映画評「埋もれ木」

☆☆★(5点/10点満点中)
2005年日本映画 監督・小栗康平
ネタバレあり

およそ四半世紀前に小栗康平が「泥の河」でデビューした時そのクラシックな上手さに驚き、次の「死の棘」は些か抽象的になったが感嘆するには十分な演出力を示した。
 同じ群馬県人として今でも応援をしているが、その後形而上学的な方向を歩んで一作ごとに解りにくくなり、些か当惑している。

ある地方都市、女子高生(夏蓮)が友人たちと物語をリレー形式で紡ぎ出している。ペット屋がラクダを飼い出したことから始まる町の変化を想像したものである。
 中年の男たちもまた町の変化を語っている。
 郊外で3800年前の埋没林が発見され大騒ぎ、娘の死を理由に休業した建具屋(岸部一徳)は仕事を再開する気になる。
 そして、村では古い大木の間で祭りが繰り広げられる。

一般の映画と違って展開の上手さや繋がりの滑らかさといった側面での評価を拒否する映画である。並行的に語られていた幾つかの部分が最後の祭りの場面で一つに融合していくとは言え、基本的にはそれまで全く分離していると言って差し支えない。しかし、そうした散漫な作りをもって本作を批判するのは正しいとは言えない。

問題は別の部分にある。
 最後の祭りが象徴するのは自然と人間が調和することの歓び、生命に対する賛歌であろう。通常の感覚では人の体温を感じる描写が必要である。
 しかし、小栗監督のタッチは殆ど全面固定カメラ、真正面から人間を捉えるのもロングがセミロングで、たまにミディアムという具合で、大変冷たく無機質なものである。これは「死の棘」以来変っていないが、本作の場合主題と合わない印象があり、その感動が伝わって来ないのである。
 そうした冷徹なタッチで対照的な主題を描こうとしたのが狙いと考えられるわけだが、僕にはピンと来ない。

アフレコが人物によって映像サイズと合わないことがあるのも技術的に気になった。ロケが中心だが、内容上は舞台的な印象が強いので、些か硬質な台詞や口跡について現状で問題ない。

この記事へのコメント

優一郎
2007年04月08日 15:00
こんにちは^^

TBを持参させていただきました。
大変、簡素な記事になってしまいましたがご笑覧ください。

個人的な趣味になりますが、引きの固定カメラは、こうした静かで落ち着いた映像との相性が良いように感じられ、私は好きです。
とにもかくにも、本作のような作品を劇場鑑賞できなかったのは痛手。劇場の暗闇で感じる印象は、おそらく心の奥底にまで響くものだったのではないか、などと考えております。
オカピー
2007年04月09日 02:26
優一郎さん

祭=生への讃歌と考えるともう少し生命力のある映像、即ち動きのある映像が欲しいなあという安直な考えなんです。内容というより主題に合っていないなあと思ったりしまして。
前作「眠る男」ではタッチと内容・主題がぴったりだったでしょ? あの映画では私が知らない間で比較的近くでロケしたらしいです。観に行きたかった。

映画館で観るのが一番でしょうが、なかなか事情が許さないもので(泣)。
より客観的に観るには大きめのTV画面くらいでも良いのではないかと自らを慰めたりしております(笑)。
2007年04月24日 08:01
>ロケが中心だが、内容上は舞台的な印象が強い
確かにそうでしたね。 そのせいでこういった雰囲気が出来たのかもしれませんね。

>より客観的に観るには大きめのTV画面くらいでも良いのではないかと
これ実はわたしも同感なのです。 周りの人を気にしなくてすむので、家で一人でお茶を飲みながらというのが一番好きです。
オカピー
2007年04月25日 00:39
みのりさん、お久しぶりです。

固定カメラとロングショットの多さも実は舞台的な印象に繋がっているのかもしれません。ただ、舞台は役者の演技がオーヴァーだから、活気が生まれてくるのに対し、演技は映画的なままであるから、タッチがどうにも冷たい感じ。

>TV対映画館
映画館では前のでかい頭や近くでお菓子を食べる音、あるいは相手に映画の解説するバカップルなどが気になって集中できないこともあるので、TVのメリットも結構ありますよね。
体調が悪いときにすぐに鑑賞をやめられるのもグッドです♪
みのり
2007年05月02日 16:45
以前にもTBさせていただいたのですが今回もTB出来ないようです。 すぐにTBが反映する記事もあるというのに、よくわからないものですね。
オカピー
2007年05月03日 03:23
みのりさん
正規に入っておりましたよ。
しかし、不安定なのは困りますね。

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