映画評「ブロークン・フラワーズ」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ジム・ジャームッシュ
ネタバレあり
前作「コーヒー&シガレッツ」はオムニバスだったので、ジム・ジャームッシュとしては1999年「ゴースト・ドッグ」以来6年ぶりの長編ということになる。
プレイボーイでならしたコンピューター成金ビル・マーリーは初老になって引退した今も独身だが、現在の恋人ジュリー・デルピーに出て行かれた後「19才の息子がいて貴方を探している」というタイプライターで打たれたピンク色の手紙が届く。
探偵小説ファンの隣人ジェフリー・ライトが手紙の謎解きに夢中になって、20年前に付き合っていた女性たちをリスト化させると、あっという間に5人の現況を調べ上げて、交通事故で死んだ1人を除く4人を訪れるよう仕向ける。
日本に初めて紹介された作品「ストレンジャー・ザン・パラダイス」以来ジャームッシュの持ち味であるとぼけた味わいは健在。主人公が観ている映画がアレクサンダー・コルダ監督の名作「ドン・ファン」で、彼の名前はドン・ジョンストン。プレイボーイのドンという繋がりで楽しんでいるわけだが、有名なTV俳優と同じドン・ジョンソンと聞き間違えられるおとぼけも繰り返す。
場面の転換をブラック・アウト(フェード・アウト)で行い、独自のリズムを生み出すのも相変わらず。
その一方、初老の独身貴族と子だくさんの労働者という隣同士の関係では人生を問う姿勢も見出せる。
さて、マーリー扮するそのドンが逢うのは、奔放な露出狂的娘と暮らすレーサー未亡人シャロン・ストーン、夫と二人でモデルハウスに暮らすフランシス・コンロイ、動物と会話できて動物相談をしているジェシカ・ラング、山奥でバイク野郎たちに囲まれて暮らしているヒッピー風ティルダ・スウィントン。
再会した女性そして我が身の変化に時の流れを感じて侘しさに包まれるというお話は、オールド・ファンなら「舞踏会の手帖」を思い出すだろう。あそこまでの詩情を期待するのは無理だが、ユーモアとペーソスを巧みに織り交ぜ繰り出される場面の数々が、主人公たちに近い世代だけに僕の胸を打つ。
「散った花々」とは通り過ぎた年増美女たちではなく、青春時代への幻想(の終わり、即ち幻滅)を指すのであろう。
結局のところ歴訪・・・事実上の自分探しの旅・・・の原因となった手紙が本物か否かすら判明しないのも侘しさを強調、終盤二本線の入ったジャージを着た主人公の前に現れる若者二人がいずれも似たジャージを来ているのは意味深長であるが、人生への諦観に対する一種の諧謔でもある。
ジャームッシュのタッチは殆ど変っていないが、年齢相応に大人っぽい内容になっているのが感慨深い。苦手な役者ビル・マーリーも大分枯れてきて良い味わいを出すようになってきた。
音楽も快調。主人公が移動中に流れるジャズ(エチオピア音楽?)にはとぼけた軽快さがあり、エンディング・クレジットで流れるムーディーなロック "There is an end"は侘しさに追撃ちをかける。今20代でピンと来ないという人も30年後には解りましょう。
2005年アメリカ映画 監督ジム・ジャームッシュ
ネタバレあり
前作「コーヒー&シガレッツ」はオムニバスだったので、ジム・ジャームッシュとしては1999年「ゴースト・ドッグ」以来6年ぶりの長編ということになる。
プレイボーイでならしたコンピューター成金ビル・マーリーは初老になって引退した今も独身だが、現在の恋人ジュリー・デルピーに出て行かれた後「19才の息子がいて貴方を探している」というタイプライターで打たれたピンク色の手紙が届く。
探偵小説ファンの隣人ジェフリー・ライトが手紙の謎解きに夢中になって、20年前に付き合っていた女性たちをリスト化させると、あっという間に5人の現況を調べ上げて、交通事故で死んだ1人を除く4人を訪れるよう仕向ける。
日本に初めて紹介された作品「ストレンジャー・ザン・パラダイス」以来ジャームッシュの持ち味であるとぼけた味わいは健在。主人公が観ている映画がアレクサンダー・コルダ監督の名作「ドン・ファン」で、彼の名前はドン・ジョンストン。プレイボーイのドンという繋がりで楽しんでいるわけだが、有名なTV俳優と同じドン・ジョンソンと聞き間違えられるおとぼけも繰り返す。
場面の転換をブラック・アウト(フェード・アウト)で行い、独自のリズムを生み出すのも相変わらず。
その一方、初老の独身貴族と子だくさんの労働者という隣同士の関係では人生を問う姿勢も見出せる。
さて、マーリー扮するそのドンが逢うのは、奔放な露出狂的娘と暮らすレーサー未亡人シャロン・ストーン、夫と二人でモデルハウスに暮らすフランシス・コンロイ、動物と会話できて動物相談をしているジェシカ・ラング、山奥でバイク野郎たちに囲まれて暮らしているヒッピー風ティルダ・スウィントン。
再会した女性そして我が身の変化に時の流れを感じて侘しさに包まれるというお話は、オールド・ファンなら「舞踏会の手帖」を思い出すだろう。あそこまでの詩情を期待するのは無理だが、ユーモアとペーソスを巧みに織り交ぜ繰り出される場面の数々が、主人公たちに近い世代だけに僕の胸を打つ。
「散った花々」とは通り過ぎた年増美女たちではなく、青春時代への幻想(の終わり、即ち幻滅)を指すのであろう。
結局のところ歴訪・・・事実上の自分探しの旅・・・の原因となった手紙が本物か否かすら判明しないのも侘しさを強調、終盤二本線の入ったジャージを着た主人公の前に現れる若者二人がいずれも似たジャージを来ているのは意味深長であるが、人生への諦観に対する一種の諧謔でもある。
ジャームッシュのタッチは殆ど変っていないが、年齢相応に大人っぽい内容になっているのが感慨深い。苦手な役者ビル・マーリーも大分枯れてきて良い味わいを出すようになってきた。
音楽も快調。主人公が移動中に流れるジャズ(エチオピア音楽?)にはとぼけた軽快さがあり、エンディング・クレジットで流れるムーディーなロック "There is an end"は侘しさに追撃ちをかける。今20代でピンと来ないという人も30年後には解りましょう。
この記事へのコメント
フルコースの豪華なディナーも時には良いのですが、私は「お茶漬けと自家製の漬物」なんぞで歓待された方が、ずっと有難がってしまうタイプのようです。
本作も、本当に朴訥で飄々とした味わい。それこそ「お茶漬け」のような飾り気のない作品ですが、自家製の漬物には、えもいわれぬ「味」がございます。
厭世観やら脱力感やらをずっと仏頂面から醸し出していた主人公が、最後に墓場へと辿りつき、初めて感情を露に表情を崩す。
プロフェッサーが画像を選ばれた「まさにここ!」であります。
溜めて溜めて溜めて、なんということもない、台詞さえ無いシーンに「や、やられた~!」って具合になりました。
ジャームッシュは特にお気に入りの監督というわけでもないのです。おっしゃられるように昔から作風の基本は変わらないですよね。
けれど、先進的な作家と目され奉られてきた彼も、歳を重ねることでグッと渋みを増し、自分もそれに共感できるような歳を重ねてきたのだなあと感慨も深く、とても感激したのでした。
"There is an end"は、お茶漬けの後味のごとし・・・私を泣かせるのですよ。
>画像
全ての作品は無理ですが、映像があったほうが良いと思われる場合は、自分であつらえた画像を入れるようにしました。
私の場合、ショットの説明もたまにしますので、そういう時は欠かせません。本作の場合は説明はありませんが、侘しさを感じさせるショットを選んでみました。
そうですね、最近は音楽通の監督が多いですが、ジャームッシュの通好みの選曲で唸らせますよね。
>パーマネント・バケーション
未見若しくは観たとしても記憶に残っていないので、WOWOWでの放映を録画しました。本日観る予定です。ちょっとお待ちください。
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を観た時に若々しさと老成を一緒に感じて腰を抜かしたのですが、本作は正に熟成した境地を感じましたね。いや、素晴らしい。
本作で一つのショットを選ぶのなら、ここしかないと観ながら思ったのです。画像の効果が発揮できて嬉しいです♪
中学2年の時に初恋の慕情を寄せたEYさんには、卒業後一度も会っていません。同窓会がある度に探すのですが、一度も出席したことがないようです。残念であると同時にホッとする気持もあります。私の夢がいつまでも壊れないから。
最後に主人公が子供の姿を追うのは、老いを確認しその先にある死が頭を過った故。いないと思っていた自分の血を引くものがいるなら、あのような行動を取るのは人情ですよね。
"There is an end"は"Where is an end?"を繰り返す。内容を正確に把握した人ならここでグッと来ない人はいないでしょう。ミディアム・テンポのロックバラード。ブルース的なエッジの聞いたリズム・ギターに痺れ、涙が出そうになりましたよ。
のっ!最中、まっことにズカズカと失礼ッ!!
「見えない光線!」バチバチ!記事、宅配しに参りましたっ!(笑)
>中学2年の時に初恋の慕情を・・・・
あのぉ~~~、人生の先輩として申し上げるばってん、よう聞きや~、
会わんほうが、ええよ、絶対、それは~~。
もうひとつ、オナゴばかりが年とるわけではないっしょ。(笑)
長過ぎると叱られたので↓にあります。
おのれの立ち位置がよう確認できんかった哀れなオトコの話たい!
ビル・マーレイはね~、対相手役かつまた、いくばくかのその他の
キャラの“中”にいて「光る」役者だと思うのね。
おふたりさんのようにすっかり彼の心情に寄り添って
しまえるならVery good good!かもしれまっしぇんが、
アノ陰気くっさい辛気くっさいマーレイひとりを
ずっと見続けなければならない
女の私の身にもなってちょうだい!!(笑)
ところでプロフェッサー、そんなに泣いてばかりいるのは・・・
もしかして・・・プロフェッサーは「男の更年期」やろか?
・・・・・・スススススッ(はいはい、今、帰ります、はい)
使い方、ワチャワチャになってしまってます。
脳内で良きに解釈なさってご笑覧下さいませ。(ペコッ)
やっぱり逢わんほうがええですか。そうやろと思うてたわ(ごちゃごちゃ関西弁)。
姐さんも仰るように、やはり経験と立場で判断されるのが映画やさかい、いずれの評価もそれなりに正しいもんと違うやろか?
少しも反発覚えまへんや。至って当然のご意見やなあ。
>男の更年期
そんなん、知らしまへんがな。
いつまで出鱈目な関西弁と使っとるんや。
ほな、さいなら(笑)。
>ユーモアとペーソスを巧みに織り交ぜ繰り出される場面の数々が、主人公たちに近い世代だけに僕の胸を打つ。
おお、こ、ここにもオジさんがいたぁ!!(苦笑)
>苦手な役者ビル・マーリーも大分枯れてきて良い味わいを出すようになってきた。
昔っから、脱力・シニカル系の役どころが多かった彼ですが、
ちょうどそんな役が似合う年頃になったので、
益々、面目躍如といった感がありますねぇぇ(笑)。
やはり女性(特に若い世代)には、この愛らしさが伝わりにくいようで。
(勿論、「こんな男を愛らしいと思ってもらいたい」ちゅー情けない願望もありき、でして。笑)
往々にして男は、不細工な同性が好きですしね(苦笑)。
>今20代でピンと来ないという人も30年後には解りましょう。
「解るでしょう」ではなく、「解りましょう」という所に胸打たれたですよ(笑)。
よっこらしょっ。
まだ棺おけには足の先が入ったくらいだと思いますが、棺おけと言えば序盤の「ドン・ファン」から泣かせるではないですか。
これが全体の基調になっていて、やはり色々と考えさせられるわけですな、この年代ともなると。
好き嫌いはともかくかなり巧妙に出来ていて、そういった方面でも堪能できましたなあ。
>やはり女性(特に若い世代)には、この愛らしさが伝わりにくいようで。
キネマ旬報の投票結果を見ると、佐藤友紀というフリーライターは比較的若い女性ですが、昨年の2位に上げていました。例外中の例外ですかね。後の選出者はやはり50~60くらいの野郎ばかりでした(笑)。
>「解りましょう」
おおっ、何気なく使っただけなのですが、良かった!
ジェシカ・ラングを訪ねた後、宿泊したモーテルの窓から外を眺めるドンの後ろ姿の侘びしいこと!
お薦め度修正しました。^^;
>お薦め度修正
有難うございました。^^
二度目ともなると、余裕ができますから、マイナスと思えたショットや場面がよく理解できるということもありますよね。
プロフェッサーがこの記事をアップされたときは、コメント欄がまさに喧々諤々といった様相でしたね(笑)。今皆さんのコメントを読み返してみて、懐かしくすら感じます(笑)。
TB送らせていただきましたが、無事そちらに到着してますでしょうか。あちこち迷子になってるかもしれません(笑)。
今思うと書き足りていないですね、これ。
「ドン・ファン」の葬式について一言も触れていないし、コメントで書いた重要なポイントにも触れていない。
映画評としては失敗作だなあ。