映画評「息子のまなざし」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2002年ベルギー=フランス映画 監督ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
ネタバレあり
2004年映画鑑賞メモより。
ベルギーのダルデンヌ兄弟のドラマ。カンヌ映画祭でパルムドールを取った前作「ロゼッタ」はピンと来なかったが、本作は興趣に富む。そうなると、現金なものでふらつくカメラも気にならない。
職業訓練校で大工・木工を担当している教師オリヴィエ・グルメが、溶接の方から少年モルガン・マリンヌが回され当惑を隠せない。それを告白された妻は号泣する。少年は彼らの子供を殺した犯人で、少年院から出たばかりだった。しかし、教師は少年には真相を告げず、淡々と指導する。
彼の心情を察するに余りあるが、感情を抑えようとする表情がつらく、演出的にも観照に徹するので却って彼の心情が際立つ。
教師は少年を伴って兄の経営する木材置き場に向かうのだが、自動車の中で教師が少年に「何故少年院にいたのか」と尋ねる場面ではいやがおうにも教師と観客に緊張感が高まる。少年だけが事情を知らないというアンバランスさが心理サスペンス的に面白い効果を上げているのである。兄弟のスタイルから言って意図ではないのかもしれないが、結果として大変劇映画的になっていると言って良い。
置き場で遂に真相が告げられ、少年は恐怖で逃げ回る。教師は追い回すが、恐らくこの時点で傷つけるつもりはなかったと推測する。そして、最後に少年が黙々と一緒に角材を車に積む姿に観ている我々も感極まってしまう。
2002年ベルギー=フランス映画 監督ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
ネタバレあり
2004年映画鑑賞メモより。
ベルギーのダルデンヌ兄弟のドラマ。カンヌ映画祭でパルムドールを取った前作「ロゼッタ」はピンと来なかったが、本作は興趣に富む。そうなると、現金なものでふらつくカメラも気にならない。
職業訓練校で大工・木工を担当している教師オリヴィエ・グルメが、溶接の方から少年モルガン・マリンヌが回され当惑を隠せない。それを告白された妻は号泣する。少年は彼らの子供を殺した犯人で、少年院から出たばかりだった。しかし、教師は少年には真相を告げず、淡々と指導する。
彼の心情を察するに余りあるが、感情を抑えようとする表情がつらく、演出的にも観照に徹するので却って彼の心情が際立つ。
教師は少年を伴って兄の経営する木材置き場に向かうのだが、自動車の中で教師が少年に「何故少年院にいたのか」と尋ねる場面ではいやがおうにも教師と観客に緊張感が高まる。少年だけが事情を知らないというアンバランスさが心理サスペンス的に面白い効果を上げているのである。兄弟のスタイルから言って意図ではないのかもしれないが、結果として大変劇映画的になっていると言って良い。
置き場で遂に真相が告げられ、少年は恐怖で逃げ回る。教師は追い回すが、恐らくこの時点で傷つけるつもりはなかったと推測する。そして、最後に少年が黙々と一緒に角材を車に積む姿に観ている我々も感極まってしまう。
この記事へのコメント
そうした複雑な感情が、寡黙な主人公の表情にのみ読み取れるという演出は見事だと感じました。
特に車の中で「なぜ殺した?」と少年に詰め寄るシーンは私も名場面だと思います。「カーラジオを盗もうとした」と答える少年に対し、どこに向けてよいのか分からぬ主人公の憤りと、こんな善悪の判断さえつかない少年に子供の命を奪われてしまった父親の遣る瀬無い気持ちが、観る者の心をえぐります。
まるで父子のようにサッカーゲームをする場面で、少年が「少年院では無敵だった」と父親に自慢話をする。すると「この子は反省していないのか?」と主人公がイラ立つ。そんな演出も巧みですよね。
また、主人公と元妻との関係も、息子の死をきっかけに離婚したのだろうと観る者は勝手に推察するわけですが、離婚の経緯はあまり語られず、その代わり、別れてなお二人が互いを労わり合っている感じが、さりげなく描写されているのも巧くて、脚本に多くを頼らず状況を分かりやすく提示する手腕に感心しました。
この兄弟が、今後どういう形のドラマを観せてくれるのか、非常に楽しみになります。
04:50とは・・・朝が早いのでしょうか、夜が遅いのでしょうか(笑)。
「ある子供」のコメントで書きましたが、主人公が被害者なので余分な要素がなくても観客は満足しやすい。本来大衆的な私ですから、こちらには納得しましたね。省略・簡潔が本来の効果を発揮します。
車中の工まざるサスペンス効果も素晴らしかった。
二人で出かけた時点では既に教師は達観できていて、少年をどうする気もなかったと推察していますが、正確に解らないところが手に汗を握らせるんですね。
時にカンヌの選考基準は首をかしげることがあります。この作品はパルム・ドールを得られず、パンチ力の低い「ある子供」が最高賞に評される…。なんだか変(笑)。
ま、それはともかく。
プロフェッサーがコメントで仰られていたように、サスペンスの効果もさることながら、監督たちの本来持つ良さが一番いい形で結晶したと思うのがこの作品です。劇中高められたテンションが、ラストで昇華されていく醍醐味を最も味わえます。ぶれぶれのカメラ、一見とっちらかったままに見える映画の流れが、ある整合性のもとに演出されているのかなと思うのです。TBさせていただきます。
それにしても豆酢さんのいつもながらの詳細なレビュー、あそこまで行くと映画評というより研究文と言っていいと思いますが、凄いですね。
私は欲が深くて全ての映画を網羅したいので、どうしても総論的になりますが、それもまた良しでしょう。
「ある子供」はやはり犯罪者が主人公でかつ観客に何かを訴えようとする場合、要素をもっと加えないと一般的な観客が納得しにくい、というのが私の考察・・・何の変哲もない場面を描く時は少ないカットで済むが、登場人物が何か企んでいる時はカット数を数倍にしないといけないように。