映画評「チャイニーズ・ブッキーを殺した男」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1976年アメリカ映画 監督ジョン・カサヴェテス
ネタバレあり

今回WOWOWで行われたジョン・カサヴェテス特集では「アメリカの影」とこれが未見だった。

フランスのクレイジー・ホースと同じ名前を名乗っているストリップ劇場のオーナー、ベン・ギャザラが借金を返して安心したのも束の間、知り合った賭博場経営者シーモア・カッセルの口車に乗ってのこのこ出かけた彼の店で大金を叩いてしまい、彼らのグループに中国マフィアの大ボスの暗殺で借金を棒引きにすると言われて実行に移すが、その時銃撃を受け深手を負う。

要は大物ヤクザに嵌められた男の悲劇で、本作のようなタッチの作品をネオ・ノワールと言うらしいが、定義はよく分らない。
 いずれにしてもカサヴェテスのタッチは夫人ジーナ・ローランズを主演に女優の苦悩を描いた「オープニング・ナイト」と同じで、フレーム意識を取っ払った長廻しで演劇的連続性を映画に取り込み、同時にクロースアップの多用という映画的手法も取っている。
 この二つはいずれも主人公の心理を追う為に用いられていると思う。長廻しと心理の追及は無関係のようだが、一人の人間の視覚は連続するものなので長廻しに通じ、自ずとフレーム意識のない長廻しは実際の人間が見ている視覚に非常に似て来る。一人称的なショットは殆どなくても主人公ギャザラの主観のように感じさせる効果があり、スクリーンに映じられた映像は迫真性を持つ。従って、フィルムノワールというより一人の男が殺人を犯す前後の心象風景を描いたドラマと言ったほうが近い。

画像

しかし、その長廻しは同時に欠点にもなる。何故なら長廻しはショットを切り替える手法に比べてどうしても無駄が多く、リアルな感触と引き換えに切れ味を犠牲にするしかないからである。一部の高級芸術ファンは絶賛するだろうが、僕はこの冗長さの為に、諸手を挙げて本作を高評価することはできない。それを理由に攻撃もしない。

ただ、訳の分からないところがあるのは困る。
 例えば、暗殺を行った後何発か銃声が聞えるが、誰が誰に撃っているのか全く解らない。その時主人公は隠れていたので銃撃もしないし、銃撃される理由もなく、負傷もその前の銃撃による可能性が高く釈然としない。後年の秀作「グロリア」に比べると物足りないものを覚える所以である。

今回の放映版は135分のロング・バージョンで、アメリカを始め一般的に公開された107分版のほうが一般観客向けだろう。

クレイジー・ホースと言ってもニール・ヤングは歌いません。

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  • チャイニーズ・ブッキーを殺した男 (135分オリジナル版)

    Excerpt: タイトルからしてCOOLだな~なんて思って初鑑賞。 ある意味予想を裏切られた。 チャイニーズ・ブッキーを殺した男posted with amazlet on 07.08.15東北新社 (2002/0.. Weblog: ぁの、アレ!床屋のぐるぐる回ってるヤツ! racked: 2007-08-17 12:51