映画評「愛の神、エロス」
☆☆★(5点/10点満点中)
2004年イタリア=フランス=ルクセンブルグ=香港=中国=イギリス映画
監督ウォン・カーウァイ、スティーヴン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニ
オムニバス映画も随分国際的になっているが、本作は世界的と言われる三人の監督を起用した合作作品。【エロ】ではなく【愛】をテーマにしている。
第一話はウォン・カーウァイの「若き仕立て屋の恋」で、60年代の香港が舞台。
仕立て屋見習いチャン・チェンがパトロンのいる高級娼婦コン・リーに妙な方法で手ほどきして貰って仕立て屋の腕を上げ、数年後パトロンを失って落ちぶれる一方の彼女に愛情を注ぎ込む。
いきなりのエロティックな場面に度肝を抜かれるが、濃厚な耽美的ムードが長編「花様年華」を彷彿として優秀、幕切れで振り返った主人公の顔に凄みがある。チャン・チェンに魅力があり、完成度は三編中最も高い。
第二話はスティーヴン・ソダーバーグの「ペンローズの悩み」。
55年のニューヨーク、裸の女性が出て来る夢の意味を知るべくロバート・ダウニー・ジュニアが精神分析医アラン・アーキンに夢の内容を話す。
その場面がモノクロ、夢の場面がカラーという構成、と思っていると実は逆で、夢診断の場面が若手実業家の夢だった、というオトボケ。【愛】というテーマにふさわしいとは思えないもののソダーバーグが洒落っ気を披露した一編で、三編中最も短編らしい味わいがある。ソダーバーグの悪口ばかり言ってきたような気もするのでたまには誉めましょう。
最後は大ベテラン、ミケランジェロ・アントニオーニの「危険な道筋」。
倦怠期に入った40代の夫婦クリストファー・ブッフホルツとレジーナ・ネムニが真夏のトスカーナ地方に車を走らせ、夫が行きずりの娘ルイーザ・ラニエリと情を通じる。妻は浜辺を全裸で戯れている彼女に引寄せられるように寄り添う。
【愛の不毛】第一作「情事」にも似たお話で、ムードだけはかつてと変わらないが、エロ度はいっぱいでもこの短さでは独善的で訳が解らず、名前で勝負しているだけ。冷戦構造が崩れた69年以降のアントニオーニは作風が時代と合わなくなっていると印象があり余り評価していない。
クリストファー・ブッフホルツは国際的な青春スターだったホルストの息子。名前でも分るが、顔を見れば一目瞭然です。ノーブラでシースルーでは日本では警察が飛んできますな。
「戦火のかなた」のように一人の監督が作り上げた作品はともかく、監督競作のオムニバス映画に美味いものなし(?)というジンクスを打ち破れなかった。短すぎて手応えが薄いことと、監督が違うのでトーンが一貫せず、出来栄えの差異も激しいからである。
2004年イタリア=フランス=ルクセンブルグ=香港=中国=イギリス映画
監督ウォン・カーウァイ、スティーヴン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニ
オムニバス映画も随分国際的になっているが、本作は世界的と言われる三人の監督を起用した合作作品。【エロ】ではなく【愛】をテーマにしている。
第一話はウォン・カーウァイの「若き仕立て屋の恋」で、60年代の香港が舞台。
仕立て屋見習いチャン・チェンがパトロンのいる高級娼婦コン・リーに妙な方法で手ほどきして貰って仕立て屋の腕を上げ、数年後パトロンを失って落ちぶれる一方の彼女に愛情を注ぎ込む。
いきなりのエロティックな場面に度肝を抜かれるが、濃厚な耽美的ムードが長編「花様年華」を彷彿として優秀、幕切れで振り返った主人公の顔に凄みがある。チャン・チェンに魅力があり、完成度は三編中最も高い。
第二話はスティーヴン・ソダーバーグの「ペンローズの悩み」。
55年のニューヨーク、裸の女性が出て来る夢の意味を知るべくロバート・ダウニー・ジュニアが精神分析医アラン・アーキンに夢の内容を話す。
その場面がモノクロ、夢の場面がカラーという構成、と思っていると実は逆で、夢診断の場面が若手実業家の夢だった、というオトボケ。【愛】というテーマにふさわしいとは思えないもののソダーバーグが洒落っ気を披露した一編で、三編中最も短編らしい味わいがある。ソダーバーグの悪口ばかり言ってきたような気もするのでたまには誉めましょう。
最後は大ベテラン、ミケランジェロ・アントニオーニの「危険な道筋」。
倦怠期に入った40代の夫婦クリストファー・ブッフホルツとレジーナ・ネムニが真夏のトスカーナ地方に車を走らせ、夫が行きずりの娘ルイーザ・ラニエリと情を通じる。妻は浜辺を全裸で戯れている彼女に引寄せられるように寄り添う。
【愛の不毛】第一作「情事」にも似たお話で、ムードだけはかつてと変わらないが、エロ度はいっぱいでもこの短さでは独善的で訳が解らず、名前で勝負しているだけ。冷戦構造が崩れた69年以降のアントニオーニは作風が時代と合わなくなっていると印象があり余り評価していない。
クリストファー・ブッフホルツは国際的な青春スターだったホルストの息子。名前でも分るが、顔を見れば一目瞭然です。ノーブラでシースルーでは日本では警察が飛んできますな。
「戦火のかなた」のように一人の監督が作り上げた作品はともかく、監督競作のオムニバス映画に美味いものなし(?)というジンクスを打ち破れなかった。短すぎて手応えが薄いことと、監督が違うのでトーンが一貫せず、出来栄えの差異も激しいからである。
この記事へのコメント
カーウァイとなれば出てこないわけには参らぬ、viva jiji、
別にあわてなくてもよいのに、急いで走って来ましたわ。(汗;)
>ソダーバーグの悪口ばかり言ってきたような気もするのでたまには誉めましょう。
え?そんなにソダーバーク悪口言われてましたっけ~?
たしか豆酢さんだったかしら、「姐さん、ソダーバーグは
映画オタクだから・・」とか書いてらしたかな~^^
実はこの2話目はキライじゃない味わいはありましたの。
ただあの題材と圧倒的に生めかしい映像で魅せる第1話には
適わないでしょうね。
>監督競作のオムニバス映画に美味いものなし(?)
私も激しくそう思っている節がございます。
(期待しては、何度も爆沈するんですよね~~・笑)
でも最近観た「パリ・ジュテーム」は何度も観たくなる
良い作品でしたよ。(1話5分で18話もあるけれど)
きっとWOWOWでプロフェッサーも近いうち、
ご覧になれるわ。^^
3時間弱。確かにお早い。息が切れたでしょう?(笑)
カーウァイの第一話は、原題がThe Handでしたっけ? こちらのほうが内容を言い得ていますね。【恋】というのは些か生易しい。
>ソダーバーグ
ここで発表したのは「オーシャンズ11」シリーズと「ソラリス」だけですから。まあ<相対的悪口>であって、「セックスと・・・」も「トラフィック」も世評に比べると余り褒めていないです。
豆酢さんは、ソダーバーグのファンなのですかな?
本作のショートショート界で言われる【奇妙な味】に通ずる洒落っ気があって、その意味では大変気に入りました。要(よう)はそこが要(かなめ)なんでしょう(笑)。
>「パリ・ジュテーム」
いやあ、WOWOWは来年ではないかなあ。
姐さんがそこまで言うのなら、期待できますね。
オムニバスだったんですか、全く知らなんだ(笑)。
<監督が違うのでトーンが一貫せず、出来栄えの差異も激しい
個性的な巨匠3人ですからねー。トーンをあわせるのは最初から無理なもんでしょう。でも一つのテーマでこれだけ違った解釈があるのかという面白さがありました。「エロス」というテーマでは一番カーウァイ監督の作品が秀逸で好きですねー。
<ホルスト・ブッフホルツ
「荒野の七人」に出てましたねー。そうかー彼の息子なんだー。
私にしてもこの三人からトーンの統一を求めるような愚考はさすがにしません(笑)。三人の著名監督が三本作れば三倍おいしいだろうという製作者周辺の思惑が間違っているのだ、という意味です。
小説にも当てはまりますが、短編の名手と長編の名手は明らかに別れていて、長編の書き手は短くて気の利いたものはなかなか作れないですね。アントニオーニなどは正に典型であの話を1時間半にしたら大分観られる作品になったでしょうけどね。
ブッフホルツはそっくりでした。息子がもう50近いんですからね、驚きます。
カーウァイの作品は皆褒めるので、私は無理してソダーバーグの第2作を推薦しています。三編中唯一ユーモアのある作品ですしね。もう一度御覧になったらまたカムバックしてください。
本当にチャン・チェンは素晴らしかったです。
カーウァイ作品に流れる官能って、「ブエノスアイレス」「華様年華」なんか、やはりぞくぞくしますもの。初期の恋する惑星」なんかも好きですけどね。
ジャームッシュと逆で、恐らく統計を取れば、カーウァイは女性に人気があると思いますね。
現に私は苦手。「花様年華」の濃厚な官能ムードは素晴らしかったですが、他の作品は酔う前に眠くなってしまいました(笑)。
「恋する惑星」は、ついに自分のものに出来ませなんだ。