映画評「クレールの刺繍」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年フランス映画 監督エレオノール・フォーシェ
ネタバレあり
世界各国で新人監督ばかりが目に付き、監督で映画を見たい僕にとっては何ともつまらない時代になったものだが、それだからこそ優秀な監督の発見は嬉しい。本作がデビュー作である女性監督エレオノール・フォーシェは正にそんな一人である。
邦題はエリック・ロメールの「クレールの膝」と紛らわしい。
親元を離れてスーパーで働く一方、下宿で好きな刺繍作りに勤しんでいる17才の少女クレール(ローラ・ネマルク)は望まない妊娠の処理に困る。暫くスーパーを休業して親友に会いに行った時彼女の兄(トマ・ラロップ)が起こした交通事故で兄の友人が死んだことを知る。故人の母親であるメリキアン夫人(アリアンヌ・アスカリッド)が刺繍アトリエを経営しているので、クレールは慰めの意味合いも込めて得意な刺繍で雇ってもらおうと訪れる。
以降、両親の精神的支援を受けられないままこれから出産しようとする少女が、息子を失って死のうとしている夫人との心の交流を経て、半ば決めていた匿名出産(出産後すぐに名を伏せたまま養子に出すこと)を撤回して自分で育てる、即ち母になる決心をするまでの物語であるが、本作を物語で追っていってはつまらない。
母と子、バイクを記号的に使っていて解りやす過ぎる、結末が見えるといった理由で本作を評価しても意味がなく、絵画のような落ち着いたトーン、ミディアムショットやクロースアップを多用して登場人物の心の襞に迫るようなタッチ自体を楽しむべきである。
少女の妊娠、交通事故死といった生々しい要素がありながらも絵画的な質感の映像と相まって醸成される詩情が魅力。終盤クレールと親友の兄トマ・ラロップを巡る場面でトーンの統一を失うのが残念だが、ヒロインの心理が沈潜する静かなタッチを僕は大いに評価したい。
【クリスチャン・ラクロワも感心する仕立ての良さで賞】を進呈致します!
2003年フランス映画 監督エレオノール・フォーシェ
ネタバレあり
世界各国で新人監督ばかりが目に付き、監督で映画を見たい僕にとっては何ともつまらない時代になったものだが、それだからこそ優秀な監督の発見は嬉しい。本作がデビュー作である女性監督エレオノール・フォーシェは正にそんな一人である。
邦題はエリック・ロメールの「クレールの膝」と紛らわしい。
親元を離れてスーパーで働く一方、下宿で好きな刺繍作りに勤しんでいる17才の少女クレール(ローラ・ネマルク)は望まない妊娠の処理に困る。暫くスーパーを休業して親友に会いに行った時彼女の兄(トマ・ラロップ)が起こした交通事故で兄の友人が死んだことを知る。故人の母親であるメリキアン夫人(アリアンヌ・アスカリッド)が刺繍アトリエを経営しているので、クレールは慰めの意味合いも込めて得意な刺繍で雇ってもらおうと訪れる。
以降、両親の精神的支援を受けられないままこれから出産しようとする少女が、息子を失って死のうとしている夫人との心の交流を経て、半ば決めていた匿名出産(出産後すぐに名を伏せたまま養子に出すこと)を撤回して自分で育てる、即ち母になる決心をするまでの物語であるが、本作を物語で追っていってはつまらない。
母と子、バイクを記号的に使っていて解りやす過ぎる、結末が見えるといった理由で本作を評価しても意味がなく、絵画のような落ち着いたトーン、ミディアムショットやクロースアップを多用して登場人物の心の襞に迫るようなタッチ自体を楽しむべきである。
少女の妊娠、交通事故死といった生々しい要素がありながらも絵画的な質感の映像と相まって醸成される詩情が魅力。終盤クレールと親友の兄トマ・ラロップを巡る場面でトーンの統一を失うのが残念だが、ヒロインの心理が沈潜する静かなタッチを僕は大いに評価したい。
【クリスチャン・ラクロワも感心する仕立ての良さで賞】を進呈致します!
この記事へのコメント
最後までほのかな品を失わず、昨今の若者映画のような
薄ら寒い説教くさい面もなく静かにただ静かに対峙する
2人の女性の立ち位置が胸にコトンとおちる素晴らしい映画
でしたね。
学生の時分や忙しいはずの子育てをしていた時期に
よくレース編みをしていたことを懐かしく思い出しています。
編み針を動かしているあのひとときは女性にとって
一種のなごみの瞬間なのかもしれません。
刺繍の「繍」という文字がいいですね。
「刺しゅう」じゃ、あまりにも素っ気ないわ。(^^)
静かで木目細やか、描写的にもシンプルで五月蝿くならない。題材的には葛藤に行きがちな物語を静かな再生物語にしたのが良いですね。
クレールが前をはだけたのに全く妊娠に気付かない母親。さぞかし失望したでしょうが、その辺りの何気ない表現が素晴らしかったです。
男同士だったら船に乗って漁にでも出ますか(笑)。
記事と関係ないおはなしで申し訳ありませんが、ブログ移転を行いましたのでお知らせに参りました。
「豆酢館」http://blog.goo.ne.jp/mamesumaldini
リンクの貼り変えをお願いしないといけないので、なんとも心苦しいです。面倒ならば、うっちゃっておいて下さってもかまいませんので(^^ゞ、今後は新ブログの方でよろしくお付き合いくださいませ。
>新「豆酢館」
早速リンク貼り変えました。
本作は是非御覧になって戴きたいですね。恐らく楽しめると思います。
>刺繍
そのものは興味がないのですが、何故か「ファッション通信」はお気に入り番組でよく見ますよ。流行は興味ないですが、オートクチュールの丁寧な仕事は凄いなあと思うことも多いです。
彼らの仕事を裏打ちするものを見た想いが致します。
この映画はあれこれ説明したり解釈めいたりしたくない作品だなって思える作品。といいながらP様より長い感想文になってしまったわ。
>終盤クレールと親友の兄トマ・ラロップを巡る場面でトーンの統一を失うのが残念だが
少女趣味的な展開で、やや無理がありはするものの、17歳のクレールにとって、新しい愛の芽生えが、彼女に母になる選択肢を与えた一つだったんでしょうね。
最後は、母から娘へ、女から女へと受け継がれる手仕事に象徴される人生の営みという印象がいい終わり方だなって思いました。
押しした一つではないかしらって思う。大きなお腹をギョームに分かってポタリと涙を落とす場面なんて、ちょっと少女趣味的でもあるけれど、若気の過ちで妊娠してしまったクレールの
私はこれはこれで良いのではて思う。
この間も述べましたが、大体男性陣は内容そのものより作り方を気にしますよねえ。
言わんや、本作などは内容を分析するようなタイプでもないし、男がよく解る世界でもないし、
そうした事情で必然的に短くなるのでした。あは。
>押しした一つ
意味不明です。^^;