映画評「日本沈没」(1973年版)
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1973年日本映画 監督・森谷司郎
ネタバレあり
先日リメイク版を観たばかりだが、こうして見比べて観ると狙いが全く違うことが解る。詳しくは後述するとして、原作は言うまでもなく小松左京の大ベストセラーのSF小説、翌年にTVシリーズも作られて僕も観ていた。テーマ曲は五木ひろしが歌っていた(笑)。
地震学の権威だがアウトサイダーの田所博士(小林桂樹)が小野寺(藤岡弘)の操縦する潜水艇で10000mの海底に潜り、日本海溝の異変に気付き、日本列島が沈むという結論を出す。
彼の報告を聞いた総理大臣(丹波哲郎)はプロジェクト・チームを対策を練る一方で、博士の真剣さに早めに外国首脳と国民の移住を談判し始める。
小野寺は海外脱出を決込んだものの、その実行前に事故に遭遇して消息不明になった婚約者(いしだあゆみ)の行方を探し当てる為に人々を救出して行く。
それ以降は日本が沈む様子をパニック映画というより時限サスペンス風に描いている。
脚本が橋本忍なのでドラマ部分ががっちりとしていて、最初は田所博士が危機を訴える様子、次は総理大臣が懸命に国民を救おうとする努力、そして小野寺が個人的事情から始まったとは言え人々を救うという行為となって、輪唱のように繋がって行くのが見事である。
しかも、そこに民族大移動することが良いことなのかという民族の尊厳の問題まで絡めて奥深く、サスペンスを重厚なものにしている印象がある。
一方、予算の問題もあってSFXは当時のハリウッド映画と比べて必ずしも上等とは言えないが、それが作品の価値を下げることにはならない。
翻って、リメイクは田所の訴えも首相の奔走も原則的に削除、即ち本作終盤の1/3を拡大したような印象で、ドラマ的には殆ど見所がない代りに、優れたヴィジュアルを見せる部分が圧倒的に増えていた。
オリジナルとリメイクを比べると、SFXは場面を見せる為に必要とされるものであり、CGはそれ自身を見せる為に場面をでっちあげさせる傾向にある、という僕の持説が満更嘘でもないという気がしてくる。
1973年日本映画 監督・森谷司郎
ネタバレあり
先日リメイク版を観たばかりだが、こうして見比べて観ると狙いが全く違うことが解る。詳しくは後述するとして、原作は言うまでもなく小松左京の大ベストセラーのSF小説、翌年にTVシリーズも作られて僕も観ていた。テーマ曲は五木ひろしが歌っていた(笑)。
地震学の権威だがアウトサイダーの田所博士(小林桂樹)が小野寺(藤岡弘)の操縦する潜水艇で10000mの海底に潜り、日本海溝の異変に気付き、日本列島が沈むという結論を出す。
彼の報告を聞いた総理大臣(丹波哲郎)はプロジェクト・チームを対策を練る一方で、博士の真剣さに早めに外国首脳と国民の移住を談判し始める。
小野寺は海外脱出を決込んだものの、その実行前に事故に遭遇して消息不明になった婚約者(いしだあゆみ)の行方を探し当てる為に人々を救出して行く。
それ以降は日本が沈む様子をパニック映画というより時限サスペンス風に描いている。
脚本が橋本忍なのでドラマ部分ががっちりとしていて、最初は田所博士が危機を訴える様子、次は総理大臣が懸命に国民を救おうとする努力、そして小野寺が個人的事情から始まったとは言え人々を救うという行為となって、輪唱のように繋がって行くのが見事である。
しかも、そこに民族大移動することが良いことなのかという民族の尊厳の問題まで絡めて奥深く、サスペンスを重厚なものにしている印象がある。
一方、予算の問題もあってSFXは当時のハリウッド映画と比べて必ずしも上等とは言えないが、それが作品の価値を下げることにはならない。
翻って、リメイクは田所の訴えも首相の奔走も原則的に削除、即ち本作終盤の1/3を拡大したような印象で、ドラマ的には殆ど見所がない代りに、優れたヴィジュアルを見せる部分が圧倒的に増えていた。
オリジナルとリメイクを比べると、SFXは場面を見せる為に必要とされるものであり、CGはそれ自身を見せる為に場面をでっちあげさせる傾向にある、という僕の持説が満更嘘でもないという気がしてくる。
この記事へのコメント
民族としての日本人の誇りすら感じさせる力強いドラマに本当にこうなったらどうしたらいいんだろう?と子供にも考えさせるようなサスペンス性。いずれも素晴らしいと思います。
リメイクはいかにも現在風。
良くも悪しくもCGありきの展開でしたよね。
実は【CGありき】で良いことはないんですけど(笑)。
ただやはり人間は映画を通してドラマを観るのが通例だから、リメイクより本作の方が高く評価されるのは必然ですね。
リメイクのCGは圧倒的に素晴らしく、日本の文化が失われていく絶望感を感じましたが、残念ながら作者の努力と言うより、優れたCGがこちらのイマジネーションを喚起した形。もう少しドラマにも努力を払うべきだったでしょうね。ああいう映画の流れを止める愁嘆場など入れずに。
>リメイク版
ハリウッド大作映画の悪い点を思い切り導入し、日本映画の悪い点を思い切り発揮した凡作でした。
断然優秀なCGで採点的には大分挽回しましたが、CGは手段であって目的ではないので、手段で大幅得点UPというわけにも行きませんね。
>トラウマ
あくまで空想小説ですからそんなに難しく考える必要もないのですが、子供なら当然でしょうね。
>ペックの話し方
オバマ大統領のように分かりやすい喋り方なんですね。アメリカの政治に詳しい友人が「カーター大統領の話し方は南部訛りが酷くて評判が悪かった。」と言ってましたが、果たして?
>高崎の白衣(びゃくい)大観音の建設に関わった
角栄さんに感謝している人は多いです。国民の血税を上越新幹線に使ったと僕の親父は言ってましたが・・・(苦笑)。
>昔ダメだった作品が面白く見られた
時代劇も同じです。木枯し紋次郎が良い例です。第4話「女人講の闇を裂く」をまた見てしまいました。「庚申待ち」と言うのも紋次郎のおかげで知る事が出来ました。
>一億一千万人の日本国民が全員海に沈むべきだという意見もある。
僕は文化的には保守なので、日本が国家という体裁で残っている以上は、日本文化を大事にすべきと思っています。従って、小学生の英語教育には反対。却って英語嫌いが増える可能性がある上に、まともな日本語を話せる日本人が益々減ります。
しかし、本作のように日本が物理的に(占領などの場合はまた別)なくなった場合に、外国において日本人らしく生きる意味があるとは思えません。差別を受けるだけです。かと言って、むざむざ日本列島と一緒に殉死しても仕方がないでしょう。本作は究極の状況を用意して、逆説的に国家・民族を考える材料を提供したのだと思います。
>カーター大統領の話し方は南部訛りが酷くて評判が悪かった。
彼の話し方は全く記憶にないですなあ。高校生か大学の初めくらいだったと思いますが。探せばYouTubeにでもありますかねえ。
>国民の血税を上越新幹線に使ったと僕の親父は言ってましたが・・・
そういう面があるのも確か。少なくとも、税金については、取られることに文句を言うより、どう使われるかに文句を言うほうが正しいです。えらいぞ、パパさん!(笑)
>「庚申待ち」と言うのも紋次郎のおかげで知る事が出来ました。
庚申は、江戸時代くらいから非常に重要になった干支のようで、古典芸能にもよく(?)出てきます。近松門左衛門の浄瑠璃に「心中宵庚申」といった作品があります。
>逆説的に国家・民族を考える材料を提供した
用心棒さんが書いていたようにイスラエルのような国を作るか?あるいは華僑のようになるか?それも良いかも知れません。
>えらいぞ、パパさん!(笑)
その言葉。僕の親父があの世で喜んでいるでしょう(笑)。ありがとうございました。
>心中宵庚申
武士の息子半兵衛が八百屋の養子になる。結婚相手お千世は三度目の縁組。
今調べましたが、悲しい話ですね。
>用心棒さんが書いていたようにイスラエルのような国を作るか?
>あるいは華僑のようになるか?それも良いかも知れません。
最初のケースは非常に難しいでしょうねえ。クルド人は数千年来の夢である国(クルディスタン)を未だに持つことが出来ず、トルコやイラクなどに翻弄されています。戦前の満州国のように戦争で土地を勝ち取る方法も、沈没した後の日本には使えないでしょう。
二番目のケースが現実的ですね。国が亡くなったのだから、他国の人も当初のうちはそこまで冷たくしないはず。
>武士の息子半兵衛が八百屋の養子になる。結婚相手お千世は三度目の縁組
>今調べましたが、悲しい話ですね。
わざわざどうも。
これは実話ではない(と思います)ですが、江戸時代にはこんなお話が無数にあったようです。家(これが主君とイコールになる場合も多い)を一番に考える儒教にも良い面がありますが、悪い面も多い。この作品の場合は姑が良くないですね。
『エスパイ』を昨日見ました。小松左京原作、藤岡弘主演です。子供の頃に予告編をテレビ番組で見たのを覚えています。由美かおるのストリップと藤岡弘の拷問場面が衝撃的でした。
作品を見て思ったのが、内田勝正の悪役が良かったです。時代劇でも刑事ものでも実にたくさんの作品に出た人です。ウィキペディアで調べても凄い数です。
映画そのもの及び主題歌は、まあこんなものかな・・・・でした。
>『エスパイ』
原作も読んだことがありますし、映画はブログを始める3,4年前に観たような気がします。
当時の日本SF映画の例に洩れず、お粗末でしたね。原作はなかなか面白かったですよ。
>内田勝正
【画像】で調べたら、顔は知っていました。確かに親父たちが観ていた時代劇でよく見かけましたねえ。
スター(主演俳優)は作品数は減りますよねえ。
観客動員数がピークだった1960年前後、スターでも年に10本くらい出ていましたけど。