映画評「サウンド・オブ・ミュージック」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1964年アメリカ映画 監督ロバート・ワイズ
ネタバレあり
ミュージカルとしてはロバート・ワイズ自身の旧作「ウエスト・サイド物語」には及ばないものの、映画館で観た最初のミュージカル映画であり、ミュージカル嫌いを直してくれた思い出深い作品である。
「オクラホマ!」「王様と私」「南太平洋」などで有名なリチャード・ロジャーズとオスカー・ハマースタイン2世の舞台ミュージカルの映画化。
余りにお馴染みなお話なので語るもがなであるが、紹介かたがた述べていきましょう。
ナチス・ドイツに支配され始めた頃のオーストリア(ということは1933年と思われる)、女児5人、男児2人を抱えたやもおトラップ大佐(クリストファー・プラマー)の依頼に基づき家庭教師として派遣された修道女マリア(ジュリー・アンドリューズ)は、到着早々子供たちを大佐の規則から解放し、歌の素晴らしさを教える。
アルプスの俯瞰移動撮影が暫く続いて、小さく見えるマリアに近づいていき、マリアが歌い始める、という開巻のカメラワークが絶品。わくわくしてしまう。昨今俯瞰から始まる映画は多いが、こういう連続性がない場合が殆どで感心する機会は余りない。
自由闊達のマリアがカーテンから作り直した遊び着を子供たちに着させて高原を、街を駆け回る場面がやはり素晴らしい。アルプスを背景にした美しい高原で「ドレミの歌」を教える場面には思わず感涙してしまう。続く植物のトンネルを潜り抜けるショットは躍動感があって昔からお気に入り。
余談。先般「ドレミの歌」が<残したい日本の歌ベスト100>に選ばれたが、どう考えても日本の歌ではないです(笑)。それから、呪文的な歌「マイ・フェイヴァリット・シングズ」はジョン・コルトレーンの名演でも知られるし、日本の鉄道会社のCMでも長年使われていて、どちらも日本人に親しまれている曲ということになる。
さて、中盤は、大佐を挟んだ金持ちの男爵夫人(エリナー・パーカー)とマリアとの三角関係の顛末を描き、子供たちに愛されるマリアがふさわしいと理解されるまで。
子供たちとの場面には及ばないが、薄暗い中でのマリアと大佐のデュエットはロマンティック・ムード満点。
しかし、終盤40分はミュージカルとしては余り宜しくない。伝統ある祖国を愛する大佐はナチスの徴用を拒んで外国への脱出を図ろうとするのだが、本格サスペンスとなってミュージカルのムードを壊してしまうのである。サスペンスとして実に強烈だし、「エーデルワイス」「さよなら、ごきげんよう」の使い方も上手いので、そうがっかりというわけでもないが。
「マイ・フェア・レディ」の舞台版に主演しながら映画版ではオードリー・ヘプバーンに主演の座を譲ったジュリー・アンドリューズが起死回生の名演、ミュージカル映画ファンを喜ばせた。
また、前述作でオードリー、「ウエスト・サイド物語」でナタリー・ウッドを吹き替えたマーニー・ニクスンが尼僧役で脇役出演している。
トラップ家はドイツ映画「菩提樹」でも取り上げられた実在の一家で、数日前に子供たちの一部はまだご健在であると聞いた。
1964年アメリカ映画 監督ロバート・ワイズ
ネタバレあり
ミュージカルとしてはロバート・ワイズ自身の旧作「ウエスト・サイド物語」には及ばないものの、映画館で観た最初のミュージカル映画であり、ミュージカル嫌いを直してくれた思い出深い作品である。
「オクラホマ!」「王様と私」「南太平洋」などで有名なリチャード・ロジャーズとオスカー・ハマースタイン2世の舞台ミュージカルの映画化。
余りにお馴染みなお話なので語るもがなであるが、紹介かたがた述べていきましょう。
ナチス・ドイツに支配され始めた頃のオーストリア(ということは1933年と思われる)、女児5人、男児2人を抱えたやもおトラップ大佐(クリストファー・プラマー)の依頼に基づき家庭教師として派遣された修道女マリア(ジュリー・アンドリューズ)は、到着早々子供たちを大佐の規則から解放し、歌の素晴らしさを教える。
アルプスの俯瞰移動撮影が暫く続いて、小さく見えるマリアに近づいていき、マリアが歌い始める、という開巻のカメラワークが絶品。わくわくしてしまう。昨今俯瞰から始まる映画は多いが、こういう連続性がない場合が殆どで感心する機会は余りない。
自由闊達のマリアがカーテンから作り直した遊び着を子供たちに着させて高原を、街を駆け回る場面がやはり素晴らしい。アルプスを背景にした美しい高原で「ドレミの歌」を教える場面には思わず感涙してしまう。続く植物のトンネルを潜り抜けるショットは躍動感があって昔からお気に入り。
余談。先般「ドレミの歌」が<残したい日本の歌ベスト100>に選ばれたが、どう考えても日本の歌ではないです(笑)。それから、呪文的な歌「マイ・フェイヴァリット・シングズ」はジョン・コルトレーンの名演でも知られるし、日本の鉄道会社のCMでも長年使われていて、どちらも日本人に親しまれている曲ということになる。
さて、中盤は、大佐を挟んだ金持ちの男爵夫人(エリナー・パーカー)とマリアとの三角関係の顛末を描き、子供たちに愛されるマリアがふさわしいと理解されるまで。
子供たちとの場面には及ばないが、薄暗い中でのマリアと大佐のデュエットはロマンティック・ムード満点。
しかし、終盤40分はミュージカルとしては余り宜しくない。伝統ある祖国を愛する大佐はナチスの徴用を拒んで外国への脱出を図ろうとするのだが、本格サスペンスとなってミュージカルのムードを壊してしまうのである。サスペンスとして実に強烈だし、「エーデルワイス」「さよなら、ごきげんよう」の使い方も上手いので、そうがっかりというわけでもないが。
「マイ・フェア・レディ」の舞台版に主演しながら映画版ではオードリー・ヘプバーンに主演の座を譲ったジュリー・アンドリューズが起死回生の名演、ミュージカル映画ファンを喜ばせた。
また、前述作でオードリー、「ウエスト・サイド物語」でナタリー・ウッドを吹き替えたマーニー・ニクスンが尼僧役で脇役出演している。
トラップ家はドイツ映画「菩提樹」でも取り上げられた実在の一家で、数日前に子供たちの一部はまだご健在であると聞いた。
この記事へのコメント
本作は私にとって「My Favarit Movie」とでもいうべき作品です。
衝撃度、完成度では確かに「ウエスト・サイド物語」には及びませんが、何が違うかと言えば・・・子供たちが出ているという点(笑)
>高原で「ドレミの歌」を教える場面には思わず感涙
いや、まさにまさに・・・昔は本作を観て泣くなんてことはなかったのですが、やはり歳を経て、涙腺がかなり弛んでいるようです^^;
>植物のトンネルを潜り抜けるショットは躍動感があってお気に入り
ここも全くプロフェッサーと同じでして、オープニングとこのシーンは本当に素晴らしいと観るたびに思います。
また、終盤について、私の拙稿でも少し触れております。忍び寄る戦争の影など省略して、結婚式のシーンがクライマックスなら満点だと私は思うのですが・・・
そうした構成やテーマ性などの不首尾が問題にならぬほど、ジュリーの歌声と楽曲は魅力的で、子供たちが愛くるしく感じられる名作だと思います。
TB、届いていないでしょうか?
ミュージカル映画がお好きとは意外中の意外でしたよ。私も「ザッツ・エンタテインメント」シリーズはよく観ています。
全く仰るとおりですが、泣ける場面まで同じとは。年を取ると涙腺が緩むものですね。
純粋に素晴らしい場面に泣ける・・・これが本当の感動でしょう。
TBの再チャレンジご苦労さまです。無事に入っていましたが、過って消してしまいました(汗)。が、スパムに入っているツインズの弟を反映させ、事なきを得たのでございます(笑)。
厄介者だと思っていたダニー・デヴィート(兄ですが)も、時には役に立つものなのですね(笑)
私はプロフェッサーの3分の1もミュージカルを観ていないだろうと思うのですが、一応はミュージカル・ファンなのです^^;
「トップ・ハット」、「バンド・ワゴン」、 「踊る大紐育」、「雨に唄えば」・・・名作のハシゴを叶えてくれるのが「「ザッツ・エンタテインメント」!(笑)
PARTⅡで足元がおぼつかなくなったアステア&ジーン・ケリーを観ると、また涙腺が弛んでしまいそうです^^;
そうそう、不肖の兄弟(こんな言い方あるかな)にも役に立つこともあるのです(笑)。
私の世代でこれほどミュージカルを観ている人間もそうはいないと思いますし、男性のミュージカル・ファンはかなり少ないですから、30本も観ていればかなり観ているほうではないでしょうか。いずれにしても、嬉しいなあ。
アステアとケリーね。本当に泣けてきます。
「オカピーを泣かすのに刃物は要らぬ、ミュージカル映画の1本もあれば良い」です。お粗末。
先月だったかしら新聞にホテルになるのでアメリカに移住した一家の末娘(確かマリアと言ったかな。かなり高齢)が式典に呼ばれたと載っていました。感慨深いですね。
オリンピック観戦で相当疲労しましたが、元気ですよ。
>マリア
ただ一人ご健在というニュースは僕も読みましたが、実話の凄みを感じます。
この一家をモデルにした最初の映画は確か「菩提樹」でしたね。
>ルート・ロイベリック
出ていましたね。
しかし、映画専門サイトallcinemaは未公開扱いになっています。
結構オールドファンには有名な作品ですから、怪しからんですね。
>秘密諜報機関
ウィドマークは好きでよく見ましたが、これは観ていないような気がします。
VHSでも何でも良いですから観たいです。
>タミーと独裁者
「タミー」は僕も大好きな50年代の名曲ですが、Tammy and the Bachelorですから、「独身者」で間違いなし。
間違いはともかく、態度が悪すぎますね。
海外ですが、IMDbは随時訂正しているので、非常に精度が高いです。
検索エンジンも充実しています。
>BS-i
なぬなぬっ、わっ本当だ、「知られざる“サウンド・オブ・ミュージック”」・・・
その頃僕はNHK-BS2で黒澤明特集を観ていました。
昨日今日と雷に祟られて、DVDの保存版を作ろうと思った「七人の侍」は始まって6分で停電、尤も停電がなくても雷雨で全く映りませんでしたが。
今日も保存版にしようと思ったら、また雷雨で途中映らない。今回の「七人の侍」特集はとんでもないことになってしまいました。
>海外のドキュメンタリー
お怒りですね(笑)。
スウェーデンなんかも、ベルイマンのドラマがTVでオリジナルとして放映されるわけですからね。レベルが高いです。
日本の民放TVなど観るべきものなどありはしない。
私はミュージカル好きですし文句はないのですが、出来過ぎな優等生イメージがある映画(文部科学省推薦的な)。
でも、やっぱり、曲は素晴らしいですね。
批判的なのかなと思って伺ったら、何と滅多に出ない★5つではないですか。
お気に入りだったんですね。
>続く植物のトンネルを潜り抜けるショットは躍動感があって昔からお気に入り。
いいですよね~!
>金持ちの男爵夫人(エリナー・パーカー)
この人も好演です。アカデミー賞では一度も受賞できなかったけど、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームにも名前が刻まれているんですね。
>当時の邦題は今より良い感じがします。
「サウンド・オブ・ミュージック」は邦題をつけなくて良かったです。
>共和党は、その点では今と余り変わらない。
保護貿易を主張するのはいつも共和党なんですね。
>クリストファー・プラマーが死去。享年91歳。
近年再び良い仕事をしていました。
年を取ると足腰が弱くなって転倒の可能性が増大しますからねえ。谷啓も階段から落ちたのが原因だったでしょう。
合掌!
>この人も好演です。アカデミー賞では一度も受賞できなかったけど、
>ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームにも名前が刻まれているんですね
僕にとって印象深いのは「探偵物語」における、カーク・ダグラスの鬼刑事の奥さん役。彼の扱いに涙しました。
>保護貿易を主張するのはいつも共和党なんですね。
トランプに通ずる孤立主義のモンローは民主共和党で、この党は後に民主党と共和党に分裂したのですが、どちらかと言えば現在の民主党の先祖に当たる党らしく、モンローが共和党=保護貿易の起源ではないようですね。
>「マイ・フェア・レディ」の舞台版に主演しながら映画版ではオードリー・ヘプバーンに主演の座を譲ったジュリー・アンドリューズ
悔しかったでしょうね!ヘプバーンはそんなに歌が上手くないそうだし(マーニ・ニクソンが吹替え)。
>マーニー・ニクスンが尼僧役で脇役出演している。
これは知りませんでした。
>「探偵物語」における、カーク・ダグラスの鬼刑事の奥さん役。
一度見たいです。
>年を取ると足腰が弱くなって転倒の可能性が増大
そうです。でも成人病も怖いです。
最近保険屋のオバサンが来ました。70歳まで保険料を払うか?75歳までか?再雇用で働けるのは65歳まで。60歳で保険をやめるのが賢明か?人生において色々な選択がありますね。
>悔しかったでしょうね!
ジュリーでは地味なので、映画では映えないだろう、という大人の事情があったのでしょうね。
「サウンド・オブ・ミュージック」は、その点、ヒロインがキリスト教系の家庭教師なので、派手さが必要ではない^^v
>一度見たいです。
去年NHKが放映したのは・・・薬師丸ひろ子と松田優作が主演した「探偵物語」でした。会社の同僚が僕の部屋を訪れ「探偵物語」のビデオを見つけ、「あっ! 薬師丸ひろ子」と言ったのは大間違い。僕が持っていたのはカーク・ダグラス主演のほうでした(笑)。
冗談はともかく、比較的放送機会がある作品と思います。今度やった時はお見逃しなく。
>最近保険屋のオバサンが来ました。
ふーむ、医療保険と介護保険を兼ねたのに入っていますが、高いんですよねえ。その金を趣味に回せれば、昔観た貴重な映画にもDVDやブルーレイ或いは配信で観られると思うんですがねえTT
>ヒロインがキリスト教系の家庭教師なので、派手さが必要ではない^^v
なるほど。それは当たっています(納得)。
>カーク・ダグラス主演のほう
未見です。一度見たいです。
>医療保険と介護保険を兼ねたのに
どちらも必要です。奥様の為にも。
>東京五輪組織委員会
「会長職は誰か?」よりも五輪を開催しない方が良いのかも?
>真夜中に目が覚めてしまいました。そういう年になったんですね(苦笑)
そうですねえ。僕も、特に冬は、寝てそれほどしないうちに一度目が覚めてトイレに行くことが多くなりました。面倒くさいんですが、大概その後寝られるので、最悪ではありません。
>そして「13日午後11時8分ごろ・・・皆さん、どうかご無事で・・・
スマホが変な鳴り方をした2秒後くらいに、本番がやって来ました。結構長く、10年前を思い出し、ビビりましたTT
被害もなく無事でした。前回は家に帰ったら、CDが散らばっていました。
>「会長職は誰か?」よりも五輪を開催しない方が良いのかも?
僕は少数派のオリンピックやれ派です^^
去年のうちから、延期するなら今年の10月くらいが良いと思っていたのですよ。多分ワクチンがある程度接種され、少なくとも選手は問題なく派遣されると予想できたからです。だから、延期が丁度一年になったのにはちょっとがっかり(解散期日の決定権を事実上握っているアメリカのNBCも今回に限り我慢すると期待していたので)。この三カ月は全然違うと思います。たかが三カ月されど三カ月。暑さ対策にもなる。
五輪によってコロナ疲れした心を癒してほしいと思っているのです。来年でも良いから。
五輪をやったら感染が広まる、という意見を放つ人がいますが、殆どデマですね。夏の暑さとワクチンによりかなり抑えられるでしょうし、無観客でやる手もないわけでないですから。来年であれば、観客もほぼ通常通りに入れられるでしょう。
>前回は家に帰ったら、CDが散らばっていました。
僕の友人が埼玉県に住んでいますが、結構大きく揺れたそうです。
東北地方はこれから寒気に強風。大変です。
>たかが三カ月されど三カ月。暑さ対策にもなる。
フルマラソン。好記録が期待できるかも知れません。
>夏の暑さとワクチンによりかなり抑えられる
コロナウイルスは高温多湿や紫外線に弱いと言われていますね。
>ナチス・ドイツに支配され始めた頃のオーストリア
「領地はたくさんある。人口もたくさんある。しかしオーストリア民族はいない。国家はない。」と言ったジャーナリストがいます。
>「青春の殺人者」の方が随分盛り上がってますねー!
右脇のコメントの部分が同一作品で占められたのは、10件載ることになってからは、初めて。壮観でした。
しかし、まあ、僕がうっかり使った言葉が、極めて正当に反論されたことで盛り上がってしまって、喜んでよいのかどうか(笑)。勉強しないといけないことがたくさんあります。
>東北地方はこれから寒気に強風。大変です。
ついていない人はどこまでもついていませんね。気の毒すぎます。
>「領地はたくさんある。人口もたくさんある。しかしオーストリア民族はいない。国家はない。」と言ったジャーナリストがいます。
確かに、オーストリアは現在のドイツ、イタリアに当たる地域に君臨する大帝国(神聖ローマ帝国とはオーストリアのこと)である一方、オーストリアというのは極めて抽象的なものだったでしょうね。小国群でゆるやかに域が構成されていたドイツもイタリアも19世紀半ばまでは似たようなものだったわけですが。