映画評「天河伝説殺人事件」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1991年日本映画 監督・市川崑
ネタバレあり
市川崑が金田一耕助シリーズを打ち止めにした時残念な思いをした僕は、内田康夫が生み出した素人探偵・浅見光彦を主人公にした本作にかなりゴキゲンになった。明らかに同シリーズのファンを意識して作られた作品だからである。
能衣装業者が東京の街中で毒死した後、調査の為奈良県の桜の名所・吉野郡の天川村を訪れたルポライター浅見(榎木孝明)は途上で話をした老人(神山繁)が翌朝死体で発見されたことから犯人と目されて拘置され、事件に否応なく巻き込まれる。
東京の殺人事件を調べに同地を訪れた刑事が金田一シリーズでコメディリリーフを担当した加藤武で、「ようし、解った」という台詞や粉薬を吐くお馴染みのルーティンが再現される。市川の金田一シリーズ・ファンはここでにやにや。
それだけではない。刑事局長である浅見の兄に扮する石坂浩二を始め、宮司を演ずる大滝秀治、駐在の常田富士雄などファンにとって嬉しい配役だ。天川村で旅館【天河館】を営んでいる岸恵子に至ってはシリーズの再現のような印象すらある。そもそも全体の人物配置、お家騒動を巡る事件の設定が「獄門島」を彷彿とし、浅見が金田一同様に誤認逮捕される場面まで用意されている。
内田がどういう狙いで原作を書いたかは定かではないが、脚色に当たった久里子亭(市川崑)、日高真也、冠木新市は金田一シリーズの大真面目なパロディー、強引に解釈すれば、シリーズの第6作と言うべきものを作ろうとしたのではあるまいか。
内容をもう少し説明すれば、老人は能の宗家である水上家に仕えてきた能楽師であり、宗家では当主(日下武史)の孫の男子(山口粧太)と女子(財前直見)を巡って後継者問題が起きている。長男は嫡子ではなく、ある約束の下に嫁(岸田今日子)が引き取ったもので、本来後を継ぐべき夫は13年前に死んでいる。
全部は記せないが、これが二つの事件の背景である。「獄門島」の匂いがするでしょう?
市川演出の基本は正攻法だが、歯切れの良いショット構成で相変わらず華麗無比。特に、浅見と先輩、宗家兄妹の会話をカットバックで捉えた部分に魅了された。
榎木孝明はとぼけた感じが良く、役柄にふさわしい坊ちゃんらしさとインテリ性を同時に感じさせ、誠に適役と言うべし。15年前には全く気にならなかった眉毛が「関東無宿」の小林旭みたいな描き眉で奇妙に感じられたが。
1991年日本映画 監督・市川崑
ネタバレあり
市川崑が金田一耕助シリーズを打ち止めにした時残念な思いをした僕は、内田康夫が生み出した素人探偵・浅見光彦を主人公にした本作にかなりゴキゲンになった。明らかに同シリーズのファンを意識して作られた作品だからである。
能衣装業者が東京の街中で毒死した後、調査の為奈良県の桜の名所・吉野郡の天川村を訪れたルポライター浅見(榎木孝明)は途上で話をした老人(神山繁)が翌朝死体で発見されたことから犯人と目されて拘置され、事件に否応なく巻き込まれる。
東京の殺人事件を調べに同地を訪れた刑事が金田一シリーズでコメディリリーフを担当した加藤武で、「ようし、解った」という台詞や粉薬を吐くお馴染みのルーティンが再現される。市川の金田一シリーズ・ファンはここでにやにや。
それだけではない。刑事局長である浅見の兄に扮する石坂浩二を始め、宮司を演ずる大滝秀治、駐在の常田富士雄などファンにとって嬉しい配役だ。天川村で旅館【天河館】を営んでいる岸恵子に至ってはシリーズの再現のような印象すらある。そもそも全体の人物配置、お家騒動を巡る事件の設定が「獄門島」を彷彿とし、浅見が金田一同様に誤認逮捕される場面まで用意されている。
内田がどういう狙いで原作を書いたかは定かではないが、脚色に当たった久里子亭(市川崑)、日高真也、冠木新市は金田一シリーズの大真面目なパロディー、強引に解釈すれば、シリーズの第6作と言うべきものを作ろうとしたのではあるまいか。
内容をもう少し説明すれば、老人は能の宗家である水上家に仕えてきた能楽師であり、宗家では当主(日下武史)の孫の男子(山口粧太)と女子(財前直見)を巡って後継者問題が起きている。長男は嫡子ではなく、ある約束の下に嫁(岸田今日子)が引き取ったもので、本来後を継ぐべき夫は13年前に死んでいる。
全部は記せないが、これが二つの事件の背景である。「獄門島」の匂いがするでしょう?
市川演出の基本は正攻法だが、歯切れの良いショット構成で相変わらず華麗無比。特に、浅見と先輩、宗家兄妹の会話をカットバックで捉えた部分に魅了された。
榎木孝明はとぼけた感じが良く、役柄にふさわしい坊ちゃんらしさとインテリ性を同時に感じさせ、誠に適役と言うべし。15年前には全く気にならなかった眉毛が「関東無宿」の小林旭みたいな描き眉で奇妙に感じられたが。
この記事へのコメント
この作品は、当時、劇場へ鑑賞しに行きました。
もう、内容はわすれてますね・・・。
ただ、かなり金田一を思い起こさせる部分はあったと記憶しています。
キャストもそうですしね。岸恵子ですし!
劇場パンフレットにも金田一との比較ページがありました。
「獄門島」の匂いという部分は当時はさほど感じませんでしたが、また鑑賞したくなりました。
では。
前回市川監督の自作パロディー的に楽しめたので、再鑑賞してみましたが、やはりパロディーでした(笑)。いや、実際金田一シリーズ第6作とでも言いたくなるような気持になってきましたよ。
違うのは浅見がジャガーを乗り回す金持ちのぼんぼんだということ。
「獄門島」との比較では、天川村が一種孤立した村であること、跡目争いの問題、母と名乗れぬ母の存在、計算違いの殺人など、共通性があります。しかも、「道成寺」の鐘の中で第三の殺人があるんですよ。「獄門島」では鐘の死体が隠されていました。
石坂浩二をナレーションに使い、途中ちょっと小出しで見せ、最後に兄として主人公と会話させる、という構成も実巧いなあと実は思いましたね。
>「獄門島」との比較
勝手にそう思っているだけですが。
金田一シリーズ全体にも似ているんです。加藤武は明らかに市川のセルフ・パロディーです。
>TVシリーズ
これがTV局を超えて膨大にありましてね。水谷豊、辰巳琢郎などなど。
個人的に榎木孝明が好きで、何度か観たような気がします。
ええー!そんなに色んな人が浅見を演じているんですかー!こりゃ攻略するのはかなり大変そうですね^^;)。私も水谷豊、辰巳琢郎よりは榎木孝明がイイなぁ。
他にシリーズで演じているのは、沢村一樹と群馬出身の中村俊介。その他単品で数人。
試しに数えてみたら70本もありました。原作がまた膨大でしてね、これだけ本数が多いと質の高さは維持できないでしょう。