映画評「ナバロンの要塞」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1961年アメリカ映画 監督J・リー・トンプスン
ネタバレあり
海洋アクションを得意としたスパイ冒険小説家アリステア・マクリーンの映画化作品は幾つもあるが、第二次大戦を背景にしたこの戦争アクションが断然優秀。前回観たのは随分昔なので楽しみに観てみたのだが、やはり面白く、色々と娯楽作をものしたJ・リー・トンプスンの最高作と言って間違いない。
ドイツ軍がギリシャの孤島に大砲二基を設置した要塞を作り、トルコを味方に付けようと画策中。その計画を頓挫させようと英国軍の精鋭6人が現地のゲリラたちと接触して大砲の破壊を企てる。
という物語で、まずはおんぼろ漁船で島に接近中に敵に乗り込まれ撃退するのが最初の見せ場。ここでトンプスンは切れの良いアクションを見せる。
作戦リーダーの大尉グレゴリー・ペックが登山家という設定で、真夜中に絶壁を登る場面が次の見せ場である。他の連中は素人だから余計に厳しいわけだが、上手いのは一緒に登るアンソニー・クィンが友人ながら家族を殺される原因を作ったペックを恨んでいて、いつ殺すか分らないことをその直前の嵐の場面で説明したことである。主演のペックがここで死ぬことはないと解っていても、サスペンスが見事に増幅する。
この時少佐アンソニー・クェールが負傷して足手まといになるのだが、励ますつもりで嘘を付いたのが後々大いに役に立つ。スコポラミンという自白薬で自白させられた時に寧ろ偽りの情報でドイツ軍を撹乱することが出来るのである。これもスパイ冒険ものらしい設定でご機嫌。
ゲリラ代表にはギリシャの大女優イレーネ・パパスが扮しているが、もう一人の女性ゲリラ、ジア・スカラの使い方がなかなか上手い。ペックが人情派の爆弾専門家デーヴィッド・ニーヴンに「非人道的」と糾弾された時に彼女が涙を流すのだが、それには彼女なりの理由があるのだ。
この後の展開は言わぬが花で、基本的にはゲーム感覚の戦争アクションと思って良いわけだが、昨日の「CUBE ZERO」と違ってゲームの為のゲームではない。ペックやクィン、ジア・スカラといった人物を通してきちんと戦争の非情さを踏まえて作っているから、彼らの一挙手一投足にスリルを感じることが出来るわけである。説明的な部分がないでもないが、無駄や水増し的な場面は見出せない。
最終盤ニーヴンが要塞に仕掛けた爆弾の扱いもサスペンスフル。
トータルで<戦争映画作戦編>でトップに上げたい傑作である。17年後にキャストを一新して「ナバロンの嵐」という続編が作られたが、平凡だった。
1961年アメリカ映画 監督J・リー・トンプスン
ネタバレあり
海洋アクションを得意としたスパイ冒険小説家アリステア・マクリーンの映画化作品は幾つもあるが、第二次大戦を背景にしたこの戦争アクションが断然優秀。前回観たのは随分昔なので楽しみに観てみたのだが、やはり面白く、色々と娯楽作をものしたJ・リー・トンプスンの最高作と言って間違いない。
ドイツ軍がギリシャの孤島に大砲二基を設置した要塞を作り、トルコを味方に付けようと画策中。その計画を頓挫させようと英国軍の精鋭6人が現地のゲリラたちと接触して大砲の破壊を企てる。
という物語で、まずはおんぼろ漁船で島に接近中に敵に乗り込まれ撃退するのが最初の見せ場。ここでトンプスンは切れの良いアクションを見せる。
作戦リーダーの大尉グレゴリー・ペックが登山家という設定で、真夜中に絶壁を登る場面が次の見せ場である。他の連中は素人だから余計に厳しいわけだが、上手いのは一緒に登るアンソニー・クィンが友人ながら家族を殺される原因を作ったペックを恨んでいて、いつ殺すか分らないことをその直前の嵐の場面で説明したことである。主演のペックがここで死ぬことはないと解っていても、サスペンスが見事に増幅する。
この時少佐アンソニー・クェールが負傷して足手まといになるのだが、励ますつもりで嘘を付いたのが後々大いに役に立つ。スコポラミンという自白薬で自白させられた時に寧ろ偽りの情報でドイツ軍を撹乱することが出来るのである。これもスパイ冒険ものらしい設定でご機嫌。
ゲリラ代表にはギリシャの大女優イレーネ・パパスが扮しているが、もう一人の女性ゲリラ、ジア・スカラの使い方がなかなか上手い。ペックが人情派の爆弾専門家デーヴィッド・ニーヴンに「非人道的」と糾弾された時に彼女が涙を流すのだが、それには彼女なりの理由があるのだ。
この後の展開は言わぬが花で、基本的にはゲーム感覚の戦争アクションと思って良いわけだが、昨日の「CUBE ZERO」と違ってゲームの為のゲームではない。ペックやクィン、ジア・スカラといった人物を通してきちんと戦争の非情さを踏まえて作っているから、彼らの一挙手一投足にスリルを感じることが出来るわけである。説明的な部分がないでもないが、無駄や水増し的な場面は見出せない。
最終盤ニーヴンが要塞に仕掛けた爆弾の扱いもサスペンスフル。
トータルで<戦争映画作戦編>でトップに上げたい傑作である。17年後にキャストを一新して「ナバロンの嵐」という続編が作られたが、平凡だった。
この記事へのコメント
アリステア・マクリーンのファンとしての記事になっておりますが、TBを持参いたしました!
本作は子供の頃、TVで吹き替え版を何度も観ているわけですが、もしかするとノーカット字幕スーパー版では初めてだったかもしれません^^;
今年から名作の再鑑賞に力を入れようと考えていたら、案外、吹き替え版でしか観ていない作品も多いのですよ。ホークスの「エルドラド」などもそうで、未見のシーンがあって驚いてます^^;
本作、各分野のスペシャリストを揃えて任務を遂行するというスタイルの走り(厳密には他にもありますが)、みたいな戦争アクションの傑作で、このゲーム感覚だけが後の作品に影響を与えてしまった感も無きにしもあらず。
もちろん、プロフェッサーご指摘の通り、色んな仕掛けや伏線が巧妙に散りばめられているのがミソで、負傷したアンソニー・クェールの扱いなど、本当に見事だったと思います。
手に汗握るとはまさに本作のようなテイスト。案外、忘れ去られがちな傑作のような気もして、ブログで取り上げてみました。
我々の世代ですとそういうことも多いですね。私の場合は先日UPした「コレクター」がそうだったかもしれません。小学生の時から何回も見た秀作なのですがねえ。
クェールは、他の5人と違って実戦では全く活躍しないのに、ドイツ軍をあらぬ方向に誘導し、ペックとニーヴンがその間隙をつくことにになる。邪魔者となるべき人物が他のメンバーに劣らぬ大活躍するのが、良いですよね。
若い人が見るとスクリーン・プロセスが稚拙と映るのでしょうか?
>「猿の惑星」
???
ああっ、トンプスンのことですね。
あれは正編以外は碌なものじゃないですが、このベテランが担当した第4編と第5編は特にお粗末、正にトホホでございました。
脚本の出来栄えがもろに反映してしまう正直な(笑)監督さんなので、あの脚本群ではどうにもならんでしょう。
先日「ナバロンの嵐」を初めて見ました。007シリーズに出ていた役者さん達がたくさん出てくると言う点で好んで最後まで楽しんで見ました。やっぱり僕は凡人なんですよ(苦笑)。ガイ・ハミルトン監督の007作品も「ダイヤモンドは永遠に」や「黄金銃を持つ男」みたいに評価が低い作品が好きだし。
>中学時代の僕は“よくやった”と思いましたよ。
戦後28年。日本も変わったんですね。第一次オイルショックの時代。
>蟷螂の斧さんの仰ることが達成されたことになるかもしれません。
それは嬉しく思います。ありがとうございます。子供は悪い家庭環境から逃げられないのですから。
>女優としての性格を表している
地味な渋い作品が似合う女優さんも必要です。
>先日「ナバロンの嵐」を初めて見ました。
>やっぱり僕は凡人なんですよ(苦笑)。
愛すべき凡作は無数にありますし、凡作を愛する人が凡人というわけでもないですよ。映画(に限りませんが)の良し悪しと好き嫌いはまた別ですね。
「ナバロンの嵐」のほうが面白いという人もいますから、人の好みも色々です^^
>デーヴィッド・ニーヴン
「ナバロンの要塞」を見て暫くしてからテレビで「カジノロワイヤル」1967年版を見ました。彼に合ってる役だと思いました。
>愛すべき凡作は無数にあります
>映画(に限りませんが)の良し悪しと好き嫌いはまた別ですね。
嬉しい言葉をありがとうございます。J・リー・トンプスン監督の「猿の惑星・征服」「最後の猿の惑星」僕は好きです。特に猿の惑星シリーズの中で一番小品っぽい第5作が(苦笑)。
>1回目、届かない。2回目、残念ながら・・・そしてCM
>(いかにも地上波の時代)。そして、3回目で遂に!ホッとしました。
こういう見せ方は良し悪し。
ヒッチコックの「フレンジー」の地上波初放映(当時は地上波しかありませんが)の時に、カメラが(絞殺魔が殺しをする)部屋からトラックバックして家の外まで出ていく(犯行を敢えて描かない)素晴らしいワン・ショットがあったのですが、その途中で何とCM。僕が割合好きだった批評家の滋野辰彦氏は、頭に来てスイッチを消したと仰っていましたね。僕は初めてでしたので最後まで観ましたが、後年完全版を観た時にその気持ちが解りましたよ。
>J・リー・トンプスン監督の「猿の惑星・征服」「最後の猿の惑星」僕は好きです。
すみません。僕は二作とも酷評しました。尤もそれから40年くらい見ておりませんから、今観たらどう思うか解りませんが、多分ダメでしょう^^;