映画評「カサノバ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ラッセ・ハルストレム
ネタバレあり

18世紀の色事師カサノヴァと言えば、本作と同じ題名のフェデリコ・フェリーニ作品が最初に頭に浮かぶが、こちらは全くのフィクションとしてこしらえられた恋愛冒険映画である。映画ファンは素材よりラッセ・ハルストレムの新作ということに注目したにちがいない。

18世紀のヴェネチア、修道女を尽く物にして教会の怒りを買って死刑になりそうになったカサノヴァ(ヒース・レジャー)が、総督の機転で無罪放免になるが、その条件として身を固めることを要請され、箱入り娘と婚約を結ぶや否や、彼女に片思いしている若者ジョヴァンニ(チャーリー・コックス)から決闘を申し込まれ、決闘の代理をした彼の姉フランチェスカ(シエナ・ミラー)の「生涯ただ一人の男だけを愛する」という強い言葉に燃え上がり、彼女を目掛けて突進していく。

画像

カサノヴァは誘惑することと同じくらい誘惑されることも好きだったと言われる説に基づいているとも言えるが、1000人もの女性をなで切りにした彼のプレイボーイぶりを逆手に取って一人の女性を追いかけさせるところが映画的ひねりである。つまりエロティシズムではなくロマンティシズムが狙いで、その為に嘘と騙しという喜劇的要素が次々に繰り出される、この手法を得意としたシェークスピアを彷彿とする楽しい作劇。

特に、女性の解放を訴える為に男名で著作していたフランチェスカが異端の罪で訴えられたカサノヴァを救う為に男装して弁護をする場面は「ヴェニスの商人」のパロディーと言って良いほどだが、あの作品のように上手くは行かず、教皇庁から派遣された審問官の司教(ジェレミー・アイアンズ)から二人とも死刑を言い渡されてしまう。
 が、母親の愛人である役者が化けた法王が二人を救ってハッピーエンド。しかし、それではカサノヴァの有名な「回想録」が嘘になってしまうので、姉と結ばれたカサノヴァの代わりにジョヴァンニが二代目に就いた、という洒落っ気のある種明かしが用意されている。

ハルストレムの透明性を敢えて必要としない内容なのでファンには不満が残るだろうし、描写が若干ご丁寧すぎる傾向があるにはあるものの、ロマンティック・コメディーとしては無難な出来と言って宜しい。フェリーニ版ほどの絢爛はないものの近世の再現はなかなか本格的で、美術・衣装が楽しめる。

但し、カサノヴァを演ずるヒース・レジャーは現代アメリカ的つまり散文的で、クラシックなムードがまるで足りない。ローマ司教に扮したジェレミー・アイアンズが20歳がとこ若ければ正にうってつけだったろう。

英会話学校NOVAは講師と生徒をなで切りにしてただ今会社更生法を適用、二代目を募集中。

この記事へのコメント

シュエット
2007年10月27日 22:26
これは、私はヒースの新作!ってミーハーで観にいきました。ただラッセ・ハルストレムのテイストではないな、どんなに撮るのかなっていう気はありましたけどね。観たらなかなか楽しい作品で、こんなヒースもいいじゃん、ってヒースお気に入りには結構満足した作品でした。それだけ(笑)
オカピー
2007年10月28日 03:05
シュエットさん、こんばんは。

話だけ追っていけば何ということはないのですが、そんなことを言えばシェークスピアの喜劇も何ということもないのが多いわけでして、それを評価の対象にするのは大人げないというもの。

ヒース君はなかなか達者ですが、どうもクラシックな耽美性に欠けていまして、今一つ私の心の中で盛り上がらなかったわけです。
しかし、気球は良い。気球を観るとわくわくします。「素晴らしき風船旅行」という傑作もありましたなあ。
2008年05月11日 19:08
オカピーさん、ご無沙汰しております。
久しぶりにコメントさせていただきます。実はこちらの作品は未見なのですが、関連作品ということで、ドロンのカサノヴァをTBしました。
今日、『映画のなかの文学 文学のなかの映画』(飯島 正著、白水社、1976年)を購入してしました。まだ、未読ですが、ハリウッドにおけるロバート・リスキンとフランク・キャプラのコメディが戦前のカルネ=プレヴェールやフェデール=スパークの関係、すなわちシナリオと映像の協働(チーム)の賛否について書かれている項があり、非情に興味深く感じています。
演技者のクラシカルな個性の引き出され方のひとつにシナリオの問題などもあるのではないでしょうか?
一例として、黒澤の三船とそれ以外の三船を比べてもそんな気がします。
では、また。
オカピー
2008年05月12日 00:59
あっ、トムさんだ!
実は用心棒さんのところで発見して、天にも上るような、半ば夢を見ているような心境でした。
何と言っても8ヶ月は長かった。TT

>映画のなかの文学 文学のなかの映画
白水社からそんな本が出ていますか。
ということは、飯島正氏はフランス文学が専門でしたか?
大昔雑誌【スクリーン】でも原作と映画の比較をされていたっけ。

>黒澤の三船
固定化された演技・イメージも余り作品数が多すぎなければ僕は楽しめる要素と思いますが。
黒澤の三船の大げさな演技は割合好きですよ。
トムさんは否定派ですか?

後でそちらのほうへお伺い致します。
トム(Tom5k)
2008年05月12日 23:07
どうも、オカピーさん、わたしごときのコメントにそんなに喜んでいただいてうれしいです。ありがとう。

>飯島正さん
文学にも造詣が深い方のようで、映画の文学性に随分こだわられていらっしゃるようです。
>黒澤の三船・・・(素晴らしいと思ってます)
あっ、説明不足でした。以前、オカピーさんの=黒澤のリアリズムが詩的である=とのご感想から想起したのですが、旧フランス映画がシナリオ重視であることからも、黒澤のシナリオ重視の姿勢と共通しているし、かつ黒澤作品の三船の魅力がクラシックでポエジックな気がしたのです。
『七人の侍』の菊千代の赤ん坊を抱きかかえながらの絶叫など、抗えぬ運命と死という旧フランス映画の命題に共通しながらも、かつ新しい生命の再生まで表現されていた。そして『酔いどれ天使』の三船の最期などもデュヴィヴィエかカルネの演出かとも思えたシークエンス・・・等々。
そんなことから、俳優の個性もシナリオによって引き出される部分もあるのかななどと思った次第です。
最近のハリウッド作品のことですから、シナリオたってあんまりこだわってないのではないかなと・・・。
では、また。
オカピー
2008年05月14日 00:17
トムさん、こんばんは!

>飯島正さん
確か文学博士でした。
映画評論家では必ずしも珍しくないわけですが。
白水社ですから、やはりフランス文学がご専門でしょうね。

>黒澤の三船
本作との絡みもあったわけですね。それで半ば読み違えたのでした。
ご説明、有難うございました。

>酔いどれ天使
>デュヴィヴィエかカルネ
そうでしょう?
二回目に観た時には、それより何年か前に観るチャンスがあったデュヴィヴィエの戦前のメグレもの「モンパルナスの夜」の詩的ムードが見事に蘇ったものです。
黒澤御大が実際にこれに影響されたかはともかく、まさにデュヴィヴィエだったんですよ。

勿論シナリオがそういう志向になっていなければ、勿論クラシカルなムードなど出ないわけですが、よりムードのある俳優の方がその効果が高いことは間違いないでしょうね。

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