映画評「グレート・ワルツ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1938年アメリカ映画 監督ジュリアン・デュヴィヴィエ
ネタバレあり

題名からある程度予想されるかもしれないが、ワルツ王と呼ばれるヨハン・シュトラウス2世を巡るロマンス映画。結婚関係など史実と大きく異なるので、伝記映画と言うには躊躇する。
 事実、映画は開巻で「史実をなぞるのではなく、ヨハン・シュトラウスの精神に則ってドラマ化した」と説明している。

ヨハン(フェルナン・グラヴェ)は仕事中にワルツばかり書いているという理由で銀行を首になるが、音楽好きの友人たちを集めてオーケストラを作ると、これが歌姫カーラ(ミリザ・コルジャス)に認められ、順調にワルツ王の道を歩む。その間に幼馴染ポルディ(ルイーズ・レイナー)と結婚するも、恩人でもあるカーラとの間に恋の炎が燃え盛るが、ポルディの真心に心を打たれた歌姫は身を引いて行く。

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実際のワルツ王は歌手と結婚し、その死後二人妻を貰っているので、映画のような夫婦関係ではない。それはともかく、彼の曲と演奏が民衆に認められる序盤のカフェでの場面も楽しく、アメリカに渡ってもジュリアン・デュヴィヴィエは上手いなあと思わせるが、断然素晴らしいのは革命の先頭を切ったヨハンがカーラと官憲を逃れて馬車でウィーンの森を行き、それが名曲「ウィーンの森の物語」発表に繋がっていくという場面である。
 小鳥がヨハンにインスピレーションを与え、隣に坐るカーラが続きを歌い、馬車がリズムを刻み、すれ違う馬車から流れて来るホルンが補う。
 きちんとしてはいるが基本的に他愛ないハリウッド調のロマンスの中にあって、この場面こそがアメリカ生まれの監督では決して作れない、デュヴィヴィエの卓抜な感性の発露であり、この場面の存在によって本作は名作たり得る。

その他、シンバルが鳴る度にロングになって行くという演出や、「美しき青きドナウ」が流れる場面の華麗なオーヴァーラップも面白いが、デュヴィヴィエならではと言うほどではない。

演技陣では「大地」などで知られるルイーズ・レイナーに見せ場が殆どなく、オペラ劇場での場面だけが断然光る。寧ろ無名に近いフェルナン・グラヴェがなかなか達者で宜しく、ソプラノ歌手ミリザ・コルジャスの歌は聴き応えあり。彼女はオスカー候補にもなったらしい。

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