映画評「イノセンス」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・押井守
ネタバレあり

僕がコミックは子供時代から殆ど読まず、TVアニメを卒業したのが小学校6年、余りに哲学的なのでSF小説を読まなくなったのが中学3年なので、この手の作品はあくまで一般映画ファンとして語る資格しかない。

本作は、士郎正宗のコミックをアニメ化した「攻殻機動隊」の映画第2弾で、監督は前作より続いて押井守。最初に観た彼の作品は「うる星やつら オンリー・ユー」で、その後「パトレイバー」シリーズや本作の正編も観ている。「うる星やつら」はともかく、押井作品の映像の凝り様は物凄く、いつも感心させられるが、本作でも見通しのきくエレベーター内の影の変化や、犬の尻尾の振り方や犬に圧されて動くえさトレイなど、非常に細かい。むしろ、現在のアニメ製作技術の粋を集めて3DCGと二次元アニメを合成した部分より印象に残る。

画像

人とサイボーグとロボットが共生する2032年の電脳社会で、ある時ロボット(ガイノイド)が所有者を殺すという事件が連続して発生、脳の一部しか本来の部分を残していない公安9課の刑事バトーがトグサと捜査を開始、メーカー社員を殺したヤクザ一味を襲撃して陽動作戦を展開することでメーカーの野望が絡んだ事件の核心に接近し、秘密の詰まった船に乗り込む。

最初の捜査模様は十分面白く、衒学趣味に満ちた台詞も予想したほど嫌味なものではない。ただ中盤の幻想場面の繰り返しになると些か飽きてくるし、台詞も抽象的なものが増えてくるので、僕としてはゴダールの映画を観る時のように内容を深く考えないように努めた。そのほうが却って全体像が掴めるからである。おかげで物語は何とか理解できたようには思うが、基本的に展開は至って不親切である。一部のSFファンの為の作品と言われる所以だ。
 文学的テーマは<人間はロボットと何が違うか>ということになろうが、高級なテーマを扱っても映画は高級になるとは限らない、と知っておく必要はあるだろう。

しかし、世間では相変わらずパクリとの指摘が多く、「ブレードランナー」の世界観に似ているとするのは仕方がないとしても、「マトリックス」のパクリとは勉強不足も余りにひどい。そもそも「マトリックス」が「攻殻機動隊」の影響を受けたものであることくらいは、アニメやSFに疎い僕でも知っている。
 それはともかく、模倣は芸術の進歩の為には必要なものであり、そんなことをぐちゃぐちゃ言っている日本人は民度が低いと言われても仕方がない。日本人は昔からパロディーを理解できないと皮肉られてきたが、相変わらずのようである。

この記事へのコメント

2007年08月19日 19:50
コミック難読症(笑)のviva jiji、参りました!^^
ちなみにコミック、劇画、マンガの位置づけも
ようわからぬ輩でもございます、はい。(--)

しかし、本作は何度もムラムラと観たくなる独特の
絵ヅラと世界観で、特にプロフェッサーも言及なさって
おりますが前半部の緻密な作り込みには誠に圧倒されます。

何度も観てますとわかりますが哲学的で何を言っている
のかわからんとよくいわれるバトーの台詞でも
よく読んでみると別に大層なことを述べているわけでも
ないと私は思います。
押井監督の好きな語彙と言語リズムで遊んでいるようにも
見えますの。(解析したがるコアなファンには悪いけれど・笑)

それにしても
垂れ耳のバトーの愛犬のお写真を選ばれる“センス”は
とても、いぃ~のぉ~(“イ~ノ~”←ちと苦しい・笑)♪
2007年08月19日 20:19
こんばんは。
人間とは何かを考えている作品だと思います。
バトーは脳だけが生身で、体は機械という設定です。
完全な機械の場合は、魂(ゴースト)が宿らないそうです。
ゴーストの有無が人かどうかをより分ける拠り所になってます。
それを映像で語れば良いのですが、オカピーさんがおっしゃるようにセリフで語るとキツイです。日本映画の悪い癖だと思います。
映像は素晴らしいです。セリフはもっと簡単にするべきです。
DVDは日本の映画でも字幕出せますが、映画館では日本映画に字幕が付かないですからね。見ている人が取り残されてしまいます。(冗談抜きに言っていますよ。)

「イノセンス」に関連するもので、攻殻機動隊のテレビ版があります。
そちらもぜひぜひオススメです。
話が難しいので、セリフは字幕で追っています。(泣)
オカピー
2007年08月20日 02:58
viva jijiさん

>世界観
ウォン・カーワイの「2046」も思い出しましたが・・・
姐さんは?

>よく読んでみると別に大層なことを述べているわけでも
>ないと私は思います。

そんな感じですね。一種の煙幕ですよ。
それで話を分かりにくくするとは、押井監督も人が悪いですよね(笑)。

>とても、いぃ~のぉ~
犬が印象に残る映画でしょ?
次回犬が活躍する映画には是非入れなくては(笑)。
オカピー
2007年08月20日 03:11
ピーターキャットさん

ちょっとご無沙汰でしたね。^^

>魂(ゴースト)
終盤の船内でも色々と台詞がありましたね。
「ロボットも人間の魂など吹き込まれたくないだろ?」といった調子の。

>日本映画の悪い癖
映像で言いたいことを述べられれば、一番ですね。セリフの場合は後々まで残らない傾向があります。
アニメではないですが、「CASSHERN」なんて映画もセリフばかりでしたね。

私も台詞の取捨選択を行った結果、何とかあらすじはりかいできましたが、生真面目に全ての台詞を追って行ったら、何回も観ないとあらすじすら理解できない印象でした。^^;

アニメおたくの兄と話したら、「攻殻機動隊」のTV版は相当あると聞きました。映画を見きれない状態ですので、そちらまで手が回るかどうか微妙ですが、頭に入れておきますね。
シュエット
2007年08月21日 10:22
本作、息子に連れられて見に行きました。あっ彼も二十歳を過ぎた野郎ですが…。
突然魅さされたのでよくわかりませんでしたが、しかし、P様の守備範囲というか見た映画はジャンル、好む好まずに関わらず、評していくというその精神力にいつも感心させられてます。そんなことをいいたくってコメントしました。それと犬が出てくる映画もリストされるんですか?待ってます。犬って、でも多いですよ。
オカピー
2007年08月21日 20:01
シュエットさん

元来アニメはさほど観る方ではなく、勿論東宝アニメ祭に出るようなのは御免蒙っておりますけどね。
洋画は選びませんが、邦画は選んでいます。その基準が監督だったのに、最近は、洋の東西を問わず新人監督ばかりなので、何を観るべきかは勘に頼るしかないと困ったことになっております。

>犬
いや、今は全く別のことを考えています。
犬は能動的な動物ですので、多いですよね。なかなか苦労しそうです。^^;

この記事へのトラックバック

  • 映画評「ゴースト・イン・ザ・シェル」

    Excerpt: ☆☆★(5点/10点満点中) 2017年イギリス=アメリカ=香港=中国=インド合作映画 監督ルパート・サンダーズ ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2018-02-10 10:53