映画評「二十四時間の情事」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1959年フランス=日本映画 監督アラン・レネ
ネタバレあり
現在でこそ潜在意識を扱った作品も観られるが、ヌーヴェルヴァーグの中でも異色の才能アラン・レネのこの長編第一作は、映画で恐らく初めて潜在意識の顕在化を扱った野心作である。原作・脚本はアンチロマン作家マルグリット・デュラス。
広島に映画撮影に来たフランスの映画女優エマニュエル・リヴァが、ホテルで出会った日本人建築家・岡田英次と一目惚れして恍惚に身を浸す。
映画は、彼女の「私は広島を見た」、彼の「君は何も見ていない」という問答から始まるのだが、広島を捉えた悲惨な写真、映像、資料館の映像が挿入された後、彼女の頭にいつしか14年前故郷ヌヴェールで体験した悲劇が蘇って来る。
戦争末期ドイツ軍人と愛し合い、彼の射殺と共に訪れた終戦で彼女は髪を刈られ、やがてパリへ向ったその日「広島」を知ったのだという。
語るうちに岡田はいつの間にかドイツ人と一体化し、「彼」という表現が「あなた」に変る。過去の情事が現在の情事と重なり合い、広島は鏡のようにヌヴェールを反映し、岡田は「広島」そのものになっていく。
戦争の傷痕を情事の間に浮び上がらせた異色の反戦映画である。彼女は広島に仏日合作を撮りに来た女優という設定だから、現実と虚構が言わば合せ鏡のようになっていて、不思議な酩酊感がある。
内容はアンチロマン作らしく難解至極だが作り方は必ずしも難解ではなく、文字ではなく映像で<意識の流れ>を表現して全く素晴らしい完成度を誇る。映像も美しい。「去年マリエンバートで」「戦争は終った」「プロビデンス」などレネはどれも興味深く、好きな作家である。
1959年フランス=日本映画 監督アラン・レネ
ネタバレあり
現在でこそ潜在意識を扱った作品も観られるが、ヌーヴェルヴァーグの中でも異色の才能アラン・レネのこの長編第一作は、映画で恐らく初めて潜在意識の顕在化を扱った野心作である。原作・脚本はアンチロマン作家マルグリット・デュラス。
広島に映画撮影に来たフランスの映画女優エマニュエル・リヴァが、ホテルで出会った日本人建築家・岡田英次と一目惚れして恍惚に身を浸す。
映画は、彼女の「私は広島を見た」、彼の「君は何も見ていない」という問答から始まるのだが、広島を捉えた悲惨な写真、映像、資料館の映像が挿入された後、彼女の頭にいつしか14年前故郷ヌヴェールで体験した悲劇が蘇って来る。
戦争末期ドイツ軍人と愛し合い、彼の射殺と共に訪れた終戦で彼女は髪を刈られ、やがてパリへ向ったその日「広島」を知ったのだという。
語るうちに岡田はいつの間にかドイツ人と一体化し、「彼」という表現が「あなた」に変る。過去の情事が現在の情事と重なり合い、広島は鏡のようにヌヴェールを反映し、岡田は「広島」そのものになっていく。
戦争の傷痕を情事の間に浮び上がらせた異色の反戦映画である。彼女は広島に仏日合作を撮りに来た女優という設定だから、現実と虚構が言わば合せ鏡のようになっていて、不思議な酩酊感がある。
内容はアンチロマン作らしく難解至極だが作り方は必ずしも難解ではなく、文字ではなく映像で<意識の流れ>を表現して全く素晴らしい完成度を誇る。映像も美しい。「去年マリエンバートで」「戦争は終った」「プロビデンス」などレネはどれも興味深く、好きな作家である。
この記事へのコメント
トリュフォーのみならず、左岸派のレネまで、お書きになるとは凄いですね。レネがお好きとは驚きです。トリュフォーでいえば「華氏451」が、その傾向を持っているといえましょうか?
この作品は、わたしも先月、観たばかりです。実にセンセーショナルでしたね。
それにしても、レネは日本人より「ヒロシマ」を理解しようとしているように思いました。考えてみればフランスも戦勝国のなかでは、大戦の被害が最も大きかった国です。各国の問題は、その国だけの問題と考えるべきではないのでしょうね。
わたしは、最近、同じ左岸派のアニエス・ヴァルダに凝っています。彼女も素晴らしい作家です。
では、また。
おかしいんですよ。パソコンを開いたら昨晩のコメントバックが消えていたんです。
私は簡単な話を難しく語るワン・カーウァイのようなのは好きではないのですが、形而上的で難しいテーマを芸術的に語るのは好きなんです。テーマは難解でも、作り方が親切な印象があります。難しいテーマを真面目に考える気にさせてくれます。
用心棒さんは「夜と霧」を戦勝国の映画だと仰っていましたが、ちょっと違うような気がしています。先の大戦で真に戦勝国と言えるのはアメリカだけでしょう。他の国は国土が傷みました。ましてフランスはナチスの蹂躙も甚だしく、ナチスが撤退したから戦勝国扱いされますが、ドイツ以上に傷ついた国でしょう。その意味では日本に近い。
ヴァルダは「幸福」と「歌う女・歌わない女」が良いと思います。「幸福」はビデオを持っていますので、いずれ再鑑賞したいのですが、何でもみやろうという精神のおかげで、時間がなかなか許しません。
日本人建築家から求められるほどに、彼女自身の悲しい記憶が甦って苦しむ姿は今でも印象に残っていて、そんな二人が夜の広島の街をさまよう映像が素晴らしかった。
実は当時ヌーヴェル・ヴァーグ作品をいくつか観てほとんどわからなかったことが、今のブログをはじめた理由の一つになっていて、いずれ自分なりの見方が出来るようになりたいというのが一つの目標なのです。修行中ということでこの一年間ヌーヴェル・ヴァーグの映画は避けてきたのですが、オカピーさんのレビューを読んで、そろそろ何か観てみようかなと思い始めました。
ハリウッド王道映画や邦画の感動路線ばかり観ていたら、ヌーヴェルヴァーグにはびっくりでしょうね。この作品などは「難解」というレーベルを張っているような作品なのでまだ良いのですが、トリュフォーの「突然炎のごとく」になると、初心者は難しいという感覚がない代わりにピンと来ないのではないかと思います。
ゴダールは一時休業するまでは面白かったのですが、復帰後は復帰前の作品の焼き直しみたいで、余り面白いとは思えないのが殆どです。長い「映画史」は劇映画とは違って興味深かったですが。
クロード・シャブロルその他は小粒ですね。日本で全く未紹介だったエリック・ロメールが80年代以降日本で人気になったのはびっくりでした。
>用心棒さんは「夜と霧」を戦勝国の映画だと仰っていましたが、ちょっと違うような気がしています。
とのことですが、これは実に難しい見解の相違であると思っています。
フランスは、レジスタンスによってファシズムに勝利したことで共和国の誇りを失わずに済んだと同時に、祖国の被害は甚大で戦勝など無意味であることも悟ることができた国であるように思います(アルジェリア問題等、誤りも多くおかしていますが・・・)。特に旧敵国ドイツとともにイラク戦に対する反対声明を出していたことなどは、その両面が実に顕著に表れていた例なのではないでしょうか?
それに比して、常に大国追従の日本は、敗戦国家のコンプレックスが実に卑屈に出ている国だと思われます。しかし反対に、大きな戦災被害に見舞われたことで、何だかんだと言って今だに平和にこだわり続けている部分も持っている。
いずれにしても、何が悪で、何が正義であろうとも、パリ、京都・奈良の文化遺産はファシズムや正義の連合国においても、破壊することが不可能であった「本物」の人類の至宝であると思うのです。
「本物」はいかなる暴力にも、屈せず侵されないものであるのではないでしょうか?
わたしのブログなどスパムばかりで、いかに本物にほど遠いか・・・。
では、また。
関連作品なので、大いに構わないですよ。
どの国民性にも良い面と悪い面があるので、一元的に語ることはできませんね。
取引先にフランスがありました。彼らはプライドが高いので時に尊大になることがあり、自分たちの話す英語が正しい英語といった感じで話されるので閉口することもしばしば。
イラクに関して言えば彼らは極めて冷静に判断し、慧眼であったと思います。全体としてフランスの政治は判断力においてわが政府より優れている感があります。少子化対策を見てもしかり。
一方、わが国民は節操がないと作家の安岡章太郎氏が大昔に書いていますし、私にしても宗教的背景の薄い日本人にアメリカ的民主主義は不適合ではなかったかの感は拭えません。しかも、間違って定着してしまった。
日本と同じようにイラクに米国的民主主義を定着させようとしても無理でしょう。イスラム教徒の信仰心は余りにも強すぎる。
スパムの件は、トムさんのご謙遜ということにしておきましょう。
いや、そんなに有難がられて、誠に恐縮です。
そちらに該当作品は置かれてないのでしょうね(あればTBされているはずですから)。いつかお書きになりませんか。
ヌーヴェルヴァーグも色々ありますから、面白いものもありますよ、きっと。
解りにくいようで解りやすい作品ではないかと思います。寧ろそうした難解さが表面に出てこない「突然炎のごとく」などのほうが却って難しいかもしれないですね。
「去年マリエンバートで」「戦争は終った」「プロビデンス」がお奨めですが、「戦争は終った」は<却って難しい>タイプかも。
本日この作品の記事を書いてみました。拙い内容ではありますが、こっそりTBさせていただきます。
いつものことですが、力作ですね~。
私にはとても無理ざございます。長くなると同じことを書いてしまいそう(笑)。
難解故に却って解りやすいという変な作品かもしれませんね。
なんだかわたしなぞが登場してもよろしいのでしょうか?
というくらい内容の濃いコメント欄でございますね(汗)
すみません、おずおずとTB飛ばしますね(^^;)
わたしは「去年マリエンバートで」はさっぱりわかりませんでした。
まあ、観たのが高校生くらいでしたので、(もちろんレンタルですよ!)
当然かと・・・・
今度観てみたいと思ってます。
で、本作はとても気に入りました。予告編だけ観るとまたトンデモ日本な映画か!と思ってたのですが、それほどでもなかったし・・・
広島を流れる太田川とフランスのロワール川がシンクロするなどの発想がとてもフランス的ですね。
今観ても素晴らしいと思います。
岡田さんのフランス語にはビックリいたしました。(笑)
彼は和製ジャン・マレーなんですね。
フィルモグラフィー観たらすごい数!
ほとんど観ていないのですが「砂の女」は好きです。
時々充実する我がコメント欄です。
僕は大したことを言っておりませんが。
>去年マリエンバートで
大学生だったので面白かったです(笑)。
冗談はともかく、気持ちの良い難解さでした。かなりご機嫌になった記憶があります。
>岡田英次
慶応出身のインテリだけにフランス語にも堪能だったのでは?
当時は50年代から60年代の途中まではメジャー映画会社がばんばん作っていた時代ですから、年5~6作は当然でしたね。
>砂の女
僕も好きでしたね、これは。
彼の出演作では「香華」がお薦め。助演ですけどね。
「また逢う日まで」は1950年に映画評論家を「洋画もかくや」とメロメロにしたらしい。
僕らが今見るとその良さが分かりにくいのですけどね。
久しぶりに記事アップしましたのでTBします。
この作品は、若いころのアラン・ドロンがお気に入りだったようです。
たいへん、興味深かったので記事にしました。
>岡田英次
日本の俳優では三国連太郎とともに最も好きな俳優です。
こういった素晴らしい俳優さんが、だんだん減っていくのは淋しい限りですね。
では、また。
大腸検査はノー・プロブレムでした(僕はしつこくも小腸を疑っていますが、この癌になる確率はかなり低い、とのこと)。
昨日は昨日で、救急車で病院へ直行。心筋梗塞の疑いで運んでもらいましたが、金菌が壊れた気配はなく狭心症でもありませんでした。心臓神経症みたいで、尤も医師が嫌うタイプ。でも、心臓が異様な痛み方をしたのだから仕方がない。直前に瞬間意識がなくなりましたし。
>岡田英次
二枚目でしたし、外国でも通用するムードがありましたね。
今の役者に長く語られる人は少ないと思います。