映画評「JAZZ SEEN/カメラが聴いたジャズ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2001年ドイツ映画 監督ジュリアン・ベネディクト
ネタバレあり

アメリカの写真家ウィリアム・クラクストンの生涯を、本人や知人・顧客とのインタビューにより、綴り作品歴を紹介するドキュメンタリー。

最近はアメリカとドイツの合作映画が増えているが、ドイツ単独製作でも他国を舞台にした作品がちらほら見えているのはドイツ映画界の野心であろうか。既にお気づきのように本作もドイツ製作ながらアメリカ人にスポットを当てているのが興味を引く。
 また、基本はドキュメンタリーながらTV番組のように役者を使った再現ドラマに少なからぬ時間が割り当てているのがユニーク。

クラクストンの写真はTV「ファッション通信」などでたまに観る機会があり、彼はファッション写真家と思っていたのだが、50年代からジャズのジャケット写真を撮っていたらしい。そもそもジャズのジャケットにはフォトジェニックなものが多く、彼の撮ったものも相当混じっているにちがいない。当初はウェストコースト・ジャズ専門だったようだ。

アメリカの大映画監督ジョン・フランケンハイマーが「いい写真を撮るのは天分だ」というニュアンスの話をするが、彼の写真を見た時平凡でないことは直感的に理解出来る。映画監督の言葉だけに映画に絡めて色々と言及したいのだが、話し出すと長くなるので、良い映画を作るのも天分だが良い映画を良い映画と理解するのは写真とは些か違う、と言うだけに留めたい。

なかなか美男子のトランペッター、チェット・ベイカーに関する気の利いたコメント、刑務所から出所したばかりのアルト・サックス奏者アート・ペッパーの写真をバックに語る当時のジャズ・ミュージシャンが例外なく麻薬漬けだった事実の暴露、伴侶となるモデルのペギー・モフィットと知り合った時の話も興味深い。そこからファッション写真を撮ることになるのは当然の成行に思えるが、半世紀近くも髪型と化粧を変えない彼女を観るだけでも楽しくなるであります。

有名な同業者ヘルムート・ニュートンとの写真談義の後、「マンハッタン物語」のスティール写真で知り合ったらしい友人スティーヴ・マックィーンに関して「頭が良い男だが、時々粗暴な面を見せる」というコメントは一映画ファンとして興味深く聞いた。

かなり幅広い交友があることが伺え、映画俳優デニス・ホッパー、ヘアデザイナーのヴィダル・サスーン、作曲家バート・バカラック、ピアニストのラス・フリーマン、サックス奏者ベニー・カーター、写真家デーヴィッド・ベイリーなどインタビューに答えたアーティストは多数。

バックに流れる音楽は当然デューク・エリントン、チェット・ベイカーなどの彼が親しんできたジャズである。僕のジャズへの理解は甚だ心もとないが、快い時間を過ごすことができたと思う。

この記事へのコメント

viva jiji
2007年02月04日 18:21
けっこう気持ち良くスムーズに
すすんでゆく展開で観れたでしょ?

心地良いジャズと粋な写真とジャズメンたちの
普段着の顔・・・伝説的なカメラマンの足跡なども
かい間見れて、豊かな気分に浸れるお好みの1本です。
オカピー
2007年02月05日 03:06
viva jijiさん

ええ、ええ。
本文で書くべきか迷ったのですが、デニス・ホッパーがチェット・ベイカーの話をする。次に彼の写真にかぶさるようにクラクストン本人が彼の話を始める、といった具合に繋がれるなど、脚本もなかなか計算されているからでしょうね。

ドキュメンタリーと言っても最近流行らしい一種のシネ・エッセイの類なので、構成がどうのこうの言うのは野暮かなとも思いました。

この記事へのトラックバック

  • カメラが聴いたジャズ ウィリアム・クラクストン

    Excerpt: 今でもいるんだろうか。 眉間にシワ寄せてジャズ聴いてる輩・・・。 なに悩んでるんだか、どっか身体ぐあいが悪いんだか、 いたよ、若い頃。 狭くて暗い階段をトントンと下りてね、 ブ厚いドア(音洩れするから.. Weblog: 映画と暮らす、日々に暮らす。 racked: 2007-02-04 18:12