映画評「空中庭園」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年日本映画 監督・豊田利晃
ネタバレあり
角田光代の小説を豊田利晃が自ら脚色してメガフォンを取った作品。監督自身の逮捕で変な話題を呼んでしまったが、勿論映画の評価に影響を与えるものではない。
学校でイジメを受けても母親に無視された少女時代の記憶のある主婦・小泉今日子は、それを反面教師として、無難なタイプの青年だった板尾創路を夫に選び、高校生の娘・鈴木杏と中学生の息子・広田雅裕と<理想的>な家庭を営んでいる。
その象徴が「隠しごとをしない」というルールであるが、実は妻と5年も関係のない夫は愛人を持っているし、娘はバスには乗るが学校には行かない。息子が家庭教師に選んだソニンは実は夫の愛人で、誕生会での彼女の一言が家族の仮面を剥ぎ取り、嘘で保たれていた関係はたやすく瓦解してしまう。
ユージーン・オニールやテネシー・ウィリアムズの戯曲を思い出させる構成で、現代における家族関係の脆弱を描いた内容として大変興味深いが、演出が過剰で嫌になってしまうところがある。タイトルへと繋がって行く振り子のようなカメラワークは後半でもしつこく出てきて文字通り酔ってしまうし、最終盤ヒロインが血のような雨を受ける象徴的場面も気に入らない。
しかし、一度は崩壊したと思われた家族の関係がそのまま終らないのは新趣向である。彼女が、母親の「お誕生日おめでとう」の一言で自ら歪めていた過去を粉砕し、実はきちんと面倒を見て貰っていたらしい正しい過去を認識して再生して行くところで終るのは正に感動的と言って良い。
ラブホテル【野猿】を一種の狂言回しにしたアイデアも面白い。
2005年日本映画 監督・豊田利晃
ネタバレあり
角田光代の小説を豊田利晃が自ら脚色してメガフォンを取った作品。監督自身の逮捕で変な話題を呼んでしまったが、勿論映画の評価に影響を与えるものではない。
学校でイジメを受けても母親に無視された少女時代の記憶のある主婦・小泉今日子は、それを反面教師として、無難なタイプの青年だった板尾創路を夫に選び、高校生の娘・鈴木杏と中学生の息子・広田雅裕と<理想的>な家庭を営んでいる。
その象徴が「隠しごとをしない」というルールであるが、実は妻と5年も関係のない夫は愛人を持っているし、娘はバスには乗るが学校には行かない。息子が家庭教師に選んだソニンは実は夫の愛人で、誕生会での彼女の一言が家族の仮面を剥ぎ取り、嘘で保たれていた関係はたやすく瓦解してしまう。
ユージーン・オニールやテネシー・ウィリアムズの戯曲を思い出させる構成で、現代における家族関係の脆弱を描いた内容として大変興味深いが、演出が過剰で嫌になってしまうところがある。タイトルへと繋がって行く振り子のようなカメラワークは後半でもしつこく出てきて文字通り酔ってしまうし、最終盤ヒロインが血のような雨を受ける象徴的場面も気に入らない。
しかし、一度は崩壊したと思われた家族の関係がそのまま終らないのは新趣向である。彼女が、母親の「お誕生日おめでとう」の一言で自ら歪めていた過去を粉砕し、実はきちんと面倒を見て貰っていたらしい正しい過去を認識して再生して行くところで終るのは正に感動的と言って良い。
ラブホテル【野猿】を一種の狂言回しにしたアイデアも面白い。
この記事へのコメント
映像をイジクリ回すやり方は面白いよりも
シュールでマンガ的に私には映りました。
ただお話の内容的には言いたいことだけは
軸ブレしていなかったのは好印象でしたが。
余計なことしていないのに
2コもTB入ってしまっています。
削除のほうお願いします。
私のほうからプロフェッサーにTBしないと
プロフェッサーから私んチへそれが出来ないし、
私から、それ~~!ってTBすれば、2コも、入る。
トホホのホ・・・でございます。(笑)
珍しい時間にお越しですね。
振り子のように円弧を描くカメラに私は文字通り酔っ払ってしまいました。こんなの、映画館で観たらたまらんなあ。
非常に演劇的な構成で面白い部類でしたよ。
それから、あれはいつものLivedoorのボケのせいなのは分っております。コメントがなくても削除致しますので、お気楽にどうぞ。
映画の嗜好というのは人それぞれで、結局のところ「その作品 対 私」 という関係でしか成り立たないもののようです。「いまを生きる」 については失礼があったかもしれません。どうかご容赦くださいませ。
また「歓びを歌にのせて」 では、プロフェッサーより御指南いただきました通り、あくまで「論理的に」揚げ足取りしてしまいました^^;
若気の至りですので、重ねてお赦しを <(_ _*)>
本作については、ほぼ同じ意見でございます。無駄に技巧に走ったカメラワークやら、赤い雨などのメタファーには、心を動かされるどころか逆に退いてしまいました。物語の題材としては面白く、もっと良くなりそうな作品なだけに、演出の過剰さがアダになったというご指摘はその通りだと思います。
私もちょっとまずかったかなと反省しております。姐さんからもっとファジーにやりなさいと怒られたばかりだというのに、学習能力がないばか者です。
生まれついて説教癖があるのと、映画のレベルは映画ファンが作り出すという思いが強いので、どうも余計なことを言ってしまいます。
「いまを生きる」については私は先生より、「死せる詩人の会」の生徒たちが良かったんです。あれは正に自分の学生時代そのものだ、という印象がありましたから。そういう意味では仰る通りなんでしょうね。
「歓びを歌にのせて」が私が褒めたように感じるのは、基本的に私の設定する水準が低いから相対的に褒めることになったということがあるのだろうと思います。絶対的に気に入った作品ではありません。viva jijiさんのコメントが的を射ているように思いましたね。(続く)
その通りなんです。
何故ならハリウッドで映画を作っている監督がが全てつまらない映画ばかり生み出す映画会社べったりの主流派ではないわけですから。イーストウッド、タランティーノ、ティム・バートン、故キューブリックなど映画作家と言われるタイプの人々は、ハリウッドで仕事をしていてもアンチ・ハリウッドです。勿論ハンガリー出身のミロシュ・フォアマンしかり。「宇宙戦争」でも語りましたが、スピルバーグも今の時代ではアンチ・ハリウッドでしょう。
私も、残念ながら、アンチ・ハリウッドです。
アンチ・ハリウッドと言えばそうなのかもしれませんが、私は古き良きハリウッドの影を追ってしまう映画ファン、ということなのだと思います^^;
「昔は良かったなあ」といった懐古趣味に走らず「昨日より今日、今日より明日に名作あり」と私は常に主張していますが、ちょっと虚しく感じられる今日このごろ。
プロフェッサーがご指摘の通り、一部には素晴らしいクリエイターも存在しています。ですから十羽一からげで「ハリウッドは死んだ」なんて、全く思わないのですが、その裏で子供たちに銃やドラッグを売るような拝金主義のビジネスマンが、ハリウッド映画界を牛耳っている現状も見逃しにはできません。映画が文化遺産となることを無視した映画作りには常に疑問を感じ、憤りさえ覚えるのです。
映画を観て「これは説教くさくてダメだな」と常套句のように使いますが、知恵者が映画の見方を「説教」するのは、決して悪いことではないと思っています。おっしゃられるように、映画ファンの民度が上がることが、映画の質を向上させるのは疑う余地もございません。
ですから、プロフェサーがブログを介して説教するのは大いに結構なことだと思います。
「タダで映画の見方を教えてやるぞ! ついて来い!」
くらいの気概でお願いします(笑)
ちなみに、私の映画観は、作家としての特殊な好悪に基づくものなので、押し付けがましくならぬよう、できるだけ小声でボソボソと語るようにしております^^;
私も影は追っていますよ。しかし、CGがこれだけ全盛になってしまうと巧い監督は出てきませんねえ。
いずれにしても、現状では、最近お坊ちゃまたちの評判が今一つのスピルバーグの滑らかな語りが断然光っています。ぎごちなかったり、ぎくしゃくしたりといったことを彼は決してしませんが、若い人たちは上辺の華美しか追わないから。
半分くらいは私の性格と立場をご理解戴けたようでありがたいと思っておりますが、混乱の元ですので、人のブログでは余り説教をぶたないことにします。つい口がすべることもあるでしょうが、一つ穏便にお願い致します。
たいへん長らくお待たせ致しまして申し訳ございません。
2回続けて全編観ました。
ご質問の確認から。
「真実の回想」か「過去を修整する幻想」か、ですよね。
私の考えは両方に感じました。
①息子の航の語り・・・「思い込みが激しいと真実が見えなくなる」
これから導き出される直接の答えとすれば
あの回想は「真実」なんでしょう。
②祖母さと子(大楠道代)の「アイスクリームを一匙もくれなかった」
という記憶が「思い込み」とするならば、さと子自身が中盤で
つぶやいた「くりかえし、やりなおし」があそこで活きてきて
「修整の幻想」という解釈でもいいと思うのです。
不快とも言える血の雨と小泉今日子の絶叫は
「人間は泣きながら血まみれで産まれてくる」を
大幅にデフォルメした表現でしたがこのテンポとこの内容の
邦画には合わないなあ~と再確認しました。
しかし計3回鑑賞しましたが特に後半部のたたみかける
ような構成はなかなか良い出来ではなかったでしょうか。
ユラユラと血の雨が無くても、良い映画になると思いましたけど。
どうも有難うございます。
私もどっちもあり得るなあと思います。娘が言ったのかと思ったら息子が言っておりましてこれは思い違いでしたね。いと恥ずかし。
一般的なドラマツルギーから言えば①と解釈すべきでしょうが、しかし、そうした一般的な解釈を超えたような作りですから、②であっても納得です。
「くりかえし、やりなおし」という何度も繰り返される台詞が、まるで振り子のようなカメラワークとダブって来たのは私だけでしょうか?
あの終わらせ方は、原作よりも、優しい感じになっているんじゃないでしょうか。
小泉ファンの私としましては、彼女の舞台挨拶にも遭遇することができて幸せな上映時間でした。
映画がどんなでもいいのです。こんな主役を張れる女優さんになったというだけで、嬉しいのでした。
あの演出が過剰だったのか、必然だったのかと問われれば微妙ですが、鑑賞した段階では過剰だったと判断致しました。
最後はともかくあの揺れをもう少し抑えれば★一つUPしました。
私のベスト1も最近では☆4つが普通ですから、かなり上位に食い込んだかもしれません。
豊田監督はこれが3本目だと思いますが、力量がありそうですね。
不勉強で原作は読んでいませんが、凄くホッとするような幕切れだと思いました。
カメラ酔いさえなければ、といったところです(笑)。
小泉ファンとは存知上げませんでした。
なかなか良い演技でしたよね。年功だけを重ねて上手くならない女優も多い中で、立派です。演技に触れなかったのはまずかったですね(汗)。
いや、映画も良かったんですよ。しかし、ちょっと揺らしすぎでしたなあ。
キョンキョンは怖かったですが、
誰もが持っているかも知れない理想的な家庭への執着。
重くなりすぎずユーモアもあって、楽しめました。
ラスト近くのバスの中の3人の会話のシーン、結構好きです♪
家族の偽善というのはかなり古いテーマだとは思いますが、強烈でしたね。コンビニで振り返ったキョンキョンの顔は恐ろしかった。ホラー映画など目じゃないです^^;)
ただ私はカメラの揺らしすぎが気になりました。文字通り酔ってしまうんですよ。しかし、大楠道代の「くりかえし、やりなおし・・・」と続く独り言のような台詞が時計の振り子のように揺れ動くカメラとイメージが重なるのは巧いなあと思いましたね。