映画評「硫黄島からの手紙」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アメリカ映画 監督クリント・イーストウッド
ネタバレあり
「父親たちの星条旗」と同じ舞台で日本側に起った出来事を描いたカップリングの作品だが、関係した二つのグループの視点により別作品として同じ素材を描いたシリーズは記憶にない。あったとしてもすぐには思い出せない。
1944年6月アメリカ留学の経験のある、アンチ日本軍型兵法を駆使する栗林中将(渡辺謙)が日本の最後の砦と言うべき硫黄島の指揮官として派遣されるが、頼みとする連合艦隊を駆逐され孤立無援となる。45年2月遂にアメリカ軍に上陸され、36日に及ぶ激戦が繰り広げられる。
その史実と栗林中将が家族に宛てた手紙に基づいて構成された日本軍兵士の物語で、この作品の主題は「星条旗」の【真実は見た目と違う】と極めて深い関係にある【思い込みの恐さ】であろう。或いは、【個から種(全体)を判断し、種から個を判断する危険性】と言っても良い。
日本の兵士たちは、根性なしと思っていたアメリカ兵やアメリカ人の強い精神を、救った米兵の母親の手紙から知る。
脱走した二人の日本兵が米国の不良兵士に殺されてしまい、その死体を見た日本軍の上官が「捕虜はこうなるのだ」と言う。これも思い込みである。一緒に逃げる筈だったパン屋の西郷(二宮和也)が最終的に命を救われているのがその対照で、二人はたまたま出来の悪い監視兵に当たったに過ぎない。
栗林中将の考え方もアメリカ人の考える日本人像とは違うだろう。
米国人の手紙を読むのは32年のロサンゼルス・オリンピック馬術で金メダルを獲った西竹一中佐(伊原剛志)。僕は小学生の時に彼が洞窟で自殺したことを本で読んだことがあるので、懐かしいというのは変だが涙が出て来るような思いがした。
人間は如何に頼りない考えや偏見によって生きて戦っているのかと思うと空しさがこみ上げて来るが、「星条旗」ほどのドラマとしての強さを築き得ていないようである。殆ど前線場面なのでドキュメントとしての価値は本作の方があり、回想の扱いも自然。それでもドラマとして物足りなく感じるのは、主題が形而上的すぎるからであろう。
もっと早く作られるべきだったと言う声を耳にした。しかし、この作品(シリーズ)が作られたのは、9・11とイラク戦争によるアメリカの淀んだ空気の要請であって、その目的は単に太平洋戦争の真の姿を見つめることに留まらない。「星条旗」同様厭戦気分に満ち、当事者たるアメリカ人の思いは嫌が上にもイラクへと飛ぶ。
撮影、ライティングは「星条旗」に準じるが、洞窟内の場面が多いだけにライティングはこちらのほうが印象に残る。
僕は映画のリアリティは現実とは違っても良い、寧ろ違うべきだという立場で、寸分違(たが)わぬリアリティには余り拘らないほうだが、狂言回し的ながら実質上の主役を演ずる二宮和也の口跡は戴けない。そのままである必要はないが、せめて昭和の人間らしい話し方をしてくれないと、気分が出て来ない。あれではタイプスリップした平成の若者だ。表情は悪くないだけに勿体なかった。
栗林さん、東森(イーストウッド)さんが天国で話したいと仰っていますよ。
2006年アメリカ映画 監督クリント・イーストウッド
ネタバレあり
「父親たちの星条旗」と同じ舞台で日本側に起った出来事を描いたカップリングの作品だが、関係した二つのグループの視点により別作品として同じ素材を描いたシリーズは記憶にない。あったとしてもすぐには思い出せない。
1944年6月アメリカ留学の経験のある、アンチ日本軍型兵法を駆使する栗林中将(渡辺謙)が日本の最後の砦と言うべき硫黄島の指揮官として派遣されるが、頼みとする連合艦隊を駆逐され孤立無援となる。45年2月遂にアメリカ軍に上陸され、36日に及ぶ激戦が繰り広げられる。
その史実と栗林中将が家族に宛てた手紙に基づいて構成された日本軍兵士の物語で、この作品の主題は「星条旗」の【真実は見た目と違う】と極めて深い関係にある【思い込みの恐さ】であろう。或いは、【個から種(全体)を判断し、種から個を判断する危険性】と言っても良い。
日本の兵士たちは、根性なしと思っていたアメリカ兵やアメリカ人の強い精神を、救った米兵の母親の手紙から知る。
脱走した二人の日本兵が米国の不良兵士に殺されてしまい、その死体を見た日本軍の上官が「捕虜はこうなるのだ」と言う。これも思い込みである。一緒に逃げる筈だったパン屋の西郷(二宮和也)が最終的に命を救われているのがその対照で、二人はたまたま出来の悪い監視兵に当たったに過ぎない。
栗林中将の考え方もアメリカ人の考える日本人像とは違うだろう。
米国人の手紙を読むのは32年のロサンゼルス・オリンピック馬術で金メダルを獲った西竹一中佐(伊原剛志)。僕は小学生の時に彼が洞窟で自殺したことを本で読んだことがあるので、懐かしいというのは変だが涙が出て来るような思いがした。
人間は如何に頼りない考えや偏見によって生きて戦っているのかと思うと空しさがこみ上げて来るが、「星条旗」ほどのドラマとしての強さを築き得ていないようである。殆ど前線場面なのでドキュメントとしての価値は本作の方があり、回想の扱いも自然。それでもドラマとして物足りなく感じるのは、主題が形而上的すぎるからであろう。
もっと早く作られるべきだったと言う声を耳にした。しかし、この作品(シリーズ)が作られたのは、9・11とイラク戦争によるアメリカの淀んだ空気の要請であって、その目的は単に太平洋戦争の真の姿を見つめることに留まらない。「星条旗」同様厭戦気分に満ち、当事者たるアメリカ人の思いは嫌が上にもイラクへと飛ぶ。
撮影、ライティングは「星条旗」に準じるが、洞窟内の場面が多いだけにライティングはこちらのほうが印象に残る。
僕は映画のリアリティは現実とは違っても良い、寧ろ違うべきだという立場で、寸分違(たが)わぬリアリティには余り拘らないほうだが、狂言回し的ながら実質上の主役を演ずる二宮和也の口跡は戴けない。そのままである必要はないが、せめて昭和の人間らしい話し方をしてくれないと、気分が出て来ない。あれではタイプスリップした平成の若者だ。表情は悪くないだけに勿体なかった。
栗林さん、東森(イーストウッド)さんが天国で話したいと仰っていますよ。
この記事へのコメント
父親達の星条旗にコメント残してしまいましたが、
>タイプスリップした平成の若者だ。
そういう印象ですよね。
最初に過去になってしまった硫黄島が写される。
そして何度も(少し前の過去)に引き戻された星条旗での兵士達。
そして過去に封じ込められた硫黄島・・・・
そして現在、発見された手紙がはらはらと落ちて、封じ込められた「声」が聞こえるラスト・・・・
2作品通してタイムスリップもの、ホラーものの要素を感じてしまいました。うまく説明できないけど、わたしはそう感じましたね。
なるほど、なるほど。
ホラーという感じは受けませんでしたが、どちらの作品にも現代を挟むことでどこかタイムスリップした印象を抱かせるような作者の意図を感じましたね。
戦場だった場所が今は静かに佇んでいるというのを目にしただけで、人間は感動したり、恐怖を抱いたりするのです。しゅべる&こぼるさんの場合は、それを恐怖に感じたのではないでしょうか。
ただ、タイプスリップ感を抱かせる作者の意図と、二宮君の平成言葉がそのままリンクするものとは考えられないのです。私は逆に彼の言葉を聞くと、折角戦場に身を置いた自分が平成の世界に舞い戻ってしまったかのような印象があって駄目なのでした。
なるほど、そういう背景があって作られたのですか。アメリカにとっても少しは良い傾向が起きつつあるということかなぁ…。
<二宮和也
評価はまちまちみたいですね。私も「二宮君の平成言葉」にはちょっと違和感を感じました。そのせいか、彼自身には感情移入しにくかったです。演技は悪くなかったと思うんですが…。
まあ僕の解釈ですけど、それ以外は考えられないですよ。
次の大統領が民主党であれば、早めに完全撤退になるでしょう。
個人的には景気を良くして欲しいんですけど(僕の財布は現在空っぽなの)。
>平成言葉
映画としての違和感とは別に、これほど日本語が急激に変わった20年はないんじゃないかなあ。
【言葉は変わっても良い】というのは、解り易く変わる時に限りますね。言葉の変遷というのは一般的にそういう傾向にあるわけですが。
紛らわしい<半疑問>だけ早く絶滅してほしいです。