映画評「エリザベスタウン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督キャメロン・クロウ
ネタバレあり

「あの頃ペニー・レインと」が好評だったキャメロン・クロウの新作だが、今度の評判は日米共に今一つらしい。が、僕は楽しんだ。

カリフォルニアの靴メイカーに10億ドルもの損害を与えて倒産に追い込んだ為自殺しようとしているデザイナー、オーランド・ブルームが妹から父親の死を告げられ、母親スーザン・サランドンの代りに父の故郷ケンタッキー州エリザベスタウンに向い、たった一人しか乗っていない飛行機の中でスチュワーデスのキルステン・ダンストに道順を教えてもらう。
 これが彼女との関係の始まり。恋人に振られた彼と多忙な恋人に相手にして貰えない彼女が互いの孤独を埋め合う形で慕情が進んでいくわけである。

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大昔好きだったジョアン・ウッドワード(ポール・ニューマン夫人)と似た感じがあり、やはりお気に入りのキルステンが明るいだけでなく洞察力もある女性を好演、まず良い気分にしてくれる。「スパイダーマン」よりずっと良い。

さて、町についた彼は親族を始め少なからぬ町民に温かく迎えられ、埋葬の仕方を巡って親族との間でちょっともめても彼の主張する火葬で決着、スローライフの温かみに触れる。それでも彼の自殺への思いは消えないのだが、エリザベスタウンから遥か西部を目指して車をスタートさせた彼がキルステンの作った地図とCDがナビゲートするままにカンザス州の祭に立ち寄る、思いがけぬ出会いがあるとも知らずに。

幕切れについては「知らぬは主人公ばかりなり」という印象もあるが、基本は主人公の再生のお話。主題はそれに尽きる。アメリカ人全体へと敷衍して考えることも出来るが、余り考えすぎるのも良し悪しであろう。
 散漫だの、一貫しないなどの評価の半分はその通り。散漫なのは「ペニー・レイン」も似たり寄ったり、クロウの持ち味なので何を今更である。しかし、それぞれの挿話のベクトルは主人公の再生というテーマにきちんと向っていて、一貫しないということはない。
 また、訳のわからない部分や目立つご都合主義は、ヒロインに妖精的役目を与えた寓話と解釈できる本作の性格を考えると余り気にならない。

母親が息子を斥候に出してから告別式に出席するのはずるいが、その彼女が必要以上にしめやかにならない気配りで弔問客を笑わせ、「ムーン・リバー」の音楽に乗りダンスを独演する場面に、娘ジュディー・グリアと同じく、思わず涙。因みに泣いたのは僕の方が先であります(笑)。
 続いて、従兄がかつてのバンド・メンバーとレイナード・スキナードの名曲中の名曲「フリー・バード」を演奏し始めるともう堪らない。ただ、火がめぐり始めても彼らが演奏を止めないのは、心情は分るものの、クロウとしては些か羽目を外し過ぎた。

最後は唐突にロード・ムービー風に変り、渋くてマニア好みの選曲に乗って進む場面がアメリカの地理と歴史のちょっとしたスキャンになっているのも興味深い。中東部から中西部へと移り行く景色にじーんとしてしまう。

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「ムーン・リバー」(「ティファニーで朝食を」)「ローマの休日」によりクロウがオードリー・ヘプバーン・ファンぶりを見せたのも嬉しかった。

キャメロンさん 評判上げるのに クロウせり

この記事へのコメント

RAY
2007年04月27日 17:32
こんにちは。この作品のレビューをお待ちしていました。
なぜならオカピーさんの採点が私のとギャップがあるか知りたくて(笑)
でも7点で一緒でした!

散漫っていうのはクロウ監督の特徴ですよね。
いつも「絵日記」みたいな映画を作りますし。(でも私はその「ヘタウマの絵日記」みたいなテイストが結構好きですが!)
そもそも、あざとい技巧に長けた監督なわけでもなく、単に「自分の好きなモノをここまで分かり易く自分の作品に詰め込める人はなかなかいない」という点で評価されてきた人だと思います。
音楽の趣味、人生観、好きな女性像が分かり易い上、一貫していて、洋楽ファンにはたまらない小ネタ満載ですし。この映画もジェフ・バックリィ、U2などが好きな自分にはツボでした。ここ数年、ややこしい時間軸の作品(「メメント」風味)や、交通整理が必要な人間関係ドロドロ作品(「クローサー」風味)などが多く辟易しているので、私はこういう素直な作品を観るとホっとします。
オカピー
2007年04月27日 18:40
RAYさん、こんばんは。
先日のコメントにより順番を飛ばしてUPしました(笑)。しかし、慌てて過ぎて変なミスをやらかしてしましました(汗)。

言い得ていらっしゃいます。クロウに関しては補足することありません。
勿論上手いに超したことはないですが、最近はそう上手い人はいませんし、それならちょっと素人っぽいところもテイストさせ合えば全くOKですね。
私は古い世代なので、サザンロックの名曲「フリーバード」に痺れましたなあ。イントロの段階でぐっと来ました。あの人達の実際の演奏らしいですね。
終盤の音楽集もマニアックでよかったですね。音楽だけで得点稼ぎしているなんて悪口も聞かれましたが、そんなことはありませんでした。

>「メメント」「クローサー」
That's totally right!
私の考えと全く同じです。ゴタゴタ、ドロドロ、行ったり来たり、「うわーっ、勘弁してくれ」といった感じです。
RAY
2007年04月27日 22:54
順番を飛ばして頂いてしまってすみません(笑)
実はオカピーさんが過去にアップされている映画郡では、ホラーと邦画と韓国映画を除けば、ほとんど観ていたりするのですが、名作クラスは「採点に意義無し!」がほとんどなので、最近の作品の方が意見の分かれ目で期待大だったりします(笑)

「フリーバード」はこの映画で初めて聴いたのですが、刺さりました!私はオカピーさんが洋楽を離れ始めた80年代半ばから洋楽に入った世代ですので、それ以前の音楽は映画をきっかけに気に入るパターンが多いです。

>ゴタゴタ、ドロドロ、行ったり来たり、「うわーっ、勘弁してくれ」

私は元々、「マンゴージュースよりレモンウォーターを!」という感じでドロドロが苦手で極端なアッサリ志向なのですが、名作だと「ライアンの娘」とか「天井桟敷の人々」とかどんなに強欲な人物や、ドロドロな場面が描かれていても、観終わった後にまるで一つの人生をやり終えたくらいの充実感があって好きなのですが・・・最近の「勘弁してくれ映画」はメンドーな展開の割には無責任なオチが多くて、ケータイ小説を読まされたみたいな感じで脱力しますよね。
オカピー
2007年04月28日 02:35
RAYさん、こんばんは。

益々その通り。
「ライアンの娘」は映画館で観て足が震えましたし、「天井桟敷の人々」の人生の渦の中に観客を飲み込むような凄さには圧倒されたものです。
勿論映像の素晴らしさ、演技の素晴らしさもあります。
また、これらの映画のごたごたは「ごたごたの為のごたごた」ではないので、観ていて面倒臭くならないのだと思っています。非常に曖昧な表現しか思い浮かばないのですが、RAYさんの仰ることとほぼ同じ意味合いだと思います。

>フリーバード
長い演奏ですが、格好良かったなあ。
レイナード・スキナードは、飛行機事故で主要メンバーが亡くなってしまったので、残念でした。
日本では阪本九くらいですが、米国では飛行機事故で亡くなった音楽家が多いですね。それも何故か大物が多い。バディー・ホリー、オーティス・レディング、ジム・クロウチ、レイナード・スキナード(のメンバー)等々、事故が無ければ音楽史が変わったかもしれない大物です。
viva jiji
2007年05月03日 08:00
仰せに従いまして
>“音楽だけで得点稼ぎしているなんて悪口”記事、
厳重にラッピングしてお持ちしました。
読まずにそのまま屋根の上にでも放り投げておいて下さいませ。
もすけ君がそのうちビリビリに破いてもくれるでしょう!(笑)

ただこれだけは言わせていただきたい。

あくまでも客観的・テクニカル的な鑑賞方法は別として
一般的な映画の見方というのはやはり自分の経験知や
好みに一旦取り込んでから感想が出てくるものだと。
その点は優さんがズバリ言い得てますね・・・

  結局、対<自分>(私)なんですわ~

>ゴタゴタ、ドロドロ、行ったり来たり、「うわーっ、勘弁・・

小さい声でひとこと言って帰ります・・・

   私、そういう勘弁系のほうが見ごたえあって好きです。(笑)

あ、もうひとこと(今度は、大きな声で!)

  人生はゴタゴタのごたごたのゴッタゴッタのごったごったの

   上に総じて、成り立っているものなのでっす! 


久しぶりに来て、相も変わらず、不調法申しましたっ!(笑)
オカピー
2007年05月03日 16:39
viva jijiさん

>どろどろ、ごたごた
結局RAYさんや私が主張は、そうした内容が嫌いというのではなくて、作りに交通整理が必要なのではないか、ということです。
だから「ライアンの娘」も「天井桟敷の人々」も「バージニア・ウルフなんか怖くない」も評価するんです。「隣の女」もドロドロですが、大好き。以上4作品、全て満点でございます。
テクニックを重要視するのは、主題や狙いを把握しやすくする手段、主題を強調する手段であるからであり、テクニックそのものを評価しても意味がないです。
映画に感動するのは内容だけではないんです。実はテクニックにより内容を正確に伝えられるから感動しているのですが、なかなかそれを正確に分析する人は少ない。私はその少数派を自認しているわけです。
経験と好みで評価が分れるのは当然で、いくら客観を目指しても限界はあります。だからviva jijiさんの本作の評価も頷けるところがあります。

ご清聴ありがとうございました(笑)。

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