状態で発見される。親切な人々と知り合った後がめつい警官からバラックを借りる。
職業安定所が名前が不明という理由で受付せず困っていると救世軍のカティ・オウティネンと知り合う。好感を覚えた彼は生活を援助してもらうだけでなく、付き合いを申し込む。
仕事を得たと思った瞬間銀行強盗と遭遇してしまうが、再会した犯人は不条理に資産を抑えられた会社社長で動きが取れない自分に代わって従業員に給料を渡すよう依頼される。
素直に引き受けた彼が従業員達に給料を渡す場面はリアリスティックな感覚ではなく、寓話的な印象を受ける。登場人物が殆ど感情を出さないような観照的な手法を取りながら温かい印象を受けるのはどこかに現実離れした寓話性に支えられているように思う。大人のメルヘンなのだ。
銀行強盗と思われ新聞に載った顔を見て妻から彼の正体が判明するが、ヘルシンキへ移動する前離婚寸前だった彼はそのまま別れてヘルシンキへ戻り、カティと並んで夜の町に幸せそうに消えていく。
これまでの作品でも小津安二郎を感じさせる部分があったが、本作は戦前の小津作品をしばしば感じさせる。バンドの連中が足を一緒に動かす場面は小津が好んだ人物の行動の相似性であるし、人情と非人情が交わる内容は「喜八もの」に通ずるものがある。カンヌ・グランプリとは意外な感じもあるが、カウリスマキが最も小津に近づいた作品あり、見事な秀作である。
2002年フィンランド映画 監督アキ・カウリスマキ
ネタバレあり
2004年映画鑑賞メモより。
アキ・カウリスマキは苦手とまでは行かないまでもピンと来ない部分が多い監督だったが、この作品は通俗的な要素を適度に取り入れ、素直に胸に染み込んでくる印象がある。台詞が少なく、素っ気ない場面転換は変わっていないが、気に入った。
ヘルシンキに流れてきた男マルッキ・ペルトラが数人の暴漢に教われ、瀕死の重体になる。医者が死を認めた後突然蘇り、ある僻地で記憶喪失の状態で発見される。親切な人々と知り合った後がめつい警官からバラックを借りる。
職業安定所が名前が不明という理由で受付せず困っていると救世軍のカティ・オウティネンと知り合う。好感を覚えた彼は生活を援助してもらうだけでなく、付き合いを申し込む。
仕事を得たと思った瞬間銀行強盗と遭遇してしまうが、再会した犯人は不条理に資産を抑えられた会社社長で動きが取れない自分に代わって従業員に給料を渡すよう依頼される。
素直に引き受けた彼が従業員達に給料を渡す場面はリアリスティックな感覚ではなく、寓話的な印象を受ける。登場人物が殆ど感情を出さないような観照的な手法を取りながら温かい印象を受けるのはどこかに現実離れした寓話性に支えられているように思う。大人のメルヘンなのだ。
銀行強盗と思われ新聞に載った顔を見て妻から彼の正体が判明するが、ヘルシンキへ移動する前離婚寸前だった彼はそのまま別れてヘルシンキへ戻り、カティと並んで夜の町に幸せそうに消えていく。
これまでの作品でも小津安二郎を感じさせる部分があったが、本作は戦前の小津作品をしばしば感じさせる。バンドの連中が足を一緒に動かす場面は小津が好んだ人物の行動の相似性であるし、人情と非人情が交わる内容は「喜八もの」に通ずるものがある。カンヌ・グランプリとは意外な感じもあるが、カウリスマキが最も小津に近づいた作品あり、見事な秀作である。
この記事へのコメント
これもです。
人間は忘れるからいいんですよ。映画は憶えていたほうが良いかもしれませんが、人生には忘れたほうがいいこともあるから。同じ映画も何度も楽しめるし。
先週NHK-BS2でやっていたので、昔の記録から引っ張り出してきました。
眠い眠い。忙しい忙しい。
アキちゃんのベスト1です。次に好きなのが「浮き雲」です。後は似たようなレベルの作品がいっぱいありますね。
小津より冷たい感じがするのは、役者の顔つきのせいですかね。
「過去のない男」私はカウリスマキがジム・ジャームッシュ同様に小津を敬愛しているということですが、私自身、小津作品について数本見ただけでその味がまだよく分かりません。ただカウリスマキは好きな監督です。ツボにはまります。彼の作品に流れる音楽も好きです。カウリスマキ作品は「カウリスマキ的ド演歌の世界」と私は呼んでいます。敗者3部作「浮雲」と合わせて本作も記事UPしてます。TBさせていただきますね。私のブログにTB・コメントは無理なさらないでくださいね。シュエット♪