映画評「孔雀-我が家の風景-」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年中国映画 監督クー・チャンウェイ
ネタバレあり

アジア・フィルム・フェスティバルに参加した作品をぼつぼつ観ているが、タイやヴェトナムの作品に比べて本作の完成度は圧倒的に高い。
 チャン・イーモウやチェン・カイコーという中国のトップ監督の撮影監督を務めてきたクー・チャンウェイの初メガフォン作で、文革が終わった1977年から84年までの両親と男女男の子供から成る5人家族の変遷を次男の視点で綴る。

感受性が鋭く奔放な長女(チャン・チンチュー)は落下傘部隊の将校に恋して同部隊に志願するが、彼が他の女性と仲良くするのを見て諦め、次々と職業を変え男を変え、やがて会社の運転手と結婚する。
 ここまでが長女の部で、自転車に落下傘をくくりつけて街を疾駆する場面が、不思議な幸福感に満ち満ちていて実に良い。

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続いては、知的障害を患っている気の良い太った長男(フェン・リー)はどこへ行っても「豚」と呼ばれて蔑まされ、工場の美人に横恋慕するが叶うはずがなく、足の悪い女性と見合い結婚して屋台を始める。
 これが長男の部で、兄を疎ましく思う長女と次男にネコイラズを飲まされそうになるエピソードまである。

最後は、数年後の家族全体を俯瞰する。長女は結婚に破れて家に戻り、長男は屋台が繁盛して馬鹿にしていた男にまで金を貸し、語り手である線の細い次男はやさぐれ、子持ち女と結婚して戻って来る。

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そして、父を亡くした後三人の兄弟が夫々の伴侶や子供を連れ動物園の孔雀を眺める長回しで終わる。彼らの期待も虚しく孔雀は羽を広げないが、去った後ゆっくりと羽を広げる。
 姉が落下傘を広げて自転車を走らせる前半の場面を思い起こさせるのだが、普通の人々の喜怒哀楽、なかんずくささやかな幸福を味わう瞬間を描くという映画のテーマもここに集約されているようである。そういう意味では、本作の方が事件性はずっと高いものの、「東京物語」において「普通の人々を普通に描くのは普通ではない」と僕に指摘させた小津安二郎の世界に通ずるものがある。

140分に及ぶ長編で丹念な描写に優れた味わいがあるが、同じ家族の同じ時期を長女と長男中心に二回に渡って描くという手法に些かぎこちない感じがしないでもない。

この記事へのコメント

2007年11月22日 09:09
TBありがとう。
僕はこういう映画が、一番心に響きます。
最後の、ずっと動かない孔雀のシーンは、これから何度も個人的に、想起されることだと思います。
オカピー
2007年11月22日 21:18
kimion20002000さん、こんばんは。

>孔雀
人間の幸福もあのようになかなか開かないんでしょうね。
監督も粘りました。
芸術寄りの中国系監督には長回しを好む人が多いですが、余り上手く行っていないです。しかし、本作の幕切れの長回しは良かったですね。

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  • 『孔雀 我が家の風景』'05・中

    Excerpt: あらすじ落下傘部隊の将校に恋した姉知的障害がある気のいい兄小さな町を飛び出した気弱な弟。待ち望んでも開かない孔雀の羽の様に皮肉な運命に家族は揺れそしてまた寄り添っていく。1977年、人々は手にした事の.. Weblog: 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ racked: 2007-11-23 23:11
  • mini review 07033「孔雀 我が家の風景」★★★★★★★★★☆

    Excerpt: カテゴリ : ドラマ 製作年 : 2006年 製作国 : 中国 時間 : 136分 公開日 : 2007-02-17~ 監督 : クー・チャンウェイ 出演 :.. Weblog: サーカスな日々 racked: 2007-11-24 10:16