映画評「犯人に告ぐ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・滝本智行
ネタバレあり、注意されたし
今秋劇場公開される作品の先行放映。先日カンヌ映画祭のグランプリを獲った「殯の森」の先行放映を見損なったので、今回は注意しましたです。
2000年12月31日に起きた児童誘拐事件を少年の殺害という最悪の結果に導き左遷された刑事・豊川悦司(現在警視)が、6年後川崎で発生した連続児童誘拐殺人事件解決の為に神奈川県警本部に召喚される。かつて直属上司であった本部長・石橋凌は6年前に記者会見で失敗を犯した彼をTVのワイドショーに出演させる奇策に出るが、その思惑に反し豊川本人は犯人に語り掛け、犯人が尻尾を出すのを待つ。
犯人が劇場型だったのは「模倣犯」だが、こちらは香港映画「ブレイキング・ニュース」と同じように警察が劇場型という趣向で、原作は雫井修介のベストセラー。
序盤の雰囲気では捜査サスペンスとして進むように思えるが、本部長と豊川の上官扱いになった元警察幹部の息子で警視・小澤征悦が登場してからすっかり主人公を巡る人間劇となり、これを基軸として立身出世や保身に走る人々を揶揄的に扱う一方で、加害者を通して現代社会の病巣にアプローチするという構造である。
警察やマスコミも現在の社会的疾患から免れることは出来ず、被害者問題も絡める。といった具合に種々の要素が散りばめられているので前半は狙いが不鮮明に感じられるが、後半徐々にそれらが【混沌する現代社会】というテーマとして集束し、最終的には焦点が合う。
滝本智行という監督は初めて観るが予想以上にがっちり作っていて、捜査そのものに徹底した韓国映画「殺人の追憶」には大分及ばないものの、昨今作られた大半の欧米製捜査映画より手応えがあると言っても良いくらい。
ベストセラーの映画化なのでまた原作ファンがとやかく言うのだろうが、それは映画評としては基本的に意味のないことなのでやめて下され。映画は長編小説の2時間で読める代用品ではない。
2007年日本映画 監督・滝本智行
ネタバレあり、注意されたし
今秋劇場公開される作品の先行放映。先日カンヌ映画祭のグランプリを獲った「殯の森」の先行放映を見損なったので、今回は注意しましたです。
2000年12月31日に起きた児童誘拐事件を少年の殺害という最悪の結果に導き左遷された刑事・豊川悦司(現在警視)が、6年後川崎で発生した連続児童誘拐殺人事件解決の為に神奈川県警本部に召喚される。かつて直属上司であった本部長・石橋凌は6年前に記者会見で失敗を犯した彼をTVのワイドショーに出演させる奇策に出るが、その思惑に反し豊川本人は犯人に語り掛け、犯人が尻尾を出すのを待つ。
犯人が劇場型だったのは「模倣犯」だが、こちらは香港映画「ブレイキング・ニュース」と同じように警察が劇場型という趣向で、原作は雫井修介のベストセラー。
序盤の雰囲気では捜査サスペンスとして進むように思えるが、本部長と豊川の上官扱いになった元警察幹部の息子で警視・小澤征悦が登場してからすっかり主人公を巡る人間劇となり、これを基軸として立身出世や保身に走る人々を揶揄的に扱う一方で、加害者を通して現代社会の病巣にアプローチするという構造である。
警察やマスコミも現在の社会的疾患から免れることは出来ず、被害者問題も絡める。といった具合に種々の要素が散りばめられているので前半は狙いが不鮮明に感じられるが、後半徐々にそれらが【混沌する現代社会】というテーマとして集束し、最終的には焦点が合う。
滝本智行という監督は初めて観るが予想以上にがっちり作っていて、捜査そのものに徹底した韓国映画「殺人の追憶」には大分及ばないものの、昨今作られた大半の欧米製捜査映画より手応えがあると言っても良いくらい。
ベストセラーの映画化なのでまた原作ファンがとやかく言うのだろうが、それは映画評としては基本的に意味のないことなのでやめて下され。映画は長編小説の2時間で読める代用品ではない。
この記事へのコメント
これ、近日中に私も褒めます(笑)
記事を書きましたら持参いたしますです。
それは良かった。
ミステリーには五月蝿そうなのでどうかなと思いましたが、それは何よりです。
お待ちしております。
ちゃんとチェックできたんですねえ。
僕は録画予約日を一日間違えてしまい、家で再生したら、「と~♪ってもいいじゃん!♪」とオレンジレンジが歌いまくっていました。
一回限りなのに、やってしまいましたよ・・・。ではまた。
そりゃあ残念でしたね。
私の場合は、HDDレコーダーなのでカレンダーでやりますので日付の問題は余り起こりません。そこ代わりにHDDが立ち上がらないという問題を抱えている機種ですので、重要な作品の場合は事前に電源を入れておく必要がありますが。^^;
絶対劇場で見ろとまでは言えませんが、私は結構買いました。
またスカパーとの連動がややこしく、WOWOWとスカパーの番組予定を交互に確認しつつ、録画予約を行っております。結構、面倒くさいですよ。ではまた。
いよいよWOWOW FILMSが始動ですね。
いきなり一発目がこれで、私的にはスマッシュ・ヒットでした!
視聴料の有効利用、視聴者還元企画としても上出来ではないでしょうか。
TV業界が映画を堕落させている悪しき傾向を、良い方に導いてくれないものか、なんて期待しています。
TV報道でシリアル・キラーを挑発するというのはラングの 『口紅殺人事件』 がまさにそれ。ミステリーより、出世争いを描いていたところなどもよく似ております。
主人公が左遷される辺りは 『ホステージ』 の展開と同じですよね。
犯人はもとより、警察にもマスコミにも正義はない。トラウマを抱えた刑事だけが四面楚歌の状況で奮戦する。
新味こそ無いですが、実に見応えのある大人のドラマに仕上がっておりました。
「人間ドラマ6:犯罪捜査4」といった配分が、なかなかに絶妙。特に主人公の家庭事情に至るまで過不足なく盛りこんだ脚本はお手柄でしょう。
>昨今作られた大半の欧米製捜査映画より手応えがある
私も全く同感です!
レビューで滝本を褒めるのすっかり忘れちゃいました^^;
オーソドックスで抑制が利いた演出。堅実に作っていて好感が持てますが、決め所はケレンミもあって外さない。
あの「決め台詞」は、お約束でも、私は痺れました~(笑)
TBを持参いたしました。よろしくお願いします^^
TB&コメント、有難うございます。
WOWOWが製作に参加した「理由」も先行放映でやはりなかなか良かった。あれは元来TV映画だったのかな?
>TV業界が映画を堕落
本当に。
邦画が洋画の興行収入を上回ったと喜んでいる人も多いですが、私は素直に喜べない。安直な企画が多く、良心的な作品や地味なウェルメイドな作品がヒットしない。観客の価値観そのものも昔から見るとずれてきているような気がします。
>口紅殺人事件
いやあ、前回録画し忘れて月末に観るのであります。^^;
今度は忘れないようにしないと。
>「人間ドラマ6:犯罪捜査4」といった配分
そんな感じでしたね。
TVの長編サスペンス(実際にはミステリー)は、捜査(調査)6:ドラマ2、無駄2くらいなのに、2くらいのドラマを動機などとして強調するからバランスが悪く本当につまらない。プロの探偵・刑事が少ないというのも問題ですよね。
本作を映画館で公開する必要がないなどと宣わっている連中は、TV映画をまともに観たことがあるのかな。とても比較にならないでしょうに。そもそも現在のTV映画は味も素っ気もないビデオ撮影ですよ。
>滝本演出
本作を観た限りはうれしい才能です。もう一本こんな感じで作ってくれたらご贔屓にしてしまいます。
大林の「理由」は、WOWOWで放送されている 「ドラマW」 の企画だったかと。つまりは「TV映画」ですね。
「ドラマW」 の初期は問題外な作品が多かったのですが、徐々に充実をみせ、ミステリー原作では、かなり健闘するようになった印象があります。
中でも「理由」は、TV放映だけでは、あまりにもったいないクオリティの作品。やはり評判を呼び、後に劇場公開が決まったのだったかと思います。
今回、WOWOWが自社レーベルを立ち上げたのも、大林作品が高く評価されたことが少なからず影響しているのではと、私は想像していますが。
瀧本は自分で脚本を書かない方がいいような気がします^^;
本作が劇場でヒットしてくれると、次も同じ路線でいけるはずですけど。どちらにしても注目の若手でしょうね。
テレビの2時間サスペンスを観るなんて、もう何年もないですが、その中身はなんとなく想像できます^^;
>ドラマW
なるほど。私は結局「理由」一本しか観ていないですね。
当時「模倣犯」で宮部みゆきへの関心が高まり、東京新聞で彼女の小説が連載されていて、しかも監督がとりあえずご贔屓と言って良いであろう
大林素子もとい大林宣彦だったので観てみました。内容・演出共に感心させられましたね。
>滝本(瀧本)
全く初めてなのでした。これが監督第2作ということになるようですね。
>2時間サスペンス
いや、私も観ないです。ビデオ撮影がつまらなさを益々強調してしまって。
最後に(付き合いで)観たのは、天童よしみが素人探偵になる旅館もの。「舟唄」の歌い方が犯人の決め手となる馬鹿げたお話でした。^^;
先日、「黒衣の花嫁」を初めて観たのですが、いかにもコーネル・ウールリッチらしいストーリーの面白さと、トリュフォーのヒッチコック趣味が反映されていて、非常に楽しく鑑賞できました。
「ドラマW」は劇場未公開作として、DVDで売ることを主な目的に作られているのではないか・・・と思えるようなフシもございます。これは私の邪推ですが(笑)
評判になったら、後に再放送で観るのが良策ではないかと存じます。
>「舟歌」の歌い方が決め手
「肴はあぶった烏賊でいい~♪」 が 「烏賊がよい~♪」
なんて、犯人が歌うのでしょうかね(笑)
こちらはずっと雨で陰鬱になります。(TT)
しかし、我が家の柿が実をつけたのを見るとホッとしたりして(笑)。
>黒衣の花嫁
おおっ、未鑑賞でございましたか。
いいでしょう。私は都合3回。子供時代には解るわけもなく、成人してから見た二度目は興奮し、ブログの為に見た三回目はヒッチコック的な面白さを確認しつつきちんと見ました。
後で何か書かれると嬉しいであります。^^
>ドラマW
の製作を止めて、映画制作に移行せよ・・・そうして欲しいですね。
昨今は、芸術的完成度の欠如している娯楽映画と、娯楽的思惑の欠如している芸術映画ばかり。どちらも映画芸術を為していない。
私はヒッチコックや「激突!」に究極の芸術性を、ベルイマンやトリュフォーに素晴らしい娯楽性を見ている人間です。
>舟唄
被害者の歌い方に特徴(音符の間違い)があり、無関係と思われた男が同じ間違いをしていたことから、両者を結びつけるという、そこから逆に話を考え出したインスタント・ラーメン的なお話。
演技もお粗末ですし、笑うしかなかった作品です。^^;
随分早くに鑑賞されたんですね~。
私がWOWOWと契約したのはこの後だったのかも知れません(泣)
原作も読んでいるのですが、主役の巻島はトヨエツがピッタリでしたし、津田も笹野さんがピッタリでした。
あの原作を2時間の映画に収めるのに脚本はかなり苦心したと思います。
>WOWOW
それは残念でしたね。
しかし、映画館で観るとやはり感じが変わるんだろうなあ。
>原作
おおっ、そうですか。
先日松本清張の「点と線」がTVドラマ化されましたが、あの作品のようにそう長くない原作でもじっくり作れば4時間くらいになるわけですから、長い原作を2時間前後にまとめるのは大変でしたでしょうね。