映画評「トリュフォーの思春期」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1976年フランス映画 監督フランソワ・トリュフォー
ネタバレあり
フランソワ・トリュフォーは後期古典的な作風に変っていったが、その中でこれはスケッチ集的作品で、トリュフォーの作品の中でも最もヌーヴェルヴァーグ的な作品と言っても良いくらい天衣無縫な印象がある。それもそのはずで、本作は「大人は判ってくれない」の作り直しとも言うべき作品である。
タイトルから想像されるよりは些か若い11ー12才の子供たちを主人公にしていて、その中で車椅子生活の父を抱える優等生ジョリー・デムーソーと転校してきた問題生徒フィリップ・ゴールドマンが軸となっている。
微笑ましいエピソードが数え切れないほどある。
8階(?)の高所から下に落ちた幼児がニコニコと立ち上がり母親が失神したり、両親に閉じ込められた少女が「おなかが空いた」と拡声器を使って大騒ぎ、周囲の人々がざるを使って援助を差し伸ばす挿話が特にお気に入り。デムーソー少年が同級生の母親に花を贈ったら父親からと勘違いされるずっこけや初キッスにまつわる挿話も大変楽しい。
どこが「大人は判ってくれない」なのかと言えば、フィリップ少年。
楽しい挿話の数々が言わば作品の横糸であるとすれば、彼の環境と行動を描いた悲惨な部分が縦糸であるわけだが、意図的に彼の悲惨さの核心を最後まで伏せていたトリュフォーの作劇に従って述べてみたわけである。
少年は微罪的な悪を繰り返しているが、その背景に母と祖母の虐待があり、それが身体検査の時に判明して大騒ぎになるという構成が実に巧妙だ。彼の行動にはトリュフォーの少年時代がかなり投影されているはずだが、子供が生まれたばかりの男性教師が夏休み前に子供の人権について語る場面が胸を打つ。
そして、「大人」では単に先生や大人は批判の対象でしかなかったのに、ここに登場する大人は基本的にやさしい。トリュフォー自身が心の傷を治癒させたことがこれにより解るのである。
1976年フランス映画 監督フランソワ・トリュフォー
ネタバレあり
フランソワ・トリュフォーは後期古典的な作風に変っていったが、その中でこれはスケッチ集的作品で、トリュフォーの作品の中でも最もヌーヴェルヴァーグ的な作品と言っても良いくらい天衣無縫な印象がある。それもそのはずで、本作は「大人は判ってくれない」の作り直しとも言うべき作品である。
タイトルから想像されるよりは些か若い11ー12才の子供たちを主人公にしていて、その中で車椅子生活の父を抱える優等生ジョリー・デムーソーと転校してきた問題生徒フィリップ・ゴールドマンが軸となっている。
微笑ましいエピソードが数え切れないほどある。
8階(?)の高所から下に落ちた幼児がニコニコと立ち上がり母親が失神したり、両親に閉じ込められた少女が「おなかが空いた」と拡声器を使って大騒ぎ、周囲の人々がざるを使って援助を差し伸ばす挿話が特にお気に入り。デムーソー少年が同級生の母親に花を贈ったら父親からと勘違いされるずっこけや初キッスにまつわる挿話も大変楽しい。
どこが「大人は判ってくれない」なのかと言えば、フィリップ少年。
楽しい挿話の数々が言わば作品の横糸であるとすれば、彼の環境と行動を描いた悲惨な部分が縦糸であるわけだが、意図的に彼の悲惨さの核心を最後まで伏せていたトリュフォーの作劇に従って述べてみたわけである。
少年は微罪的な悪を繰り返しているが、その背景に母と祖母の虐待があり、それが身体検査の時に判明して大騒ぎになるという構成が実に巧妙だ。彼の行動にはトリュフォーの少年時代がかなり投影されているはずだが、子供が生まれたばかりの男性教師が夏休み前に子供の人権について語る場面が胸を打つ。
そして、「大人」では単に先生や大人は批判の対象でしかなかったのに、ここに登場する大人は基本的にやさしい。トリュフォー自身が心の傷を治癒させたことがこれにより解るのである。
この記事へのコメント
おお、そうでしたか。
シュエットさんのトリュフォー経験は如何なものなのでしょうか。
一見ばらばらのように見えるスケッチ集ですが、非常によく出来ています。大好きなトリュフォーの中でも微笑ましく、好きな一編です。
アントワーヌものはトリュフォーの半自伝的な作品群ですし、その他の作品にも彼自身が見えることが多いですね。
大きく三種類に分類されると思うのですが、どれも良いんだなあ。
シュエットさんの触れなかった作品でも
「突然炎のごとく」
「恋のエチュード」
「アデルの恋の物語」
「私のように美しい娘」
は傑作ですし、
「黒衣の花嫁」といったスリラーもヒッチコック・ファンぶりを披露して楽しかった。
私は何でも見る雑食派なのですが、しかし、昨今のCG映画はなっとらんですね。映画は人間を描くものということが分っておらんでしょう? ヒッチコックが何故凄いのか。技術だけではない。人間がどう行動するかを真摯に追究してそれを娯楽に反映させたからですよ。
現在ミーハー的な映画に食指が動かないのは厳然たる事実。余りにも貧しい。80年代以前から映画を観ている方の多くがそれを感じていると思います。
お気に入りエピソードがおんなじで嬉しいですねえ(^^)
わたしはトリュフォーは「華氏451」は記事にしました。
あとは「ピアニストを撃て」と「突然炎のごとく」「アデルの恋の物語」をみたくらい。
「大人は判ってくれない」も見ないといけませんね。
本作ですけど、とにかく可愛いグレゴリー坊や!
それと「日曜日、こどもたちは退屈」の歌がいいですね。
とてもほのぼのした気分になる。(笑)
虐待されていた少年とこどもが産まれたばかりの教師、どちらもトリュフォーを重ね合わせているのですね。
>華氏451
後で伺いますね♪
>大人は判ってくれない
本作はアンチテーゼと言って良いくらい変わっているように思いました。ひどい大人たちも出てきますが、「大人はひどい」という単純な構図を抜け出ていますね。
これはフランス映画以外はまず作れず、その中でもトリュフォーしか作れない作品でしょうね。「スパニッシュ・アパートメント」を作ったC・クラピッシュは後継者と思いますが。
viva jijiさんもシュエットさんもご覧になっていないというのでちょっとショックでした。
傑作ですね。続いて「野生の少年」も記事にしていますので翌日、こちらもTBさせていただきますね。本当は11日の記事なんですけどね。グレゴリーにはトリュフォーは随分とてこずったらしいですが、子供達からこれだけの表情を引き出したトリュフォーには感服です。
素晴らしい作品だったでしょう!
恐らくグレゴリー君を含めた子供たちに「アメリカの夜」さながらに、苦労して作り上げたのでしょうね。
これは東京の映画館で観ました。
映画館で観た最初のトリュフォーです。
>映画館で観た最初のトリュフォーです。
初めにこれをみたら、もうノックアウトですね!
最初に何を観たか!どんな作品でコロッとなったか。案外とこれって以降の映画人生を左右しますよね。
P様は、これでやられましたか!(笑)
はい、KOされました。^^
その後「終電車」「隣の女」、そして遡って「アデルの恋の物語」「アメリカの夜」「大人は判ってくれない」などを映画館で観ました。映画ファンなら唸ってしまうような作品群ですよね。
TVで観た「恋のエチュード」も素晴らしいですし、観られない作品群はLDを買い集めて堪能しまくりました。
トリュフォーを見ると「映画は呼吸だ」と思わせます。
本作はその典型ですよね。