映画評「羊たちの沈黙」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1991年アメリカ映画 監督ジョナサン・デミ
ネタバレあり
1988年に発表されたトーマス・ハリスのサスペンス小説を映画化したジョナサン・デミ監督作品。
アメリカ北部で大柄の女性が殺された後皮膚を剥がされる猟奇事件が連続して発生する。捜査に加わることを要請されたFBI訓練生クラリス(ジョディー・フォスター)は人肉を食した精神異常者として精神病院に監禁されている精神分析の達人レクター博士(アンソニー・ホプキンズ)と接触し、精神分析の立場から犯人の割り出しに協力してもらおうとする。
1991年度のアカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞を受賞してその後続編が二本作られた話題作だが、ジョディーとホプキンズが断然素晴らしい主演男女優賞以外には当時首を傾げた。今回見直したのはその辺りの再確認が目的である。
本作の面白さの核となるのは、収監されている犯罪者が犯人探しに協力するという点であり、レクターとクラリスが対峙する場面は他の捜査もので殆ど類を見ない緊張感の高いものだが、事件とレクターとの接触以外の捜査過程(クラリスが最初の被害者と加害者の関係を解き明かす推理プロセスは疑問)についてはそれ以前から類似作品が多くそれほど新味がある(あった)ものとは思われぬ。
映画に限らず伝統のある芸術で評価の基本となるのは新味であるから、作品賞や脚本賞は些か甘い評価であると思う。但し、残虐場面の描写においては当時としてはかなり強烈だったという記憶があり、その後「セブン」などの残酷性・変質性を売り物にしたサイコ・スリラーが次々と製作される土壌を作ったマイルストーン的作品であることは間違いない。
本作ではおどろおどろしいムードを重点的に醸成、張りつめたトーンを維持したデミだが、その一方で創意工夫の足りないリメイク版「シャレード」ような駄作を平気で作ってしまうのでまだまだ巨匠といった表現はふさわしくなく、ヒッチコッキアンの映画作家というには力不足の感あり。
他の方のレビュー⇒「羊たちの沈黙」(風に吹かれて)
1991年アメリカ映画 監督ジョナサン・デミ
ネタバレあり
1988年に発表されたトーマス・ハリスのサスペンス小説を映画化したジョナサン・デミ監督作品。
アメリカ北部で大柄の女性が殺された後皮膚を剥がされる猟奇事件が連続して発生する。捜査に加わることを要請されたFBI訓練生クラリス(ジョディー・フォスター)は人肉を食した精神異常者として精神病院に監禁されている精神分析の達人レクター博士(アンソニー・ホプキンズ)と接触し、精神分析の立場から犯人の割り出しに協力してもらおうとする。
1991年度のアカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞を受賞してその後続編が二本作られた話題作だが、ジョディーとホプキンズが断然素晴らしい主演男女優賞以外には当時首を傾げた。今回見直したのはその辺りの再確認が目的である。
本作の面白さの核となるのは、収監されている犯罪者が犯人探しに協力するという点であり、レクターとクラリスが対峙する場面は他の捜査もので殆ど類を見ない緊張感の高いものだが、事件とレクターとの接触以外の捜査過程(クラリスが最初の被害者と加害者の関係を解き明かす推理プロセスは疑問)についてはそれ以前から類似作品が多くそれほど新味がある(あった)ものとは思われぬ。
映画に限らず伝統のある芸術で評価の基本となるのは新味であるから、作品賞や脚本賞は些か甘い評価であると思う。但し、残虐場面の描写においては当時としてはかなり強烈だったという記憶があり、その後「セブン」などの残酷性・変質性を売り物にしたサイコ・スリラーが次々と製作される土壌を作ったマイルストーン的作品であることは間違いない。
本作ではおどろおどろしいムードを重点的に醸成、張りつめたトーンを維持したデミだが、その一方で創意工夫の足りないリメイク版「シャレード」ような駄作を平気で作ってしまうのでまだまだ巨匠といった表現はふさわしくなく、ヒッチコッキアンの映画作家というには力不足の感あり。
他の方のレビュー⇒「羊たちの沈黙」(風に吹かれて)
この記事へのコメント
この作品、好きな作品です。やはり、レクターとクラリスの2人の場面、レクターの言動に目が離せません。全体の重苦しいトーンも保っているし、基本的に本がさほどでない部分はあるにしろ、なかなかいいデキだと思います。
やっぱり、アンソニー・ポプキンスにつきると思いますが。
では、また。
年も押し迫りましたが、プロフェッサーは濃いところを立て続けにご覧になられていますね(笑)
私は元々が原作者のトマス・ハリスのファンだったので、本作が映画化されるのがすごく嬉しかった記憶があります。
もちろんマイケル・マンが映画化した「レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙」も先に観ていた希少な日本人でございます(笑)
原作を読まずに映画を観る方が楽しめる場合が多いのですが、どうやっても読書好きは映画化の話より前に原作を読んでいることが多く、映画に期待してガッカリということがままあります。
でも、デミの本作は、珍しいことに原作ファンとしても非常に満足の出来でした。一にもニにもハンニバル・レクターを演じたアンソニー・ホプキンスの怪演に尽きると私は思っております。
デミは「ストップ・メイキング・センス」が大のお気に入りなのですが(これはトーキング・ヘッズというバンドのファンだからなのですけど)・・・本作以降のデミは、スカばかりで残念です^^;
「レッド・ドラゴン」、「羊たちの沈黙」、「ハンニバル」と並べてみると、どれも好きなのですが、やはり私は本作を一番くり返し観ています。ファンとしても、それだけ魅力的な作品なのです。
ちなみに・・・大方のファンとは逆に、私はジョディよりジュリアンのクラリスが好みだったりします。あははは^^;
ということで、本年は色々と大変お世話になりました。
あと数日、今年も残っておりますが、先にご挨拶させていただきます。
どうか来年が素晴らしい年になりますよう、年末年始をご健勝でお過ごしくださいませ^^
私が評価しなかったのはあくまで新味という面ですが、新味が無くても良い映画は出来るという意味ではもっと評価しても良いのかもしれません。
そうですね、二人の接見場面が断然面白く、レクター博士即ちホプキンズの魅力が圧巻でしょう。
本年はお世話になりました。来年も宜しくお願い致します。
「ハンニバル」は一つ落ちるような気がしますが、「羊たちの沈黙」と「レッド・ドラゴン」では大差がないような気が。「羊」の統一感やバランス感は好きですが。
ジュリアン・ムーアに関しては見た順番も左右しているかもしれません。どちらもインテリジェンスを感じさせる良い女優です。
ホプキンズは実質的に助演なんですけど、他の男優の出演場面より多いから主演に格上げされた感じです。つまりジョディー・フォスターが出ずっぱりだったのですが、とにかく彼の演技は凄かったですね。イメージの固定化もものともせず、「日の名残り」などどの人物も見事に演じます。
こちらこそ色々とお世話になりました。来年も宜しくお願い致します。
さてさてこの作品、非常に精神にくる作品で見終わったら心の中の闇を見透かされてるんじゃないかという不安に陥る作品でした。
それだけホプキンスのレクターに迫力があったのだと思いますが(笑)
「日の名残り」のホプキンスもいいですねぇ。
台詞がなくとも演技で気持ちが伝わってくる素晴らしい俳優さんだと思います。
今年もあと二日になりました。良いお年をお迎えくださいませ。
こちらこそ本年はいろいろお世話になりました。
来年も宜しくお願い致します。
よりお年をお迎え下さい。
精神的な恐さという点で凄いと思ったのは日本映画の「CURE」ですね。とにかく得体の知れない不気味さでは、ちょっと類が無いなあと思います。御覧になりました?
来年も宜しく。
良いお年を。
今年も楽しくやりましょう。
さて、「羊たちの沈黙」ですが、わたしは、結構気に入っています。
第一にジョディ・フォスター=クラリスであるほど、はまり役であったことでしょうか?
そして、幼少のころの子羊を抱えて親戚の家から逃げ出した孤独をレクター博士に正直に吐露したことには、さすがのレクターも心を動かされるという二人の美しい心の交流に感動いたしました。
しかも設定は変態だらけのアメリカ犯罪社会においてだから、なおさら彼らの美しさが際立っていたように思うのです。
そして、俗っぽい感想ですが、主人公ふたりの知力にも憧憬のようなものを感じました。
>その後「セブン」などの残酷性・変質性を売り物にしたサイコ・スリラーが次々と製作される土壌を作ったマイルストーン的作品・・・
アメリカの変態犯罪社会を、ここまで直視したことでも、おっしゃるようにセンセーショナルな作品であったようにも思います。
それにしても、年々、社会は猟奇的になっていくように思います。ほんとに「美しい国」に脱皮できるのでしょうか?
では、また。
本年も宜しくお願い致します。
私が7点に留めたのは、二名の役者の卓越した演技と個性を除いた時に、どの程度光る部分があったかということを考えた時に疑問が残るからです。猟奇性の凄まじさは当時としては破格ですが、これも華美と考え、骨格的に残った部分を考えると量産されている捜査ものを大きく上回るものではないと思ったわけです。
勿論、映画は総合芸術ですので、これだけ演技が優れ、時代のムードを映像に移した存在感もあるわけですから、悪くても7点は付けざるを得ない、そんなところです。
デミは「セブン」のデーヴィッド・フィンチャーに比べると、はったりをかまさない質実なタイプですから、損かもしれませんね。
お正月に観返しましたが、レクター博士は怪人二十面相みたいな一種の超人だということで、はったりで押し切っていく伝記ロマンとして観るべき映画なんだ、と思いました。
捜査過程を見て「?」になったのは、私だけじゃなかったんだと、オカピーさんの評を読んで安心した次第です。
それが、後で「ああ、あれでやったんだな」と観る人に思わせてしまうわけですけど、こういう映画だから通用する技かな、と。(時代劇ではよくあるけれども)
>伝記ロマン
そうでしょうね。
人間離れしていますもの(笑)
>捜査過程
残念ながら、僕の頭では解らなかったであります。
自分の頭を棚に置いて、脚本に問題があったと決めつけておりますが(笑)
>ボールペン
サスペンスや時代劇ではこういうのをうまく見せてくれるのが多くて嬉しくなりますね。
省略と想像とをうまく利用すると感動や面白味が増幅される。全部見せてしまう映画はつまらんです。