映画評「歓びを歌にのせて」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2004年スウェーデン映画 監督ケイ・ポラック
ネタバレあり
2005年アカデミー外国語映画賞ノミネート作品という。
8年先までスケジュールが一杯で過労の余り心臓発作を起して倒れた名指揮者ダニエル(ミカエル・ニュクピスト)がリタイアして、何故かいじめられた苦い思い出しかない故郷の村に帰る。幼い時に村を出て名前も変えている為に村人には正体は知られていず、廃校の校舎を買取ってのんびりと暮らし始めるが、間もなく小さな教会のコーラス隊の指揮を頼まれる。
ここまでが起承転結の起承の部分に当たる部分だが、オーケストラとコーラスの指揮はまるで違うであろうから、彼も困惑したに違いない。
そんな主人公の夢は人々の心を解放する音楽を作ることで、村人の音楽を楽しむ姿勢にやってみようかという気持ちになって引き受ける。
メンバーの中には過去の苦い経験から奔放に男性遍歴を重ねる若いレナ(フリーダ・ハルグレン)、嫉妬深い夫の激しい暴力に耐える歌の上手いガブリエラ(ヘレン・ヒョホルム)、偽善的な夫との生活に不満を覚える牧師の妻インゲ(インゲラ・オールソン)、子供の頃から言葉のいじめを受けてきた太った中年男などがいるのだが、練習を続け、発表会を行うことで彼らの心が開かれて行く。
特にカブリエラがソロを披露したオリジナル曲は、彼女の暗い人生とオーヴァーラップして誠に素晴らしい。80年近いトーキー映画の登場人物が歌った楽曲の中でも最も感動的なナンバーの一つであり、この時点で指揮者の夢は半ば叶ったと言える。
自信を得た彼らはオーストリアで開かれるコンクールに参加するが、天使の翼が見えるというレナと結ばれた翌朝、指揮者は会場のトイレで倒れる。その耳に自然と湧き起こった会場全体の歌い声が届く。彼の夢はここに全うされるのである。
この指揮者が目指したものほど積極的なものではないとしても、音楽には人々の心を解放する力があることは日常でもたまに感じることがあり、本作で最も感動的なのは音楽が人々の魂を解放する瞬間を描いていることである。
牧師も彼が生涯を捧げている宗教も決して救うことのできなかった魂を、音楽が、そして、ひょっこりやって来た(実はそんなことはないことを観客は知っている)指揮者が簡単に救ってしまう。この辺りはスウェーデン映画の至宝イングマル・ベルイマンの諸作に通ずる宗教観である。あそこまでの厳粛さを求めるのはお門違いであるし、ダニエルを捉えた幕切れがもう一つ締まらない印象があるのは残念だが、興趣に富み、オスカーのノミネート作品になったのも頷ける。
配役は日本人には無名でいかにも一般人風であるが、いずれも充実。
2004年スウェーデン映画 監督ケイ・ポラック
ネタバレあり
2005年アカデミー外国語映画賞ノミネート作品という。
8年先までスケジュールが一杯で過労の余り心臓発作を起して倒れた名指揮者ダニエル(ミカエル・ニュクピスト)がリタイアして、何故かいじめられた苦い思い出しかない故郷の村に帰る。幼い時に村を出て名前も変えている為に村人には正体は知られていず、廃校の校舎を買取ってのんびりと暮らし始めるが、間もなく小さな教会のコーラス隊の指揮を頼まれる。
ここまでが起承転結の起承の部分に当たる部分だが、オーケストラとコーラスの指揮はまるで違うであろうから、彼も困惑したに違いない。
そんな主人公の夢は人々の心を解放する音楽を作ることで、村人の音楽を楽しむ姿勢にやってみようかという気持ちになって引き受ける。
メンバーの中には過去の苦い経験から奔放に男性遍歴を重ねる若いレナ(フリーダ・ハルグレン)、嫉妬深い夫の激しい暴力に耐える歌の上手いガブリエラ(ヘレン・ヒョホルム)、偽善的な夫との生活に不満を覚える牧師の妻インゲ(インゲラ・オールソン)、子供の頃から言葉のいじめを受けてきた太った中年男などがいるのだが、練習を続け、発表会を行うことで彼らの心が開かれて行く。
特にカブリエラがソロを披露したオリジナル曲は、彼女の暗い人生とオーヴァーラップして誠に素晴らしい。80年近いトーキー映画の登場人物が歌った楽曲の中でも最も感動的なナンバーの一つであり、この時点で指揮者の夢は半ば叶ったと言える。
自信を得た彼らはオーストリアで開かれるコンクールに参加するが、天使の翼が見えるというレナと結ばれた翌朝、指揮者は会場のトイレで倒れる。その耳に自然と湧き起こった会場全体の歌い声が届く。彼の夢はここに全うされるのである。
この指揮者が目指したものほど積極的なものではないとしても、音楽には人々の心を解放する力があることは日常でもたまに感じることがあり、本作で最も感動的なのは音楽が人々の魂を解放する瞬間を描いていることである。
牧師も彼が生涯を捧げている宗教も決して救うことのできなかった魂を、音楽が、そして、ひょっこりやって来た(実はそんなことはないことを観客は知っている)指揮者が簡単に救ってしまう。この辺りはスウェーデン映画の至宝イングマル・ベルイマンの諸作に通ずる宗教観である。あそこまでの厳粛さを求めるのはお門違いであるし、ダニエルを捉えた幕切れがもう一つ締まらない印象があるのは残念だが、興趣に富み、オスカーのノミネート作品になったのも頷ける。
配役は日本人には無名でいかにも一般人風であるが、いずれも充実。
この記事へのコメント
本作を私もBS放送で観ました。
で・・・プロフェッサーとは180度違う感想を持ちました^^;
これについては、近々、レビューを書こうと思っております。容赦のない批評になると思いますが、どうかご容赦くださいませね^^;
こちらこそお手やらかに。
スーパーに素晴らしいとは思わなかったですが、ハリウッド調の甘さとはまた違う寒さが少しだけ感じられる温かさが割合好きでしたね。
ハリウッドと違って固定観念に縛られず、観客を喜ばす方程式に自縄自縛にならない辺り欧州映画はさすがだな、などと思いましたが。
TBさせていただきました。
おっぴっ??
↑にどなたか、デッカイ、お土産持って来るって
“事前報告”していらっしゃる方、いますのね。(笑)
ほらね、
プロフェッサーのブ厚いお胸を映画ファンは
借りたいのよ~!
プロフェッサー~、私よりオチャメな異論者かもよ。
何せ、物書きさんのプロですから~。
プロフェッサー、“ガンバッ”!!
本作、私は悪くない出来だと思いました。
(弱いラストをのぞいては)
ガブリエラの歌をラストにすれば、とも。
すいませ~ん。週末はのんびり競馬とサッカー観戦です。
実を申せば本作はハリウッド的な予定調和を外しまくる演出に異議あり! なのです^^; 私をアンチ・ハリウッドと思われるのは一面当たっておりますが、それは反面間違った認識でございます。
本作レビューは明日朝にアップする予定でございます。どうかお手すきの折にでも、ご笑覧くださいますようお願いいたします <(_ _*)>
(拙宅の 『コーラス』 にレスを付けさせていただきました )
既にお解かりのように、私が「予定調和的なところがお嫌いなのでしょう」とずばり指摘致しましたら、大外れでございました(苦笑)。実際予定調和ではないですが。
本作に関しては、姐さんと90%くらい意見の一致を見ました。本文に「viva jijiさんのところに歌詞が載っているので、再確認されたい方はGO!」と書きたい気持ちもあります。
普段歌詞なんて禄に確認もしない私が印象に残ったのだから、それだけでも十分価値あるってもんです。
本作は、学園ものの秀作と評価し何度か観ている「いまを生きる」(皆様、本作⇒「コーラス」⇒「いまを生きる」という流れ、です)の半分の価値もない作品ですが、それでも良とはしたいところ。
「いまを生きる」は私の高校時代を彷彿とし感無量でした。
ムード醸成に優れたウィアーの演出ほどではないにしても「死せる詩人の会」を作り出した本も上出来で、わざとらしい幕切れにも素直に感動したのであります。教師を演じたロビン・ウィリアムズはジャック・ニコルスンほどではないにしても好きではないですが、この当時はまだ良かったと思います。
レビューをお待ちしております。
通常であれば、主人公がタクトを振って、その後絶命するというのがお約束ですからね。ちょっと意表をつかれました。
>ラスト
確かに意表を突かれますね。
ただ、もう少しカットバックや描写が締まらないかな、
という気にはなりました。