映画評「不滅の熱球」
☆☆★(5点/10点満点中)
1955年日本映画 監督・鈴木英夫
ネタバレあり
現在夏の高校野球で熱戦が繰り広げられているが、その中で有望な選手はプロ野球へ入っていく。そのプロ野球の全盛期をもたらした最大の貢献者と言われるのが巨人軍の沢村栄治投手で、彼の後半生を描いた伝記映画である。
沢村が在籍したのはプロ野球が始まった昭和11(1936)年から昭和19年の途中戦争でプロ野球が中断するまでだが、昭和13~14年、昭和17年、昭和19年と三回出征しているので実働5年、63勝22敗。といった事実を踏まえて観ていくと、初めてのノーヒットノーランを達成した時期や内堀捕手(千秋実)との相棒期間が違う。
それは映画の出来栄えに関係ないのでどうでも良いが、比較的事実に忠実な展開の中で、彼が最初の出征による手榴弾の投げすぎで肩を壊した為にかつてのオーヴァースローによる剛速球が投げられず、投球フォームを変えて窮地を乗り越えた事実が全く触れられていないのは物足りない。事実と違うからではなく、それは野球に速球に生きた男にとっては壮絶な苦しみであり、それをドラマにしない手はないからである。
女性ファンの関心を持たせる為か、資産家の娘である優子(司葉子)とのロマンスが中心で、彼女が球場に来ないと調子が出ないなんてのは実際にそうした傾向があったとしても、強調されすぎて微笑ましさを通り超え、甚だ気勢が上がらない。
僕が一番不満だったのは、時間の流れの掴みにくさである。彼が死んだのは三度目の出征だが、映画では二回しか行っていないように見えるのはともかく、彼が最初の帰還を果たしたのが昭和15年、最後の出征は昭和19年。この間に4年の月日が経っているのに、最初の帰還から彼が不調に陥ってしまい、それを解消せぬままに出征したように見えるのはまずい。優子との結婚を挟んで誤魔化した感じはあるが、時間の流れをもう少し解るようにショットや場面を構成してくれないと肝心の話を間違えて理解しかねない。
昭和19年12月彼は乗っている輸送船が轟沈されて亡くなったわけだが、映画では戦線で死んだように改変され、余韻のある幕切れに結び付けているのは宜しい。沢村栄治に扮するのは池部良。足を高く上げる豪快なフォームを披露、その点では満足度は高い。
1955年日本映画 監督・鈴木英夫
ネタバレあり
現在夏の高校野球で熱戦が繰り広げられているが、その中で有望な選手はプロ野球へ入っていく。そのプロ野球の全盛期をもたらした最大の貢献者と言われるのが巨人軍の沢村栄治投手で、彼の後半生を描いた伝記映画である。
沢村が在籍したのはプロ野球が始まった昭和11(1936)年から昭和19年の途中戦争でプロ野球が中断するまでだが、昭和13~14年、昭和17年、昭和19年と三回出征しているので実働5年、63勝22敗。といった事実を踏まえて観ていくと、初めてのノーヒットノーランを達成した時期や内堀捕手(千秋実)との相棒期間が違う。
それは映画の出来栄えに関係ないのでどうでも良いが、比較的事実に忠実な展開の中で、彼が最初の出征による手榴弾の投げすぎで肩を壊した為にかつてのオーヴァースローによる剛速球が投げられず、投球フォームを変えて窮地を乗り越えた事実が全く触れられていないのは物足りない。事実と違うからではなく、それは野球に速球に生きた男にとっては壮絶な苦しみであり、それをドラマにしない手はないからである。
女性ファンの関心を持たせる為か、資産家の娘である優子(司葉子)とのロマンスが中心で、彼女が球場に来ないと調子が出ないなんてのは実際にそうした傾向があったとしても、強調されすぎて微笑ましさを通り超え、甚だ気勢が上がらない。
僕が一番不満だったのは、時間の流れの掴みにくさである。彼が死んだのは三度目の出征だが、映画では二回しか行っていないように見えるのはともかく、彼が最初の帰還を果たしたのが昭和15年、最後の出征は昭和19年。この間に4年の月日が経っているのに、最初の帰還から彼が不調に陥ってしまい、それを解消せぬままに出征したように見えるのはまずい。優子との結婚を挟んで誤魔化した感じはあるが、時間の流れをもう少し解るようにショットや場面を構成してくれないと肝心の話を間違えて理解しかねない。
昭和19年12月彼は乗っている輸送船が轟沈されて亡くなったわけだが、映画では戦線で死んだように改変され、余韻のある幕切れに結び付けているのは宜しい。沢村栄治に扮するのは池部良。足を高く上げる豪快なフォームを披露、その点では満足度は高い。
この記事へのコメント
史実と違ってもエッセンスが伝わってくれば良いのですが、野球選手ならではの苦悩の描写が表面的だったかなという気がします。
俳優の投球フォームは手投げで足とのバランスが悪いことが多いのですが、池辺良はその点は意外と良かったですよ。沢村投手はキャッチボールに毛の生えた程度のものしかフィルムが残っていないのですが、さすがにもっと奇麗です(笑)。