映画評「四月の雪」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年韓国映画 監督ホ・ジノ
ネタバレあり
「失楽園」等ミーハーおばさんが駆け込む映画は映画ファンから目の敵のように酷評される運命にあるようだが、本作は、喜劇と悲劇と振幅の大きさで初心者を騙そうとする水準的な韓国ロマンスと比べれば随分映画的な楽しみ方ができる。
地方出張と配偶者に伝えて出かけた不倫カップルが交通事故を起こして他人を巻き込んで昏睡状態に陥ってしまう。
女性の夫ペ・ヨンジュンと男性の妻ソン・イェジンが同じモーテルから病院に通い、事故に巻き込まれて死んだ被害者宅へ弔問に訪れたりするうちに、配偶者の不倫を知って同病相憐れむ関係になり、苦痛を乗り越えるかのように不倫の関係を結ぶ。
交通事故そのものではなく配偶者の不倫を知った苦しみからミイラ取りがミイラになるように自ら不倫関係に陥っていく、という設定が面白い。
「八月のクリスマス」で日本に紹介されたホ・ジノは台詞を少なめにした省略法や溶暗を駆使してムード醸成に努めている。本作の狙いは二人の心理の流れをじっくり描くことではなく、二人を動かす陰鬱なムードに観客を投げ入れ、同化させることである。
そんなことで人間は不倫に走るか。イエス、人間はかくも弱いものである。かくも弱いから人間なのである。彼らの行動は僕には寧ろ当たり前の行動にしか見えない。主人公たちの心理は我々が想像しうる範囲のものに過ぎず、そんなものを描写したところで何になろう。ホ・ジノの心理描写を端折った作劇は寧ろ評価されるべきである。
さて、彼らが冒険に走った時共に同じ条件下にあるので一般の恋愛とさして変わるものでははなく、特に見合い結婚だったヒロインには初恋同様であるが、配偶者の昏睡状態という設定故に遠くない未来にその環境に変化があることが予想される。両方とも死んでしまうのでは発展性を欠いて面白味がない。そこで片方が昏睡から目覚め、片方は死ぬことでバランスを失った二人の関係は歪になっていくだろう。
正に僕の予想通りに進んだ後訪れる幕切れがなかなか大胆。数少ない台詞で判るのは彼の好きなのが冬で、彼女が春であるということ。これを伏線にして、映画は四月に大雪を降らせる。好きな者同士の運命的結びつきを暗示して終るのである。
類似作品の成瀬巳喜男「乱れ雲」ほどではないが、ムードを重視して観るなら決して悪い作品ではない。
【春の雪】の日韓対決は、韓国の勝利。
2005年韓国映画 監督ホ・ジノ
ネタバレあり
「失楽園」等ミーハーおばさんが駆け込む映画は映画ファンから目の敵のように酷評される運命にあるようだが、本作は、喜劇と悲劇と振幅の大きさで初心者を騙そうとする水準的な韓国ロマンスと比べれば随分映画的な楽しみ方ができる。
地方出張と配偶者に伝えて出かけた不倫カップルが交通事故を起こして他人を巻き込んで昏睡状態に陥ってしまう。
女性の夫ペ・ヨンジュンと男性の妻ソン・イェジンが同じモーテルから病院に通い、事故に巻き込まれて死んだ被害者宅へ弔問に訪れたりするうちに、配偶者の不倫を知って同病相憐れむ関係になり、苦痛を乗り越えるかのように不倫の関係を結ぶ。
交通事故そのものではなく配偶者の不倫を知った苦しみからミイラ取りがミイラになるように自ら不倫関係に陥っていく、という設定が面白い。
「八月のクリスマス」で日本に紹介されたホ・ジノは台詞を少なめにした省略法や溶暗を駆使してムード醸成に努めている。本作の狙いは二人の心理の流れをじっくり描くことではなく、二人を動かす陰鬱なムードに観客を投げ入れ、同化させることである。
そんなことで人間は不倫に走るか。イエス、人間はかくも弱いものである。かくも弱いから人間なのである。彼らの行動は僕には寧ろ当たり前の行動にしか見えない。主人公たちの心理は我々が想像しうる範囲のものに過ぎず、そんなものを描写したところで何になろう。ホ・ジノの心理描写を端折った作劇は寧ろ評価されるべきである。
さて、彼らが冒険に走った時共に同じ条件下にあるので一般の恋愛とさして変わるものでははなく、特に見合い結婚だったヒロインには初恋同様であるが、配偶者の昏睡状態という設定故に遠くない未来にその環境に変化があることが予想される。両方とも死んでしまうのでは発展性を欠いて面白味がない。そこで片方が昏睡から目覚め、片方は死ぬことでバランスを失った二人の関係は歪になっていくだろう。
正に僕の予想通りに進んだ後訪れる幕切れがなかなか大胆。数少ない台詞で判るのは彼の好きなのが冬で、彼女が春であるということ。これを伏線にして、映画は四月に大雪を降らせる。好きな者同士の運命的結びつきを暗示して終るのである。
類似作品の成瀬巳喜男「乱れ雲」ほどではないが、ムードを重視して観るなら決して悪い作品ではない。
【春の雪】の日韓対決は、韓国の勝利。
この記事へのコメント
僕も、結構、面白く見ましたよ。でも、ペさん、商売もいろいろいいけど、もうちょっと、映画出演して欲しいですね。
相当損をしている映画だなあ、という気がします。
映画ファンは理解不能のロマンスと頭ごなしに酷評するし、ミーハーおばさんの期待通りかと言えば、文学で言えばハーレクイン・ロマンスではなく、登場人物を実験台に載せる純文学ですから、そちらを満足させることもありませんよね。
「“ペ様”がね~・・・」(あえて私はヨン様とは言わない)
と話し始めると、今まで面識がありましたが一度も言葉を
交わしたことない老婦人が、キッとした表情で
「ペ様ではありません、ヨン様です。」と私にご託宣を。
父の隣のご婦人の部屋の壁にも
ヨン様の等身大ポスターがデカデカと。
すごいですねぇ~、ヒットTVドラマの影響って!^^;
でも、次のターゲットが現れるといつのまにやら
大挙して大衆さんは(笑)・・・そちらに流れる~♪
ペだから観たくないと思っていたんです。
ちなみにわたしはペと同い年ですが、韓流ならイ・ビョンホン派です。
私も流行には関心がありませんので「冬のソナタ」も題名しか知りませんが、本作は恐らく「冬ソナ」ファンの期待に沿うものではないでしょうね。
かと言って映画ファンが納得する要素も余りなかったようで、日本ではヒットしましたが、どちらかと言えば不遇の作品という印象です。
本作への好感は、映画的な完成度としては余りにお粗末な青春ロマンスばかり観ていた反動もあると自分では思いますが、実力も世評よりは大分上と思います。
姐さんのように東洋人の面相ではダブル不倫に似合わない、という理屈ではない感想もよく解ります(笑)。
ムードの映画と言っても、決して甘っとろい作品ではないです。
心理は追いませんが、寧ろ純文学だったりします。
ペが苦手という意識があると、どうかなあ。余り期待しないで下さい(笑)。他方、あらゆる先入観を除けば、意外と悪くないと思うのですが。