映画評「ブロークバック・マウンテン」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督アン・リー
ネタバレあり
「ハルク」の質はそれなりに高かったもののアン・リーの撮る作品ではないと思ったし、「グリーン・デスティニー」は展開がぎこちなくアカデミーの主要部門に絡んだ作品としては戴けなかったが、本作は「いつか晴れた日に」以来の秀作と言って良い。
1963年、牧場の季節労働者としてワイオミング州のブロークバック山での放牧管理に従事することになった二十歳の青年ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが衝動的に同性愛の関係を結んでしまう。
レジャーは同郷の娘ミシェル・ウィリアムズ、ギレンホールは農機具業者の娘アン・ハサウェイと夫々結婚して子供も儲けるが、一度燃え上がった思いを断ち切ることが出来ず、20年に渡り密会を続けた挙句に離婚したレジャーは交通事故死したギレンホールの遺灰の一部を届ける為に彼の両親を訪れる。
70年代以降同性愛を主眼にした作品は少なからず作られているとは言え、朴訥で男らしいイメージのある牧童同士を当事者にした作品は記憶にない。
当初はその珍奇さに注目していたが、次第に彼らの純粋な愛情交換に神経を研ぎ澄まさざるを得なくなる。我々はいつか彼らが同性であるということを半ば忘れ、その強い思いに心打たれるようになる。偶々相手が男性だったというだけではないかと思えてくる。
物語のスタートはまだ同性愛が激しく差別されていた60年代前半であり、しかも舞台がその為に殺人すら起きかねない保守的な地方(田舎)であるが故に、彼らの【反道徳的】行為への理由付けが足りないように思われるかもしれない。
しかし、「人を好きになるのに理由が要るだろうか」と僕は素直に思うし、男女の恋ならそういう要求はまず出ないであろう。繰り返しになるが、運命の人がたまたま男だっただけと理解すれば良いのではないか。
男性を主役にした同性愛映画には生理的に抵抗を覚える僕をして、そう思わせるまでにアン・リーの描写は純粋である。いや、説明不足に見えるこの唐突さは登場人物に突然湧き起こった激情を表現する為の計算と認めざるを得ないのだ。
しかるに、映画の中の二人、特にレジャー演ずるイニスはそう簡単に割り切れない。
元々潜在的に同性愛的資質があったと思われるギレンホール扮するジャックに対し、イニスには自身の同性愛を素直に受け付けられない理由がある。父親に見せられた凄惨な情景である。それ故逢瀬についてもジャックほど積極的にはなれない。
自己における矛盾がイニスに離婚を経て孤独な人生を送らせることになるのだが、葛藤を克服するのは結局は純な思いそのものである。そして終盤で思い出の品を抱き締めて爆発する彼の思いに観客も感極まっていく。
そこにあるのは人間の裸の姿である。
従って、僕自身は同性愛をテーマにしたことをそれほど重視しないが、同性愛という内容故に保守的傾向の強いアカデミーにおいて作品賞を実力的には些か劣る「クラッシュ」に譲る形になったと言わざるを得ないのは残念である。
配役陣も頗る好調。これまでも印象深い活躍をしてきたギレンホールは一段上の段階に進んだと思う。これまで大した印象のなかったヒース・レジャーはさらに秀逸で、これから注目してみたい。女優ではミシェル・ウィリアムズが圧巻。容貌的には好きなタイプとは言いかねるが、「ランド・オブ・プレンティ」に続いて演技は断然宜しい。
撮影も抜群で、上記採点は新作では2年ぶり。すっかり脱帽しました。
映画の出来栄えはロッキーどころかヒマラヤ級じゃよ。
2005年アメリカ映画 監督アン・リー
ネタバレあり
「ハルク」の質はそれなりに高かったもののアン・リーの撮る作品ではないと思ったし、「グリーン・デスティニー」は展開がぎこちなくアカデミーの主要部門に絡んだ作品としては戴けなかったが、本作は「いつか晴れた日に」以来の秀作と言って良い。
1963年、牧場の季節労働者としてワイオミング州のブロークバック山での放牧管理に従事することになった二十歳の青年ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが衝動的に同性愛の関係を結んでしまう。
レジャーは同郷の娘ミシェル・ウィリアムズ、ギレンホールは農機具業者の娘アン・ハサウェイと夫々結婚して子供も儲けるが、一度燃え上がった思いを断ち切ることが出来ず、20年に渡り密会を続けた挙句に離婚したレジャーは交通事故死したギレンホールの遺灰の一部を届ける為に彼の両親を訪れる。
70年代以降同性愛を主眼にした作品は少なからず作られているとは言え、朴訥で男らしいイメージのある牧童同士を当事者にした作品は記憶にない。
当初はその珍奇さに注目していたが、次第に彼らの純粋な愛情交換に神経を研ぎ澄まさざるを得なくなる。我々はいつか彼らが同性であるということを半ば忘れ、その強い思いに心打たれるようになる。偶々相手が男性だったというだけではないかと思えてくる。
物語のスタートはまだ同性愛が激しく差別されていた60年代前半であり、しかも舞台がその為に殺人すら起きかねない保守的な地方(田舎)であるが故に、彼らの【反道徳的】行為への理由付けが足りないように思われるかもしれない。
しかし、「人を好きになるのに理由が要るだろうか」と僕は素直に思うし、男女の恋ならそういう要求はまず出ないであろう。繰り返しになるが、運命の人がたまたま男だっただけと理解すれば良いのではないか。
男性を主役にした同性愛映画には生理的に抵抗を覚える僕をして、そう思わせるまでにアン・リーの描写は純粋である。いや、説明不足に見えるこの唐突さは登場人物に突然湧き起こった激情を表現する為の計算と認めざるを得ないのだ。
しかるに、映画の中の二人、特にレジャー演ずるイニスはそう簡単に割り切れない。
元々潜在的に同性愛的資質があったと思われるギレンホール扮するジャックに対し、イニスには自身の同性愛を素直に受け付けられない理由がある。父親に見せられた凄惨な情景である。それ故逢瀬についてもジャックほど積極的にはなれない。
自己における矛盾がイニスに離婚を経て孤独な人生を送らせることになるのだが、葛藤を克服するのは結局は純な思いそのものである。そして終盤で思い出の品を抱き締めて爆発する彼の思いに観客も感極まっていく。
そこにあるのは人間の裸の姿である。
従って、僕自身は同性愛をテーマにしたことをそれほど重視しないが、同性愛という内容故に保守的傾向の強いアカデミーにおいて作品賞を実力的には些か劣る「クラッシュ」に譲る形になったと言わざるを得ないのは残念である。
配役陣も頗る好調。これまでも印象深い活躍をしてきたギレンホールは一段上の段階に進んだと思う。これまで大した印象のなかったヒース・レジャーはさらに秀逸で、これから注目してみたい。女優ではミシェル・ウィリアムズが圧巻。容貌的には好きなタイプとは言いかねるが、「ランド・オブ・プレンティ」に続いて演技は断然宜しい。
撮影も抜群で、上記採点は新作では2年ぶり。すっかり脱帽しました。
映画の出来栄えはロッキーどころかヒマラヤ級じゃよ。
この記事へのコメント
私は撮影だけでやられてしまいました。あれだけ自然をうまく撮影してくれたなら、文句の付けようがありませんよね。
そこへ演技陣の素晴らしいアンサンブルが加わり、いやあ堪能しました。
正直言いまして、お話は後から考えれば良いや、みたいになってきましたよ。
>ヒース・レジャー
「チョコレート」は観ていて、息子役は強く印象に残っていますが、これが彼だとは気付かなかったなあ。^^;
「ブラザーズ・グリム」「サハラに舞う羽根」・・・そうでしたか。観たのにね。お恥ずかしい。
最近は余程目立ってこないと役者も憶えないんですよねえ。監督も新人ばかりで憶える気もなくなってきましたし、老化現象ですかね。(笑)
勿論新作2本は注目して観ますよ。
僕は、これは、「遠距離恋愛」映画と捉えました。
だから、ふたりの邂逅は切ないし、マウンテンの風景のなかに溶け込んでいく。
これが、どっぷり同棲していたら、幸せかもしれないけど、こういう哀歓は出ないですね。
確かに遠距離恋愛ですねえ。
これがNYやLAの大都市では珍しくないわけですから、田舎の同性愛者というのが話の妙で、二人が同棲するとなると大都市になりますね。
その逢瀬の場所が山地。それが抜群に美しく捉えられていたのが、大量の星に繋がりました。
何でも作品に関係するTB,コメントなら大歓迎です。
本作には全く惚れこみ、昨年観た350本弱の初鑑賞作品のベスト1にしてしまいました。
>ヒース・レジャー
頭の中のハード・ディスクがいかれてきてなかなか若手俳優の名前を憶える気力も湧かない昨今、本作で俄然注目、今後は目を離せないぞと思った矢先ですからびっくり、がっくりです。
ブロークバックは本当に素晴らしくよくできた作品でしたね。
明日もまたこの話題で書くつもりです。
トラバ、私のほうでは表示できましたが、ちゃんと一般の方も拙ブログから見えてますかね? もしよろしければ、再度拙ブログで貴ブログのトラバが反映されているか、確認して教えてくださいまし。
TBの反映を確認致しました。
続きも実に興味深く、更なる続きを楽しみにしております。