映画評「逆転」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1963年アメリカ映画 監督マーク・ロブスン
ネタバレあり

「トロイのヘレン」「エル・ドラド」・・・子供時代に観て以来久しぶりに観るという作品が続いている。特に本作はヒッチコック・タッチの作品だけに少しはヒッチコックを知っていると言える今観るのは大変興味深い。

製作は1963年、冷戦真っ只中だから、それに応じた内容になっている。

ノーベル賞授賞式にイタリアの医学者、ドイツ出身のアメリカの物理学者エドワード・G・ロビンスン、アメリカの文学者ポール・ニューマンらが集まる。
 売れもしないのに賞受賞に苦々しい思いを抱いているニューマンは再会したロビンスンが替え玉に代ったのではないかと疑いを持った直後、何者かに呼び出された場所に死体を発見するが、その後ビルから突き落とされ、食いつなぐ為に別名で書いている自らの探偵小説よろしく内偵せざるを得なくなる。

ヒッチコックの巻き込まれ型タイプのサスペンスで、随所にヒッチコック的味わいあり。
 例えば、橋の上で車に追いかけられるのは4年前の「北北西に進路を取れ」の飛行機急襲場面の再現であるし、逃げ出して入り込んだヌーディスト会議場での騒動も同じく競売場の場面を彷彿とする。ニューマンのとぼけた感じは同作のケイリー・グラントのコピー的印象である。
 終盤には「三十九夜」幕切れそっくりの場面もあり、これにはヒッチコックも苦笑しただろう。

さすがにこのジャンルの神様ヒッチコックほど緩急自在というわけには行かないが、スパイ物の要素を盛り込んでなかなか面白く作られている。何でも屋マーク・ロブスンの器用さを再確認する思いである。

レニングラード行きの貨物船から本物のロビンスンを救い出す場面は自動車を上手く使ってスリル満点、寧ろ4年後のヒッチコックのサスペンス「引き裂かれたカーテン」の幕切れに影響を与えているような印象すらある。
 ニューマンの相手役になる美人エルケ・ゾマーも「カーテン」のジュリー・アンドリューズより性格がはっきりしていて余程宜しい。

この記事へのコメント

2007年07月07日 06:51
さすがヒッチコックのオカピーさん、どんな作品から引用されているのか分析が細かくて参考になります。でも不足にもヒッチコックの作品はまだまだ観てないものが多くて「三十九夜」「引き裂かれたカーテン」も未見です(>.<)。NHKもヒッチコック劇場の放送もイイけど、映画の特集も組んで欲しいです。
ところでこの「逆転」はニューマン主演の作品なのに、今回の放送まで存在を全然知りませんでしたが、とても面白くて掘出し物でした。今までに観たニューマン主演の作品ではかなり上にランクしてます^^)。
オカピー
2007年07月07日 17:52
ぶーすかさん、こんばんは。

子供時代に観た時はヒッチコックも禄に知らない頃でしたから、そういう見方も出来ずにそう強い印象が無かったのですが、さすがに今回はピンと来るところが多くて楽しめました。

何年か前に小特集を組まれました。同じ時期に並行してWOWOWでもやっていたので、20回忌だったかな。

私としては「明日に向って撃て!」「スティング」「評決」「タワーリング・インフェルノ」がニューマン主演作品のトップクラスで、その次に来るのも目白押し、優秀作品が結構多いニューマンさんでした。そう言えば引退宣言しましたね。

この記事へのトラックバック

  • スティング (The Sting) ロバート・レッドフォード ポール・ニューマン

    Excerpt: どうしても第一回に書かなければ気が済まないのがスティング (The Sting) 1973年 アメリカ大好きな映画NO.1ですケータイの着メロも「ジ・エンターテイナー」(The Entertainer.. Weblog: 映画村 racked: 2007-06-09 17:49
  • マーク・ロブソン監督「脱走特急」「逆転」

    Excerpt: ●脱走特急 ★★★ 【NHKBS】「殴られる男」「逆転」のマーク・ロブソン監督。フランク・シナトラ主演。トレバー・ハワード、エドワード・マルヘア、セルジオ・ファントーニ出演。「大列車作戦」にも似たドイ.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2007-07-07 06:41