映画評「ユナイテッド93」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2006年アメリカ=イギリス映画 監督ポール・グリーングラス
ネタバレあり
丁度6年前の9月11日にアメリカで起った未曾有の事件は未だに忘れられない。日本時間で言えば午後10時頃に勃発した。いつもなら「ニュース・ステーション」を観ている時間で、或いは第一報を直に耳にすることが出来たかも知れないが、あの日は大作メールを打っていて、午前になって友人のメールにより知りTVを付けた時は既に第1機のツイン・タワー突入より3時間余りが経過していた。不謹慎だが、歴史的瞬間の第一報に遭遇することが出来なかったことを残念に思ったものである。その衝撃は、しかし、その後の場面でも十分以上だった。
テロリストやその後のアメリカについて言いたいことが山ほどあるが、ここはそれを語る場所ではない。「人間は欲望を持ちながら思考する動物だから愚かな行動を取る」と言うに留める。
さて、この事件がアメリカ映画界に大きな影響を与えたことはその後作られる作品の傾向から如実に伺える。あらゆるジャンルで<家族の再生>をテーマにした作品が急激に増えたのである。事件より数年が過ぎて後遺症を検証する作品も増え、昨年遂にストレートに事件を扱う本作が登場した。
ボストン管制塔がアメリカン航空11便の異常に気付き、慌ただしさを見せる。機影がレーダーから消えた直後彼らは同機がワールド・トレード・センター北塔に激突した事実を知る。間髪を入れず、今度はユナイテッド航空115便の異常が判明、同じ運命を辿り、航空関係者や軍関係者に大きな衝撃を与える。アメリカン航空77便は確認する間もなく、米軍中枢のペンタゴンに突っ込む。
前半は管制塔、航空センター、軍当局の様子が中心に描かれ、タイトルとなっているユナイテッド航空93便の描写は時に挿入される程度。後半はこのバランスが逆になって、ハイジャックされた同便において乗客が団結して犯人たちに向い、操作不能の末に地面に衝突するまでを描く。
手持ちカメラと自然光によるドキュメンタリー・タッチによる臨場感が抜群、超弩級である。ポール・グリーングラスの前作「ボーン・スプレマシー」の手持ちカメラは批判したが、本作では賞賛を惜しまない。
何故なら、スパイを主人公にした娯楽映画と無名の人々から成るセミ・ドキュメンタリーとでは作品の性格が自ずと違うからである。スパイ映画では臨場感より切れや馬力を見せるべきだが、本作のような作品では臨場感こそが命で、出演者に無名役者(及び本人)を起用したことを含め、狙いと手法が完全に合致している。一見ラフなカメラワークが実は大変細かく計算されていることも特筆しておきたい。
幕切れで衝突音を入れなかったのもやるせなさを演出するファイン・プレーと言うべし。
9月11日の事件に巻き込まれ死に至った全ての方に、謹んで哀悼の意を表します。
2006年アメリカ=イギリス映画 監督ポール・グリーングラス
ネタバレあり
丁度6年前の9月11日にアメリカで起った未曾有の事件は未だに忘れられない。日本時間で言えば午後10時頃に勃発した。いつもなら「ニュース・ステーション」を観ている時間で、或いは第一報を直に耳にすることが出来たかも知れないが、あの日は大作メールを打っていて、午前になって友人のメールにより知りTVを付けた時は既に第1機のツイン・タワー突入より3時間余りが経過していた。不謹慎だが、歴史的瞬間の第一報に遭遇することが出来なかったことを残念に思ったものである。その衝撃は、しかし、その後の場面でも十分以上だった。
テロリストやその後のアメリカについて言いたいことが山ほどあるが、ここはそれを語る場所ではない。「人間は欲望を持ちながら思考する動物だから愚かな行動を取る」と言うに留める。
さて、この事件がアメリカ映画界に大きな影響を与えたことはその後作られる作品の傾向から如実に伺える。あらゆるジャンルで<家族の再生>をテーマにした作品が急激に増えたのである。事件より数年が過ぎて後遺症を検証する作品も増え、昨年遂にストレートに事件を扱う本作が登場した。
ボストン管制塔がアメリカン航空11便の異常に気付き、慌ただしさを見せる。機影がレーダーから消えた直後彼らは同機がワールド・トレード・センター北塔に激突した事実を知る。間髪を入れず、今度はユナイテッド航空115便の異常が判明、同じ運命を辿り、航空関係者や軍関係者に大きな衝撃を与える。アメリカン航空77便は確認する間もなく、米軍中枢のペンタゴンに突っ込む。
前半は管制塔、航空センター、軍当局の様子が中心に描かれ、タイトルとなっているユナイテッド航空93便の描写は時に挿入される程度。後半はこのバランスが逆になって、ハイジャックされた同便において乗客が団結して犯人たちに向い、操作不能の末に地面に衝突するまでを描く。
手持ちカメラと自然光によるドキュメンタリー・タッチによる臨場感が抜群、超弩級である。ポール・グリーングラスの前作「ボーン・スプレマシー」の手持ちカメラは批判したが、本作では賞賛を惜しまない。
何故なら、スパイを主人公にした娯楽映画と無名の人々から成るセミ・ドキュメンタリーとでは作品の性格が自ずと違うからである。スパイ映画では臨場感より切れや馬力を見せるべきだが、本作のような作品では臨場感こそが命で、出演者に無名役者(及び本人)を起用したことを含め、狙いと手法が完全に合致している。一見ラフなカメラワークが実は大変細かく計算されていることも特筆しておきたい。
幕切れで衝突音を入れなかったのもやるせなさを演出するファイン・プレーと言うべし。
9月11日の事件に巻き込まれ死に至った全ての方に、謹んで哀悼の意を表します。
この記事へのコメント
いえね、この映画というか、この記事には
ちょっとした後日談がありましてね、
思い出深い(不快&驚愕かな?・笑)のです。
要は考え方の違いなんですけどね。^^;
私が許せなかったのは
“アナタの論旨には血が逆流する”という怒りの1行でしたの。
数時間置いて「削除」させていただきました。
感情が逆巻くほどの怒りを持っている方に
私、理解していただくほどの論理も耐久力も
ございませんもの~(--)
その方の感想は「製作&公開、時期早や」と。
早い話、・・・・生々し過ぎると。
プロフェッサー、私って冷たいのかしら。
それって「映画の出来・不出来」と関係がないと
思うんですけど。
・・・生々しい、と感じさせたのは
P・グリーングラス、「大成功」・・ですよねっ。^^
・・・・・
<犠牲になられた幾多の方々へご冥福をお祈り致します>
それは、
純粋な映画評に対して、個人の道徳観から批判した愚行ですよ。
キリストを描いた映画を信者が「けしからん」と言うのと同じ。そんなものはうっちゃって大正解。
論旨って何でしょうかね?
姐さんのご意見は、要は生々しく作られるべき内容が生々しく作られているから、よく出来た映画である、という極めて正論。
実際に起きた悲劇だから出来栄えを論ずるのはけしからんという批判もあれば、これは仮説であって事実ではないから云々という不評もある。
しかし、商業映画と作られたからには出来栄えを論じられ、採点され★をつけられるのは当然であり、映画はそっくりショーでもない。どちらも、映画評として語る限りにおいては、愚の骨頂ですね。
私は、良くできた作品だったので、勢い余って「思い出のグリーングラス」を歌いましたよ。そんなに力んでも亡くなった方は帰ってこない。
管制塔のパニック描写は言葉を失うほどのリアルな出来栄えでしたね。
機内でも臨場感を出すためラフに手持ちカメラを動かしておりますが、その細分化されたカットが見事に繋がっていて、撮影や編集での技術的な部分で驚きました。
これは余程、緻密にカット割りを計算しているのでしょうね。あのラストの演出も含め、ポール・グリーングラスの実力を思い知らされる秀作だったと思います。
管制塔の部分は、所謂肩置きカメラで撮ったのでしょうが、いずれにしても固定カメラを使用しない手法が功を奏して、物凄い臨場感でしたね。
これだけ細かい手持ちカメラの映像では正確には捉え切れませんが、結果的にぎくしゃくした感じを受けないので相当計算しているのだろう、と思わざるを得ませんよね。
実際の悲劇がベースということで余り映画的に捉えるのはどうかというブログも多いですが、それはちょっと変です。
また1年がすぎたのですね。(しみじみ・・)
この作品は劇場で観ました。カメラの揺れに酔いやすく、「空中庭園」をDVDで見た時、途中で気持ち悪くなったわたしですが、これは大丈夫でした。それだけ画面に入り込んでいたんだと思いますね。
運転する人が酔わないのと同じ理屈なのかなとちらと思いました。
なるほど、一言でいえば臨場感ってことですね。
ポール・グリーングラス監督の新作は11月ごろでしょうか?
原作ファンの間では酷評のお猿ボーン、わたしは大好きなんです♪
早く観たいなあ。(わくわく)
横レスですが、vivjijiさんの削除されたコメントなんとなく「読んでしまった」気がします・・・
>・・・生々しい、と感じさせたのは
P・グリーングラス、「大成功」・・ですよねっ。^^
同感!
「空中庭園」はTVでも酔いますね。
ちょっと映画館の大スクリーンから離れると、僅かな移動撮影でもカメラ酔いをするようになりました。
実は、数年前に遊園地の【バイキング】に乗ってからなんですけどね。
viva jijiさんも私も奇しくも【臨場感】という言葉を本文に使いました。【緊張感】は寧ろ綿密に練りこまれた脚本と演技に使うべき言葉のような気がしまして、本作はちょっと違う。本作は、固定カメラを使わないことで、現場に居合わす印象をもたらしました。
グリーングラスの前作「ボーン・スプレマシー」でもカメラ酔いを起こしましたが、しゅべる&こぼるさんと全く同じ理由で、全く不調を感じる間もなく鑑賞し終えることができました。
viva jiji姐さんの災難でしたねえ。悪質な書き込みではなくても不愉快を起こさせるという意味では同じ。映画を映画として素直に評価することは極めて健全で、寧ろ「時期尚早」なんていう発想が理解できない。そんなことを言ったら、実話をベースにした芸術は作れやしませんよね。
この2、3年で多くの9.11を直接的にあるいは暗喩として題材にした映画は多く出てきましたが、この作品は、予想を裏切って、傑作であると思いました。
現在ハリウッドで一番もてはやされている<家族の再生>というテーマ自体が9・11の影響だと思っているのですが、仰るように、暗喩から徐々にストレートに扱う作品が出てきましたね。
「ワールド・トレード・センター」は未見ですが、本作のセミ・ドキュメンタリーぶりには興奮しました。
「あの日自分は何をしていたか」
これをはっきりと覚えている事件ってほんのわずかだと思います。
よほど衝撃的な事件の時は、「あの時こうだった」を覚えていますよね。
オカピーさんと同じように、私もこの日の事はしっかりと覚えています。
この映画を観ながらその日の事も思い出してしまい、とても怖かったことを思い出しました。
ドキュメンタリーのようにこの映画を観てしまい、その恐怖が蘇ってくるようでした。あまりにリアルで緊張しました。
まず2001年の9月は遠く金沢にいる友人の細君が再就職した月で、独身時代にかなり映画を見ていたという彼女と映画の話を中心に色々メールで話をしていて、もう頻繁にメールもできなくなる、という頃に起きた出来事でした。一生懸命メールの返事を打っていたんです。
これまた不謹慎な発言になりますが、「余りに凄惨な映像に映画でもこんなことは起こらない」と凍りつきましたね。
そう言えば地下鉄サリンの日は会社が休みで、電気店のTVで事件の様子を垣間見て「何が起きたんだ!」と思い、慌てて家に帰ってTVを付けました。これもひどかったです。
あの年は神戸地震もあって大変でしたね。