映画評「耳をすませば」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1995年日本映画 監督・近藤喜文
ネタバレあり
新年明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。
本年最初のレビューはスタジオジブリ。しかし、今年はアニメをたくさん観るということではございません。
宮崎駿が脚色に携わっているが、監督は作画監督上がりの近藤喜文。
受験に追われる中学三年生の雫は読書好きで、自分の借りている本を尽く借りている天沢聖司という少年のことが気になる。
そんなある時太った猫を追いかけて行くと、老人が営む古物屋<地球屋>に辿り着き、瞳に神秘を湛えている猫人間風の人形バロンに惹かれると同時に、天沢少年が経営者の孫でバイオリン作りを目指していることを知る。既に未来図を描いている少年と比べて自分は先を見据えていないので自己嫌悪に陥る雫だが、それをバネとしてバロンを主人公にしたファンタジーを書くことを決意、人生の青写真を描き出す。
原作は柊あおいのコミックで、近藤喜文が初演出したわけだが、結局彼は3年後に40代の若さで急死したため唯一の監督作となった。これだけ呼吸が良いタッチを披露してくれたのに実に惜しいことをしたものである。
読んだことのない原作も恐らく素晴らしいものであろう。
しかし、監督以上に脚色した宮崎駿の才能をやはり感じないではいられない。ファンタジーでない彼の作品は珍しいわけだが、「ファンタジーは宮崎駿にとって現実の人間を描く手段であって目的ではない」という持論を裏打ちするような繊細な現実感が息づいている。
思春期真っ只中の15歳の少年少女の恋に対する関心は一般的に絶大で、そこに進路問題が加わるのが悩ましい。かくいう僕も15歳の頃部分的に似た思いを抱いていたので、雫の迷いや悩みに胸が締め付けられる。そこへ森鴎外の「舞姫」のムードもある老人の古い悲恋を交えることでロマンティシズムを加え、広がりを感じさせるところが誠に結構。
あっさりと処理されているが、登場して来る大人たちの子供に対する信頼も好もしい。図書館に足繁く通っているような少年少女たちはそんな信頼に値すると思うからである。
その昔観たものの遂に文章をものすことができなかったのだが、今回も何とか実行したというだけに留まる。思春期を直球的に扱った青春アニメは書くのが難しいものであります。
他の方のレビュー⇒耳をすませば(風に吹かれて)
1995年日本映画 監督・近藤喜文
ネタバレあり
新年明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。
本年最初のレビューはスタジオジブリ。しかし、今年はアニメをたくさん観るということではございません。
宮崎駿が脚色に携わっているが、監督は作画監督上がりの近藤喜文。
受験に追われる中学三年生の雫は読書好きで、自分の借りている本を尽く借りている天沢聖司という少年のことが気になる。
そんなある時太った猫を追いかけて行くと、老人が営む古物屋<地球屋>に辿り着き、瞳に神秘を湛えている猫人間風の人形バロンに惹かれると同時に、天沢少年が経営者の孫でバイオリン作りを目指していることを知る。既に未来図を描いている少年と比べて自分は先を見据えていないので自己嫌悪に陥る雫だが、それをバネとしてバロンを主人公にしたファンタジーを書くことを決意、人生の青写真を描き出す。
原作は柊あおいのコミックで、近藤喜文が初演出したわけだが、結局彼は3年後に40代の若さで急死したため唯一の監督作となった。これだけ呼吸が良いタッチを披露してくれたのに実に惜しいことをしたものである。
読んだことのない原作も恐らく素晴らしいものであろう。
しかし、監督以上に脚色した宮崎駿の才能をやはり感じないではいられない。ファンタジーでない彼の作品は珍しいわけだが、「ファンタジーは宮崎駿にとって現実の人間を描く手段であって目的ではない」という持論を裏打ちするような繊細な現実感が息づいている。
思春期真っ只中の15歳の少年少女の恋に対する関心は一般的に絶大で、そこに進路問題が加わるのが悩ましい。かくいう僕も15歳の頃部分的に似た思いを抱いていたので、雫の迷いや悩みに胸が締め付けられる。そこへ森鴎外の「舞姫」のムードもある老人の古い悲恋を交えることでロマンティシズムを加え、広がりを感じさせるところが誠に結構。
あっさりと処理されているが、登場して来る大人たちの子供に対する信頼も好もしい。図書館に足繁く通っているような少年少女たちはそんな信頼に値すると思うからである。
その昔観たものの遂に文章をものすことができなかったのだが、今回も何とか実行したというだけに留まる。思春期を直球的に扱った青春アニメは書くのが難しいものであります。
他の方のレビュー⇒耳をすませば(風に吹かれて)
この記事へのコメント
『耳をすませば』には『海がきこえる』にはない新鮮さと清潔感があり、瑞々しい魅力にあふれた素晴らしい作品でした。そのために『猫の恩返し』を観た時には思い切り期待を裏切られました。
この作品がジブリ・ファンの間でいまでも人気の高い作品のひとつであるのは見れば誰でも分かりますね。ではまた。
本年も宜しくお願い致します。
9点も付けたい誘惑に駆られましたが、頭の中で屁理屈を考えて8点にしました。しかし、素晴らしい。
仰るように「猫の恩返し」はファンタジーの為のファンタジーになってしまって、そこに少年少女への戒めめいたものを入れて帳尻を合わせようとしましたが、膨らみも余韻も奥行きもなく、がっかりしました。
1995年の邦画No.1ヒット作品だそうですね。余り大ヒットしないほうが上品で良い感じの作品ですが(笑)。
我が家でも人気のジブリアニメです。
中学校では剣道をやってましたが、小学校にはスポーツ部が無かったので、図書部に入って図書カードの整理やら、本の修理、並べ替えなどやっていた記憶があります。
市民図書館でも今じゃICカードですから、この映画のような出逢いは無いでしょう。そう言う意味でも感慨深い作品です。
暫くこんな感じで続きます。今年は昨年よりは減らそうと思いますが、余り減らないかも。
>図書館
現在山のさびれた図書館によく通っていますが、管理がいい加減なので、私が図書館員に代わって本の整理や埃落としなどやり、時には図書館員に本の場所を教えたりもしています。全く情けない。
そう、ICカードでは夢や希望もありませんね。携帯電話の普及で昔風のサスペンスも作りにくい時代。「柔らかい肌」や「時計じかけのオレンジ」のサスペンス場面も今なら作り方が変わってしまいますよね。
15歳のころのキラキラした思いをキュンとせつなく思い出させてくれるようなこの作品を見ると大人しくみてられません(汗
久しぶりにまた見直したくなってきました。
村下孝蔵の「初恋」よろしく、中学2年から3年にかけて私もある一人の女性EYさんを追いかけていました。やはり読書三昧で、私の文学的知識は自分で言うのも何ですが、同級生から脅威のまなざしで見られたほどです。高校では国語の先生に文学史を講義してこれまた同級生からびっくりされたりしましたね。
進路は一点に絞っていましたが、全体的に本作のような雰囲気の青春でしたね。僕らは70年代初めですけど、それほど変わりません。
EYさん、今ではE○さんでしょうが、今頃何をしているかな。もう孫がいても不思議ではない年。うーん、切なくなって胸が締め付けられるような想いがしますね。ああ、それが青春。