法廷映画ベスト・セレクション20+α
映画記事1000稿記念には何が良いかと考えておりました。大好きな映画をピックアップするのも良いだろうが、企画物がよりふさわしいかと思い、本館で止まっている<ジャンル別ベスト>をここでやってしまうことにした次第。しかし、これが映画評数稿分に相当する難作業なのであります。
ということで、今回取り上げますのが裁判映画もしくは法廷ものです。一般的に社会性を持った娯楽作品が多いわけですが、強引に社会派と娯楽派の二つに分けて選出してみました。厳密な線引きはないので、文句は言わないように(笑)。
◆社会派ベスト10◆
1位・・・十二人の怒れる男(1957年アメリカ映画)シドニー・ルメット監督
裁判・法廷映画では何と言っても余りにも有名なこれ。アメリカの陪審員制度が日本の庶民に知れ渡ったのも本作によるところが大きい。真夏の暑い盛りであることだし、ヤンキーズの試合も始まるし、早く有罪にして決着をつけようやというムードを、正義漢ヘンリー・フォンダが変えていく。緻密な心理描写に裏打ちされた討論場面の面白さが抜群だった。
2位・・・裁きは終りぬ(1950年フランス映画)アンドレ・カイヤット監督
カイヤットも今では知る人が少なくなったが、フランスの社会派の巨匠で、「愛の終りに」も裁判絡みの作品だった。本作は比較的初期の秀作で、安楽死という問題を陪審員制度に絡め、一元的に答えの出せない問題もあるということを主張していたように記憶している。
3位・・・真昼の暗黒(1957年日本映画)今井正監督
日本の冤罪事件として有名な八海(やかい)事件を係争中にも拘らず無罪説の立場で描いた傑作で、裁判そのものより警察が無理矢理自白に追い込んでそれを証拠とする部分に戦慄を覚えた。自白が最有力証拠だった時代の日本が舞台の、文字通り<真昼の暗黒>と言いたくなる内容だった。
同じようなタイプに山本薩夫の「松山事件」という作品もあるが、比べると物足りない。
4位・・・死刑台のメロディ(1971年イタリア=フランス映画)監督ジュリアーノ・モンタルド
アメリカ労働運動弾圧事件として余りにも有名なサッコ=ヴァンゼッティ事件を映画化した作品で、労働運動を抑える為に殺人事件の実行者としてイタリア系移民サッコとヴァンゼッティの二人に死刑判決が下る。これも<真昼の暗黒>だ。義憤にかられ、ジョーン・バエズの主題曲に涙を流した。
5位・・・アラバマ物語(1962年アメリカ映画)ロバート・マリガン監督
レイプ事件に人種差別問題を絡めた文字通り社会派の作品で、大根と言われたグレゴリー・ペックの演技が珍しく評価された作品だが、僕の心を打ったのは、それより「となりのトトロ」の原型が観られる子供と隣の謎めいた男(ロバート・デュヴォール)との交流なのでした。
6位・・・ニュールンベルグ裁判(1961年アメリカ映画)スタンリー・クレイマー監督
日本では戦犯となる人々に判決を下した東京裁判があったが、ドイツではナチスに協力した司法関係者たちが米国に裁かれる裁判があった。その模様をサスペンスフルに再現したのが本作。スペンサー・トレイシー、リチャード・ウィドマークなどオールスター・キャストで、演技合戦を楽しませるという趣向もあり娯楽性たっぷり。ドキュメンタリー映画「東京裁判」は娯楽映画ではないので、ここでは取り上げない。
7位・・・チャップリンの殺人狂時代(1947年アメリカ映画)チャールズ・チャップリン監督
映画としてはもっと上に置いてもいいが、厳密には法廷ものとは言えないのでこの辺りにしておきます。何と言っても主人公の法廷での「戦争で活躍した英雄に比べれば、私などものの数ではない」という戦争批判の言葉が痛烈だった。
8位・・・39 刑法第三十九条(1999年日本映画)森田芳光監督
世間と反対で僕は「黒い家」と本作で森田芳光を再評価した。若い時はタッチに突っ張った感じのあった彼がいつの間にか古典的な演出を披露するようになった。刑法39条とは心神喪失は罰せられず、心神耗弱の場合刑を軽減するという条項で、そこにメスを入れ娯楽性たっぷりに仕上げた点を高く買う。
9位・・・評決のとき(1996年アメリカ映画)監督ジョエル・シューマッカー
ジョン・グリシャム原作の法廷ものは幾つも映画化されていて、いずれも同じくらいの出来栄えで選出に困るが、とりあえず人種問題が大々的に絡んでくる本作を代表の一本としておきたい。娯楽寄りだが「ザ・ファーム 法律事務所」に代えても大きな問題はない。
10位・・・ひかりごけ(1992年日本映画)熊井啓監督
人肉裁判は「ヴェニスの商人」だが、こちらは実際に人肉を食してしまったらしい船長が裁かれる様を描いた武田泰淳の同名小説の映画化。舞台劇的なムードが濃い陰鬱な異色作で、幻想的な場面が織り込まれ、妙な迫力があるが、誰にもお奨めできる作品ではない。
◆娯楽派ベスト10◆
1位・・・情婦(1957年アメリカ映画)ビリー・ワイルダー監督
アガサ・クリスティの戯曲「検察側の証人」を話術の巧いワイルダーが映画化した傑作中の傑作。虚々実々の駆け引きの面白さと予想外の展開にあっと言う間に観終わってしまう。マレーネ・ディートリッヒが個性を生かした好演。TVムービー版もあるが、比較にならない。
2位・・・評決(1982年アメリカ映画)シドニー・ルメット監督
医療過誤にメスを入れた内容なので、社会派に入れても良いのだが、バランスの関係でこちらに入れた。「十二人の怒れる男」のルメットが久しぶりに絶好調だったのが本作。あの作品と違うのは弁護士ポール・ニューマンの個人的事情をたっぷり描きこんだ辺りで、人間劇としての面白さも満開だった。
3位・・・12人の優しい日本人(1991年日本映画)中原俊監督
裁判・法廷映画を語る時避けて通れない「十二人の怒れる男」のパロディ映画で、日本に陪審員制度があったらという仮定で繰り広げられる討論劇。面白かったなあ。日本でも2009年から裁判員制度が始まりますが、どうなることやら。僕は他人の運命など決めたくないな。
4位・・・事件(1978年日本映画)野村芳太郎監督
大岡昇平原作。二人の姉妹に愛された青年・永島敏行が姉殺しのかどで断罪されるお話で、所謂「藪の中」状態のまま終るところに社会性もあるわけだが、僕は娯楽的に楽しんだ。妹役・大竹しのぶのニュアンスに富む演技が目立った。なるほど、これが後のボウリング女か(笑)。
5位・・・ア・フュー・グッドメン(1992年アメリカ映画)ロブ・ライナー監督
裁判映画にも色々ありまして軍事法廷の代表格として本編を推薦。基地内の殺人事件を扱い、トム・クルーズ、デミー・ムーア、ジャック・ニコルスン主演なので、若い人にも興味が持てるでしょう。西部劇の「バファロー大隊」も内容的に同じグループに入れたい佳作。「軍法会議」は裁判までが全くつまらず、最近のサスペンス「ハイ・クライムズ」は裁判そのものには関心がないようだった。
6位・・・神阪四郎の犯罪(1956年日本映画)久松静児監督
石川達三の同名小説の映画化で、久松監督は些か畑違いではないかと思われたが、意外と巧く作っていた。偽装心中事件の容疑者として告発された男(森繁久弥)をめぐる、これも「藪の中」。
7位・・・或る殺人(1959年アメリカ映画)オットー・プレミンジャー監督
160分に及ぶ長編で、妻を犯した男を殺した青年将校をジェームズ・スチュワートが弁護する。ジャズ好きの弁護士が調子に乗りすぎて興醒めるところもあるが、見ごたえはある。
8位・・・推定無罪(1990年アメリカ映画)アラン・J・バクラ監督
製作者上がりにしては良い映画を発表していたバクラは本作の8年後つまらない交通事故に巻き込まれて亡くなった。それはさておき、本作の眼目は、被害者が女性検事補で、容疑者が主席検事補(ハリスン・フォード)という本来なら訴える立場の者が当事者になるという設定。バクラはそれをミステリーとしてがっちり映画化していた。
9位・・・陪審員(1996年アメリカ映画)ブライアン・ギブスン監督
文字通り陪審員をテーマにしたサスペンス映画で、所謂法廷ものではないが、陪審員に選ばれたデミー・ムーアがピンチを迎える様子にヒヤヒヤさせられ、抜群とは言えないものの面白かった。
最近の「ニューオーリンズ・トライアル」では序盤の陪審員が選ばれる場面に異色の面白さがあったのだが、後半尻すぼみになった感があって選より洩れる。
10位・・・パラダイン夫人の恋(1947年アメリカ映画)アルフレッド・ヒッチコック監督
ヒッチコックとしては全く褒められない作品だが、裁判の裏表を同時にじっくりと描いた作品は多そうで意外と少ないので、最後に入れておきたい。被告アリダ・ヴァリに恋をしてしまった弁護士グレゴリー・ペックが彼女をどう弁護するのか、というのが興味。
◆番外編◆
近代的裁判に入れられないものから数本。
1位・・・羅生門(1950年日本映画)黒澤明監督
これぞ「藪の中」裁判劇の元祖。原作は勿論芥川龍之介の「藪の中」。些かくどい感じが残ってしまうが、種々の映画に影響を与えたという点では殆ど類を観ない画期的作品と言って良い。森の中で反射鏡を利用した撮影が見事だった。主演の森雅之、京マチ子の耽美的魅力も素晴らしい。
影響下にある作品としては、戦争映画「戦火の勇気」、ミュージカル「魅惑の巴里」は殆どそのままの転用で、クェンティン・タランティーノの「パルプ・フィクション」は応用編と思っている。
2位・・・裁かるゝジャンヌ(1928年フランス映画)カール・ドライヤー監督
ジャンヌ・ダルクと言えば信心の人であるが、デンマークの巨匠カール・ドライヤーの作り出す映像世界も神がかっていると思わせることが多い。裁判模様より緻密な凝視的な手法で彼女の心の襞を描き出した映画史に残る傑作。
3位・・・ジャンヌ・ダルク裁判(1962年フランス映画)ロベール・ブレッソン監督
ブレッソンはその簡潔性を以って映画から神性を生み出すことができた稀有な映画作家。その意味で前出のドライヤーとも共通する持ち味だが、同じ様にジャンヌ・ダルクをテーマにしても、人間的に捉えた「裁かるゝジャンヌ」より宗教的な匂いが濃厚。どちらも捨てがたい。
4位・・・ヴェニスの商人(2004年アメリカ=イタリア=ルクセンブルク=イギリス映画)マイケル・ラドフォード監督
シェークスピアの余りにも有名な喜劇なのに、TV映画化は何度もあるものの、トーキー以降では初の本格映画化になると聞いて驚いた。実質的には恋愛喜劇なのだが、後半の人肉裁判は余りにも有名であるし、本作では見ごたえたっぷりに描かれているので取り上げてみた。ヴェニスの商人シャイロックを演じたアル・パチーノが見事だった。
ということで、今回取り上げますのが裁判映画もしくは法廷ものです。一般的に社会性を持った娯楽作品が多いわけですが、強引に社会派と娯楽派の二つに分けて選出してみました。厳密な線引きはないので、文句は言わないように(笑)。
◆社会派ベスト10◆
1位・・・十二人の怒れる男(1957年アメリカ映画)シドニー・ルメット監督
裁判・法廷映画では何と言っても余りにも有名なこれ。アメリカの陪審員制度が日本の庶民に知れ渡ったのも本作によるところが大きい。真夏の暑い盛りであることだし、ヤンキーズの試合も始まるし、早く有罪にして決着をつけようやというムードを、正義漢ヘンリー・フォンダが変えていく。緻密な心理描写に裏打ちされた討論場面の面白さが抜群だった。
2位・・・裁きは終りぬ(1950年フランス映画)アンドレ・カイヤット監督
カイヤットも今では知る人が少なくなったが、フランスの社会派の巨匠で、「愛の終りに」も裁判絡みの作品だった。本作は比較的初期の秀作で、安楽死という問題を陪審員制度に絡め、一元的に答えの出せない問題もあるということを主張していたように記憶している。
3位・・・真昼の暗黒(1957年日本映画)今井正監督
日本の冤罪事件として有名な八海(やかい)事件を係争中にも拘らず無罪説の立場で描いた傑作で、裁判そのものより警察が無理矢理自白に追い込んでそれを証拠とする部分に戦慄を覚えた。自白が最有力証拠だった時代の日本が舞台の、文字通り<真昼の暗黒>と言いたくなる内容だった。
同じようなタイプに山本薩夫の「松山事件」という作品もあるが、比べると物足りない。
4位・・・死刑台のメロディ(1971年イタリア=フランス映画)監督ジュリアーノ・モンタルド
アメリカ労働運動弾圧事件として余りにも有名なサッコ=ヴァンゼッティ事件を映画化した作品で、労働運動を抑える為に殺人事件の実行者としてイタリア系移民サッコとヴァンゼッティの二人に死刑判決が下る。これも<真昼の暗黒>だ。義憤にかられ、ジョーン・バエズの主題曲に涙を流した。
5位・・・アラバマ物語(1962年アメリカ映画)ロバート・マリガン監督
レイプ事件に人種差別問題を絡めた文字通り社会派の作品で、大根と言われたグレゴリー・ペックの演技が珍しく評価された作品だが、僕の心を打ったのは、それより「となりのトトロ」の原型が観られる子供と隣の謎めいた男(ロバート・デュヴォール)との交流なのでした。
6位・・・ニュールンベルグ裁判(1961年アメリカ映画)スタンリー・クレイマー監督
日本では戦犯となる人々に判決を下した東京裁判があったが、ドイツではナチスに協力した司法関係者たちが米国に裁かれる裁判があった。その模様をサスペンスフルに再現したのが本作。スペンサー・トレイシー、リチャード・ウィドマークなどオールスター・キャストで、演技合戦を楽しませるという趣向もあり娯楽性たっぷり。ドキュメンタリー映画「東京裁判」は娯楽映画ではないので、ここでは取り上げない。
7位・・・チャップリンの殺人狂時代(1947年アメリカ映画)チャールズ・チャップリン監督
映画としてはもっと上に置いてもいいが、厳密には法廷ものとは言えないのでこの辺りにしておきます。何と言っても主人公の法廷での「戦争で活躍した英雄に比べれば、私などものの数ではない」という戦争批判の言葉が痛烈だった。
8位・・・39 刑法第三十九条(1999年日本映画)森田芳光監督
世間と反対で僕は「黒い家」と本作で森田芳光を再評価した。若い時はタッチに突っ張った感じのあった彼がいつの間にか古典的な演出を披露するようになった。刑法39条とは心神喪失は罰せられず、心神耗弱の場合刑を軽減するという条項で、そこにメスを入れ娯楽性たっぷりに仕上げた点を高く買う。
9位・・・評決のとき(1996年アメリカ映画)監督ジョエル・シューマッカー
ジョン・グリシャム原作の法廷ものは幾つも映画化されていて、いずれも同じくらいの出来栄えで選出に困るが、とりあえず人種問題が大々的に絡んでくる本作を代表の一本としておきたい。娯楽寄りだが「ザ・ファーム 法律事務所」に代えても大きな問題はない。
10位・・・ひかりごけ(1992年日本映画)熊井啓監督
人肉裁判は「ヴェニスの商人」だが、こちらは実際に人肉を食してしまったらしい船長が裁かれる様を描いた武田泰淳の同名小説の映画化。舞台劇的なムードが濃い陰鬱な異色作で、幻想的な場面が織り込まれ、妙な迫力があるが、誰にもお奨めできる作品ではない。
◆娯楽派ベスト10◆
1位・・・情婦(1957年アメリカ映画)ビリー・ワイルダー監督
アガサ・クリスティの戯曲「検察側の証人」を話術の巧いワイルダーが映画化した傑作中の傑作。虚々実々の駆け引きの面白さと予想外の展開にあっと言う間に観終わってしまう。マレーネ・ディートリッヒが個性を生かした好演。TVムービー版もあるが、比較にならない。
2位・・・評決(1982年アメリカ映画)シドニー・ルメット監督
医療過誤にメスを入れた内容なので、社会派に入れても良いのだが、バランスの関係でこちらに入れた。「十二人の怒れる男」のルメットが久しぶりに絶好調だったのが本作。あの作品と違うのは弁護士ポール・ニューマンの個人的事情をたっぷり描きこんだ辺りで、人間劇としての面白さも満開だった。
3位・・・12人の優しい日本人(1991年日本映画)中原俊監督
裁判・法廷映画を語る時避けて通れない「十二人の怒れる男」のパロディ映画で、日本に陪審員制度があったらという仮定で繰り広げられる討論劇。面白かったなあ。日本でも2009年から裁判員制度が始まりますが、どうなることやら。僕は他人の運命など決めたくないな。
4位・・・事件(1978年日本映画)野村芳太郎監督
大岡昇平原作。二人の姉妹に愛された青年・永島敏行が姉殺しのかどで断罪されるお話で、所謂「藪の中」状態のまま終るところに社会性もあるわけだが、僕は娯楽的に楽しんだ。妹役・大竹しのぶのニュアンスに富む演技が目立った。なるほど、これが後のボウリング女か(笑)。
5位・・・ア・フュー・グッドメン(1992年アメリカ映画)ロブ・ライナー監督
裁判映画にも色々ありまして軍事法廷の代表格として本編を推薦。基地内の殺人事件を扱い、トム・クルーズ、デミー・ムーア、ジャック・ニコルスン主演なので、若い人にも興味が持てるでしょう。西部劇の「バファロー大隊」も内容的に同じグループに入れたい佳作。「軍法会議」は裁判までが全くつまらず、最近のサスペンス「ハイ・クライムズ」は裁判そのものには関心がないようだった。
6位・・・神阪四郎の犯罪(1956年日本映画)久松静児監督
石川達三の同名小説の映画化で、久松監督は些か畑違いではないかと思われたが、意外と巧く作っていた。偽装心中事件の容疑者として告発された男(森繁久弥)をめぐる、これも「藪の中」。
7位・・・或る殺人(1959年アメリカ映画)オットー・プレミンジャー監督
160分に及ぶ長編で、妻を犯した男を殺した青年将校をジェームズ・スチュワートが弁護する。ジャズ好きの弁護士が調子に乗りすぎて興醒めるところもあるが、見ごたえはある。
8位・・・推定無罪(1990年アメリカ映画)アラン・J・バクラ監督
製作者上がりにしては良い映画を発表していたバクラは本作の8年後つまらない交通事故に巻き込まれて亡くなった。それはさておき、本作の眼目は、被害者が女性検事補で、容疑者が主席検事補(ハリスン・フォード)という本来なら訴える立場の者が当事者になるという設定。バクラはそれをミステリーとしてがっちり映画化していた。
9位・・・陪審員(1996年アメリカ映画)ブライアン・ギブスン監督
文字通り陪審員をテーマにしたサスペンス映画で、所謂法廷ものではないが、陪審員に選ばれたデミー・ムーアがピンチを迎える様子にヒヤヒヤさせられ、抜群とは言えないものの面白かった。
最近の「ニューオーリンズ・トライアル」では序盤の陪審員が選ばれる場面に異色の面白さがあったのだが、後半尻すぼみになった感があって選より洩れる。
10位・・・パラダイン夫人の恋(1947年アメリカ映画)アルフレッド・ヒッチコック監督
ヒッチコックとしては全く褒められない作品だが、裁判の裏表を同時にじっくりと描いた作品は多そうで意外と少ないので、最後に入れておきたい。被告アリダ・ヴァリに恋をしてしまった弁護士グレゴリー・ペックが彼女をどう弁護するのか、というのが興味。
◆番外編◆
近代的裁判に入れられないものから数本。
1位・・・羅生門(1950年日本映画)黒澤明監督
これぞ「藪の中」裁判劇の元祖。原作は勿論芥川龍之介の「藪の中」。些かくどい感じが残ってしまうが、種々の映画に影響を与えたという点では殆ど類を観ない画期的作品と言って良い。森の中で反射鏡を利用した撮影が見事だった。主演の森雅之、京マチ子の耽美的魅力も素晴らしい。
影響下にある作品としては、戦争映画「戦火の勇気」、ミュージカル「魅惑の巴里」は殆どそのままの転用で、クェンティン・タランティーノの「パルプ・フィクション」は応用編と思っている。
2位・・・裁かるゝジャンヌ(1928年フランス映画)カール・ドライヤー監督
ジャンヌ・ダルクと言えば信心の人であるが、デンマークの巨匠カール・ドライヤーの作り出す映像世界も神がかっていると思わせることが多い。裁判模様より緻密な凝視的な手法で彼女の心の襞を描き出した映画史に残る傑作。
3位・・・ジャンヌ・ダルク裁判(1962年フランス映画)ロベール・ブレッソン監督
ブレッソンはその簡潔性を以って映画から神性を生み出すことができた稀有な映画作家。その意味で前出のドライヤーとも共通する持ち味だが、同じ様にジャンヌ・ダルクをテーマにしても、人間的に捉えた「裁かるゝジャンヌ」より宗教的な匂いが濃厚。どちらも捨てがたい。
4位・・・ヴェニスの商人(2004年アメリカ=イタリア=ルクセンブルク=イギリス映画)マイケル・ラドフォード監督
シェークスピアの余りにも有名な喜劇なのに、TV映画化は何度もあるものの、トーキー以降では初の本格映画化になると聞いて驚いた。実質的には恋愛喜劇なのだが、後半の人肉裁判は余りにも有名であるし、本作では見ごたえたっぷりに描かれているので取り上げてみた。ヴェニスの商人シャイロックを演じたアル・パチーノが見事だった。
この記事へのコメント
いや~好企画ですね!
非常に楽しいです!
実に素晴らしい選出。私なら計10作選べたら上出来かもしれません^^;
未見の作品が5作(ヒッチコック含む^^;)もありますが、特に気になるのは今井正の「真昼の暗黒」です。
で、私のお気入りは、なんといってもワイルダーの「情婦」です。リメイクも意外と良く出来ていた記憶があります。
それと中原の「12人の優しい日本人」も大好きで、実はルメットより好きだったりします^^;
また、番外の黒澤とブレッソンは、私が言うまでもなくどちらも傑作。ただ、サイレントの「裁かるゝジャンヌ」は、私には少しかったるくて^^;
ラストばかりが強烈に印象に残っています。
法廷物で何か思い出したら、また書き込みにまいります^^
私の場合、先に原作を読んでいる場合も多く・・・
「評決のとき」、「推定無罪」は、どうやっても原作が面白くて、映画はイマイチでした。これは如何ともしがたいです^^;
それと、ヘンリー・デンカーの「復讐法廷」って小説が法廷物では最も好きなのですが、違うタイトルで映画化されているってこと、なかったですかね。
おぼろげに記憶にあるのですが(勘違いかも)、今調べても見つかりませんでした^^;
企画ものは反響が欲しいので、コメントには感謝です。まずリストアップが大変で、これが難作業。コメントの方が遥かに楽です。
「12人の優しい日本人」は面白かったですね。三谷幸喜の原作・脚本は勿論優秀ですが、中原俊のタッチも良かった。
「真昼の暗黒」はショックだったなあ。本作からこの言葉が流行したようです。
「評決のとき」「推定無罪」辺りになると上位に比べてちょっと弱いのですが、最近の娯楽作の中ではよく出来た部類と判断致しました。戦後文学は殆ど(映画鑑賞前は特に)読みませんが、一般的に本の方がイメージを刺激するので面白いことが多いですね。
「復讐法廷」は86年にTV映画化されているようですが、日本では未紹介。ただこっそりTVで放映されたりしたかも。
未見の作品をこの中から選んで観てみることにします。
ところで、プロフェッサーもおっしゃってますが、ワイルダー監督の「情婦」は、原作を先に読んだ私にも見ごたえのある作品でした。原作を読んだ際には、正直言ってこれを映像化するのは難しいんじゃなかろうかと思っていたのですが。映画を観る前に抱いていた不安が全て杞憂に終わってしまいましたね。本当に“巨匠”の名にふさわしい作品でした。
熊井啓監督の「ひかりごけ」は観ていたのですが、今井正監督の「真昼の暗黒」は知りませんでした。もっと邦画を観なくては。
さすがプロフェッサー!
多分、観たのだと思うのですが、記憶からほぼ消えているので、おそらくは駄作だったのでしょう^^;
法廷物は切れ者や熱血弁護士の登場がドラマを盛りたててくれるものが多いですよね。いい役者さんが演じると、原作にはない面白さが加味される。そこが映画の良いところでもあります。
対照的なのがポール・ニューマンと「ジャスティス」のアル・パチーノ。若いころは華がなかったポール・ニューマンは年を重ねるごとに味を増し、パチーノは段々と演技が過剰で嫌味になる(笑)
「ヴェニスの商人」のシャイロック役もパチーノは熱演でしたが、舞台を経た影響なのか、やたらと腹から声を絞り出して凄味を利かせるようになりましたね。好き好きなのかもしれないですが、私は苦手です^^;
集中して輩出されているのが一目りょう然。
これだけインパクトのあるメッセージを持った映画群を
チョイスして整理するだけでも大変でしたでしょう。
「12人の怒れる~」をトップに置かれていらっしゃるのが
まず私には嬉しい。
「39 刑法第三十九条」は私も買っていますし、
はいはい、サッコとヴァンゼッティ!
バエズの歌、題名を聞くだけであのメロディが甦ります。
J・グリシャムものでは「依頼人」「ザ・ファーム/法律
事務所」が好きですが。
特にJ・シューマカーの「依頼人」は娯楽性に長けていて
よく出来ていたと。
法廷劇好きですので、ひとつひとつにコメント
したいくらいですが明日になってしまいそうなので
この辺で。
「アラバマ~」の女の子、良かった~。
「ニュールン~」、B・ランカスター!
まだ、言ってます~。(笑)
とっても楽しい企画ですね!10位からじっくり全部観てみたいです。
ホームページの方のジャンル別ベストも読んでて楽しいです。
他のジャンルも楽しみにしてます(^^)
嬉しい反響です。また、次のジャンルを考えますので、リクエストを受け付けたりします(笑)。
「真昼の暗黒」は学生時代、十代の終わり頃東京で観ました。若気の至りでとにかく義憤にかられて、自分のことのように絶望に陥った記憶があります。素晴らしい作品でしたが、恐らくTV放送はなし、DVDにはなっているでしょうか?
「情婦」も映画館で観て先年TVで再鑑賞して、やっぱりワイルダーは巧いということを再確認。恐らくここに書き込みをされる方でこれをつまらないという人はいらっしゃらないと思われる作品です。原作を読まれましたか。クリスティは4,5作読んだら飽きました(笑)。しかし、「アクロイド殺人事件」はそのままで絶対映画化できないですよね。
パチーノですが、舞台シェークスピアをたっぷり演じた影響かもしれませんね。「ヴェニスの商人」は映画的なリアリズムを取り込みながらも、やはり舞台臭を残していますので、ああいう大仰な演技でも良いですが、あれはリアリスティックな作品ではちょっと辛いですね。
私が苦手なのはジャック・ニコルスン。「カッコーの巣の上で」と「シャイニング」を観てトラウマになりました。どんな映画を観ても何かやらかしそうで困ってしまうのです(笑)。
楽しい企画なのですが、仰るように膨大な作品が世の中にはあるわけでして、そこから選び出し整理するのは本当に大変です。しかし、反響なり反応があればそんなことは忘れてしまいますよ。
この類はアメリカ映画ですねえ。日本にも意外と良い作品がありますが、ヨーロッパでは記憶に残るのは一本だけでした。お国柄が出ます。
ジョン・グリシャムものについては本文でも書いたように「ザ・ファーム」でも良かったですし、「依頼人」も最後まで残っていたんですけど、長さで「評決のとき」が勝ちました(笑)。
「アラバマ物語」には「となりのトトロ」の原型があると一人叫んでいるのですが、姐さんはどう思われます?
有難うございます。来年はもう少しゆっくりUPします。16ヶ月映画1000稿はさすがにきついです。
お楽しみ戴けたようで何よりです。
リクエストを受け付けていますので、何なりとどうぞ。どのジャンルも一通り観ておりますので、恐らく不都合はないと思います(笑)。
「十二人・・・」と「情婦」が同じ年の製作とは奇遇ですネ。
今回は「十二人・・・」をTBしましたが、次回は「情婦」を狙おうと思います。(笑)
わが師・双葉先生によりますと、映画は60年代までが黄金時代ということです。特に戦後から50年代は映画にリアリズムが持ち込まれた時代であり、全盛期でしょうね。
57年と言えば、まだTVが完全に普及する前の時代で、最も充実していた頃です。尤もシドニー・ルメットはTV演出家だったわけで、TVの血が映画に活気を与えた時代かもしれませんね。現在TVの純粋培養で映画を撮れる才能がどれくらいいるでしょうか。
と、硬い話になってしまいましたので話題変更。
「情婦」のビリー・ワイルダーも見事ですねえ。私が映画を観始めて暫くワイルダーは喜劇専門の監督と思っていましたが、スタートはスリラー、その見事な演出も頷けるのでした。
どんでん返しだけでなく、色々なお楽しみがある名作でした。今なら別バーションのラストも出来るのでしょうが、あの時代ならではの味がなければ意味がないのかも・・・。
「十二人」「情婦」「アラバマ物語」・・・何故かここに挙げた名作群を全て録画ミスしているんです。困ったもんですね(笑)。
>どんでん返し
シャマランではないので、どんでん返しが目的ではないですよね。チャールズ・ロートンの大きな演技、ディートリッヒの妖艶、眼鏡などの小道具の使い方(障害者用の昇降機も面白かった)など、見ごたえ十分でしたね。
唯一戴けないのが邦題。こりゃないです。
4年前にすでに1000記事記念!
あたくし、やっとこさっとこあと3記事
までこぎつけましたです。(^ ^)
それにしても
懐かしいなぁ~優一郎さんのお名前~♪^^
「十二人」「情婦」「アラバマ」
この辺あたりは映画ファンなら
絶対はずせませんね~。
これ外したら双葉さんは勿論のこと
淀川さんじゃないけれど
「あんた、これ観ないでよく息してるね!」
の世界ですよね~~。(笑)
還暦記念のやたら長い拙マイ記事
持参させていただきました。
貴記事UPローテーション
少しずつ平常に戻りましたかしら?
お身内のことも大変でしょうが
お暑くなってきましたですね~
プロフェッサーも私も、病魔発覚は
この季節でしたから気をつけましょう、
お互いにね。
>1000記事
まあ、あの時代はちょっと前に観たのも転載していましたので、あっという間にね。文章の校正なんかも適当だった。
今は結構まじめにやっているのに、何故か間違いが多い。
>優一郎さん
色々面白い話ができていたのに、非常に残念です。
>還暦記念
おめでとうございます。
僕の兄貴より年上なのねえ。
>貴記事UPローテーション
まだまだですなあ。
映画を見てても集中できないし、集中できないから、ちゃんとした映画評がなかなか書けない。
何とか誤魔化してはいるものの、手抜きが増えてきました。
本数もこなせないから、ブルーレイ・レコーダーを買うことにしました。明日届きます。
>病魔
もう1年になるんですねえ。月日の流れるのは早いなあ。(*_*)
僕の場合は食生活さえきちんとしていればまずは問題ないですけど。
姐さんもご自愛ください。