映画評「インサイド・マン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アメリカ映画 監督スパイク・リー
ネタバレあり

社会派ドラマでスタートしたスパイク・リーも近年は娯楽度を増してきて、その中で風刺や批判を散りばめることでかつての姿勢を貫いている。

マンハッタンの信託銀行を四人組の強盗が襲撃し、二十名以上の従業員と客を人質に取り、バス2台とジャンボ機を要求する。
 という序盤はシドニー・ルメットの傑作「狼たちの午後」を彷彿とするが、捜査主任刑事デンゼル・ワシントンは汚職が取り沙汰されているし、頭取クリストファー・プラマーは自らの過去の秘密を納めた金庫の確保に躍起となり、敏腕弁護士ジョディー・フォスターを雇って犯人と交渉させる、といった具合に駆け引きは一対ではなく複雑である。各人の思惑が絡み合う中、警察は知能犯たる犯人グループと虚々実々の頭脳合戦を繰り広げていく。

警察側が盗聴することを前提にしてアルバニア大統領の演説を聞かせたり、人質の服装を犯人と同じ格好に変えさせて区別不能にするアイデアなど犯人側の知恵が一歩優っている印象はあるが、これが第一作というラッセル・ジェウィルスの脚本で一番面白いのは「物事は見かけと違う」という台詞がヒントとなるトリック的着想である。
 つまり、開巻直後グループのリーダーであるクライヴ・オーウェンが閉所で語り始める(下の画像)。観客はまず刑務所の中と思うが、カメラはその全容を捉えず、観客をミスリードするのだ。トリックの為に映像は嘘をついてはいけないが、隠すのは一向に構わない。

画像

彼は一体いつどこで語っているのか。観客が暫くの間予想していたであろう結末はそれによって変わってくる。どんでん返しと言えるかどうかはともかく実に巧妙である。リーが多用している、カメラをトラックバックしながらズームインするカメラワークの最初の例で、ここでは心理的効果よりトリックを狙いとしている。但し、オーウェン自身がヒントを与えてしまっているのは感心しない。
 最終的に解放された人質(と犯人三人)が取り調べを受ける場面を比較的早めから挿入しているのも、実はトリック的扱い。

終ってみると【大山鳴動鼠一匹】と思えてきたり、詳細は伏せるがプラマーの扱いに疑問の残る部分があるのが、気にはなる。

この記事へのコメント

2007年09月07日 19:21
拙コメントを入れられる記事UPが続きますと
ちょっと嬉しいviva jijiでございます。♪^^

で~~も、
本作では肩透かしを思いっきりいただきましたの。(笑)
アイデアはとてもよろしいんですけど、なんだかなぁ~と
いう小休止が多い(これがS・リー・タッチ?^^)
絵ヅラ&台詞でございまして・・・。

あっと驚くはずの為ちゃんが階段を踏み外したような
気分でとっとと劇場を出ましたのですわ。^^;
オカピー
2007年09月08日 03:28
viva jijiさん、こんばんは。

ここのところ続いていますね。^^
今日から暫く関心のなさそうな作品が続くかもしれませんが、悪しからず。

>肩透かし
私もですが、こりゃ「チャイナ・シンドローム」以来の【大山鳴動鼠一匹】じゃねと思いました。
その割に星が良いのは、ちょっとしたアイデアの数々のおかげですが、スパイク・リーのタッチが娯楽派ではないので、しっくり来ないんですよね。

後でそちらへお邪魔しますです。^^
2021年07月23日 20:46
犯人の、人質皆を犯人と同じ服装にさせてかく乱するというアイデアがよかったですね。話の中にシーク教徒がアラブ人とまちがわれて困ってるとかいうのが出てくるのがスパイク・リーらしいのかなって。
 クリストファー・プラマーが何の罪に問われるのかがはっきりしないので、ちょっと「?」は残るのですが、あの時代にどさくさに紛れて富を築いたことをなかったことにしたくない、という気持ちは伝わってきました。これ、たぶん、BLMみたいなのにつながってくる心情なんだと思いました。
オカピー
2021年07月24日 13:02
nesskoさん、こんにちは。

>クリストファー・プラマーが何の罪に問われるのかがはっきりしない

大分前に観たのでよく思い出せませんが、記事を読み直してみても、同じ点に問題を感じたようです。

>BLMみたいなのにつながってくる心情なんだ

そうなんでしょうねえ。
コロナ死も黒人が圧倒的に多く、平均寿命も白人より6歳くらい短いという現実。

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