映画評「明日へのチケット」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年イタリア=イギリス映画 監督エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ
ネタバレあり
ローマ行きの列車で繰り広げられる人生模様をイタリアのエルマンノ・オルミ、イランのアッバス・キアロスタミ、イギリスのケン・ローチがバトン・タッチ形式で描き上げたオムニバス映画。
出張先のオーストリアからイタリアに戻ろうとした老教授カルロ・デッレ・ピアーネが空港閉鎖の為に協力先の女性ヴァレリア・ブルーニ=テデスキに列車の切符を手配してもらう。彼女の心尽くしに胸がときめき列車の中でメールでお礼の言葉を書き始めると、実らなかった少年時代の初恋を思い出し、幻想の中で愛を告白する。
一方目の前では軍人が幼児を連れたアルバニア人家族に冷たく当たり、作ろうとしていたミルクをこぼさせてしまう。教授は乗務員に温めたミルクを頼み、家族に差し出す。初恋では使えなかった勇気を出したのだ。
個人的にはオルミが作ったこの第一話が最も気に入った。老教授の心情が上手く映像に沈潜し、心理の流れが鮮やかに捉えられているように思えたのである。
キアロスタミの第二話は大分趣き変わり、二等席の切符しかない将軍の未亡人シルヴァーナ・デ・サンティスが我儘をむき出しにして一等席に座り、乗客や車掌に迷惑を掛け続ける。兵役義務の一環で彼女の面倒を見ていた若い兵士フィリッポ・トロジャーノも堪忍袋の緒を切って姿を消し、彼女は途方に暮れる。
列車での旅というモチーフを生かしたお話ではあるが、狙いが解りにくく、序盤携帯電話をめぐるいざこざで嫌な思いをした客が彼女の荷物を持ち出す幕切れの人情が僅かに印象に残る程度。言わば自然主義スタイルによる人間観察編といったところだ。
第三話は、欧州チャンピオンズ・リーグのベスト8に進出した地元チーム、セルティックの応援に駆け付けるスコットランドのサッカー・ファン三人組の騒動を描き出す。
粗雑な今時の若者たちかと思っていると、第一話に出てきた難民であるアルバニア人一家にサンドウィッチを分けたり多様な面を見せるが、一人の切符がその家族の少年に盗まれたことが発覚したことから一悶着。大した金も持ち合わせていない三人組の一人は自ら警察に逮捕され、観戦もできなくなるのを承知で切符を譲る決意をする。
難民の家族が嘘を言っているか判断に苦しみながら切符を譲る若者が清々しく、下層階級に目を向けてきたローチらしい主題の物語。一般的には一番親しみやすいお話であろうし、終盤彼らが駅員から逃れてしまうのも痛快と言って宜しい。しかし、良い子の皆様は真似をしないように。
オムニバスであると同時に連作的長編でもあるわけだが、先日の「愛の神・エロス」より個々の充実度が高いだけでなく、車掌を三話を通じて登場させ、またアルバニア人一家を狂言回しにして統一感が高い。勿論各々の長編作品を観るような手応えは期待できないが、三人以上の監督が絡んだオムニバスとしては上手くいった部類ではないかと思う。競い合いより協力を優先した効果であろう。
テーマは【決断】でした。
2005年イタリア=イギリス映画 監督エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ
ネタバレあり
ローマ行きの列車で繰り広げられる人生模様をイタリアのエルマンノ・オルミ、イランのアッバス・キアロスタミ、イギリスのケン・ローチがバトン・タッチ形式で描き上げたオムニバス映画。
出張先のオーストリアからイタリアに戻ろうとした老教授カルロ・デッレ・ピアーネが空港閉鎖の為に協力先の女性ヴァレリア・ブルーニ=テデスキに列車の切符を手配してもらう。彼女の心尽くしに胸がときめき列車の中でメールでお礼の言葉を書き始めると、実らなかった少年時代の初恋を思い出し、幻想の中で愛を告白する。
一方目の前では軍人が幼児を連れたアルバニア人家族に冷たく当たり、作ろうとしていたミルクをこぼさせてしまう。教授は乗務員に温めたミルクを頼み、家族に差し出す。初恋では使えなかった勇気を出したのだ。
個人的にはオルミが作ったこの第一話が最も気に入った。老教授の心情が上手く映像に沈潜し、心理の流れが鮮やかに捉えられているように思えたのである。
キアロスタミの第二話は大分趣き変わり、二等席の切符しかない将軍の未亡人シルヴァーナ・デ・サンティスが我儘をむき出しにして一等席に座り、乗客や車掌に迷惑を掛け続ける。兵役義務の一環で彼女の面倒を見ていた若い兵士フィリッポ・トロジャーノも堪忍袋の緒を切って姿を消し、彼女は途方に暮れる。
列車での旅というモチーフを生かしたお話ではあるが、狙いが解りにくく、序盤携帯電話をめぐるいざこざで嫌な思いをした客が彼女の荷物を持ち出す幕切れの人情が僅かに印象に残る程度。言わば自然主義スタイルによる人間観察編といったところだ。
第三話は、欧州チャンピオンズ・リーグのベスト8に進出した地元チーム、セルティックの応援に駆け付けるスコットランドのサッカー・ファン三人組の騒動を描き出す。
粗雑な今時の若者たちかと思っていると、第一話に出てきた難民であるアルバニア人一家にサンドウィッチを分けたり多様な面を見せるが、一人の切符がその家族の少年に盗まれたことが発覚したことから一悶着。大した金も持ち合わせていない三人組の一人は自ら警察に逮捕され、観戦もできなくなるのを承知で切符を譲る決意をする。
難民の家族が嘘を言っているか判断に苦しみながら切符を譲る若者が清々しく、下層階級に目を向けてきたローチらしい主題の物語。一般的には一番親しみやすいお話であろうし、終盤彼らが駅員から逃れてしまうのも痛快と言って宜しい。しかし、良い子の皆様は真似をしないように。
オムニバスであると同時に連作的長編でもあるわけだが、先日の「愛の神・エロス」より個々の充実度が高いだけでなく、車掌を三話を通じて登場させ、またアルバニア人一家を狂言回しにして統一感が高い。勿論各々の長編作品を観るような手応えは期待できないが、三人以上の監督が絡んだオムニバスとしては上手くいった部類ではないかと思う。競い合いより協力を優先した効果であろう。
テーマは【決断】でした。
この記事へのコメント
1話と3話は雰囲気も色合いも違いますが
素直にスーーッと心に入ってきましたね。
問題なのは2話ね。^^
実はあのエゴ丸出しファット・レディ(笑)が席を
頑として譲らないシーンから「これは面白そう」と
感じたのですが「なぜにこのオナゴはこんなに怒るんじゃ」
「この男の連れとの関係は?」想像巡らしているうちに
あんれま~取り残されプラットフォームじゃった・・・
キアロスタミ氏よ、描き込みがいささか足りんぞ、キミィ~
・・とか、ブチブチ言いながら観てましたです~^^;
いずれも観照的なスタイルを持ち味とする作家たちの共作(競作)ですが、キアロスタミは余りにも観察に徹しすぎていましたね。見せ場が未亡人のエゴイズムだけでは、私も大いに不満でした。
第3作も清々しく感動的でしたが、第1作のムードが大好きでした。ロシア文学風味があるような気がしましたね。
平均35分くらいのドラマですから真に手応えがあるものを作るのは難しいようですね。味わいだけでも読ませることができる小説と違って映画ではやはり起承転結が大事ですから最低でも1時間くらい必要な感じがありますね。逆に最初から10分くらいを目指していれば良い短編になるのでしょうけど。
私は、それでも、良いものを観たな、という印象を受けましたよ。第2話だけはそうした核となる部分がなくて残念でしたが。
この3人の巨匠たち含めたスタッフの打ち合わせ光景なんかを想像すると、なんかほのぼのとしますね。
かなり個性的な面々ですが、上手く行ったんですね。
黒澤と小津と溝口なら絶対不可能でしょう。(笑)