映画評「カポーティ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ベネット・ミラー
ネタバレあり
中学時代にトルーマン・カポーティの名前を知り、その代表作たる「ティファニーで朝食を」の映画版を観、高校時代に映画「冷血」を観たが、未だにどちらの原作も読んでいない。読書は少なからずしてきたものの、昭和30年以降の文学には手を付けない(一部推理小説を除く)という変なルールを守ってきたからだが、もうそろそろ解禁しても良かろうと思っている。
それはさておき、本作はカポーティがその「冷血」を書いた経緯を描いたセミ・ドキュメンタリーで、監督は新人と言って良いベネット・ミラー。観照的に登場人物を捉えた手法が「冷血」のノンフィクション性とオーヴァーラップしてちょっとした酩酊感を覚える。
1959年11月にカンザス州の田舎で一家四人惨殺事件が発生、その記事を読んだ人気作家カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)が取材することを決め、幼馴染の女性作家ネリー・ハーパー・リー(キャサリン・キーナー)と共に同地の警察を訪れても風変わりな人間なのでなかなか相手にして貰えないが、彼女のおかげで捜査部長(クリス・クーパー)の協力を得ることが出来、やがて逮捕された犯人二人に直撃取材する。
二人のうち彼の関心を引き交流を深めていくのはインディアンの血を引く主犯ペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・ジュニア)で、少年時代孤独を抱え複雑な人間性を見せるようになったペリーに周囲に誤解され続けた自らをダブらせていた様子だが、その一方で、打算的で作品の成功の為には彼に対しても平気で嘘を付く。
御存じの方も多いだろうが、カポーティは有名な同性愛者で、パートナーは同業のジャック・ダンフィー(ブルース・グリーンウッド)。その彼が「君が弁護士を雇うのは自分の為ではないか」といみじくもその功名心を皮肉るが、カポーティは複雑、かつ、「被害者の死体を見て安心した」と宣うように常識でくくれないところがある。
そのせいで僕は途中からかなり混乱を来した。自身で決めた「冷血」というタイトルを懸命に隠すのがペリーを気遣ってのことなのか、それとも小説を完成させる為に話を引き出そうとしているだけなのか。或いは、彼の流す涙は本物か演技か。僕には判然としない。
反面、当初取材の為に刑の延期を期待した彼が、犯行当日の話を聞き終えた後小説を完成させる為には死刑を望むが、心情的には死刑を行わせたくないと思う辺りのジレンマはよく解る。
しかし、僕の頭脳は彼の嘘を付く時の巧妙すぎる演技に過剰な反応を示して硬直化、死刑の後に見せる茫然とした表情すら演技ではないかと疑いたくなり、無力感から創作意欲を失い、結局アルコール中毒で夭逝したことを字幕により示されてもピンと来ないところが出てきてしまった。
勿論死刑の瞬間を見て心理的影響を受けない人間などいないであろうし、それ以前のジレンマに相当苦しめられたことは形式としては理解できるので僕自身のせいではあろうが、この辺りにカポーティという複雑怪奇な人間を取り上げる難しさを感じてしまうのである。
いずれにしても、これはカポーティの人となりを「冷血」を完成させる経緯を通して凝視的に捉えようと試みた作品であり、観客としては演ずるホフマンを堪能すべき作品である。
「M:i:III」では全くの巨漢に見えたホフマンが実際のカポーティ程でないにしてもあれほど小さく見えるだけでも圧倒的な演技と言うべし。勿論本作出演に当たり彼は体重を減らしたらしいが、それだけにあらず、演技で小さく見せているのである。恐れ入りました。キャサリン・キーナーも好調。
出来栄えとは関係ないが、ジョン・ヒューストンが監督した「悪魔をやっつけろ」(カポーティの脚本作)やリー女史が書いてロバート・マリガンが映画化した「アラバマ物語」といった楽屋裏的な話が出るのがオールド・ファンには嬉しい。
「カポーティに聴衆を」でした。
2005年アメリカ映画 監督ベネット・ミラー
ネタバレあり
中学時代にトルーマン・カポーティの名前を知り、その代表作たる「ティファニーで朝食を」の映画版を観、高校時代に映画「冷血」を観たが、未だにどちらの原作も読んでいない。読書は少なからずしてきたものの、昭和30年以降の文学には手を付けない(一部推理小説を除く)という変なルールを守ってきたからだが、もうそろそろ解禁しても良かろうと思っている。
それはさておき、本作はカポーティがその「冷血」を書いた経緯を描いたセミ・ドキュメンタリーで、監督は新人と言って良いベネット・ミラー。観照的に登場人物を捉えた手法が「冷血」のノンフィクション性とオーヴァーラップしてちょっとした酩酊感を覚える。
1959年11月にカンザス州の田舎で一家四人惨殺事件が発生、その記事を読んだ人気作家カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)が取材することを決め、幼馴染の女性作家ネリー・ハーパー・リー(キャサリン・キーナー)と共に同地の警察を訪れても風変わりな人間なのでなかなか相手にして貰えないが、彼女のおかげで捜査部長(クリス・クーパー)の協力を得ることが出来、やがて逮捕された犯人二人に直撃取材する。
二人のうち彼の関心を引き交流を深めていくのはインディアンの血を引く主犯ペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・ジュニア)で、少年時代孤独を抱え複雑な人間性を見せるようになったペリーに周囲に誤解され続けた自らをダブらせていた様子だが、その一方で、打算的で作品の成功の為には彼に対しても平気で嘘を付く。
御存じの方も多いだろうが、カポーティは有名な同性愛者で、パートナーは同業のジャック・ダンフィー(ブルース・グリーンウッド)。その彼が「君が弁護士を雇うのは自分の為ではないか」といみじくもその功名心を皮肉るが、カポーティは複雑、かつ、「被害者の死体を見て安心した」と宣うように常識でくくれないところがある。
そのせいで僕は途中からかなり混乱を来した。自身で決めた「冷血」というタイトルを懸命に隠すのがペリーを気遣ってのことなのか、それとも小説を完成させる為に話を引き出そうとしているだけなのか。或いは、彼の流す涙は本物か演技か。僕には判然としない。
反面、当初取材の為に刑の延期を期待した彼が、犯行当日の話を聞き終えた後小説を完成させる為には死刑を望むが、心情的には死刑を行わせたくないと思う辺りのジレンマはよく解る。
しかし、僕の頭脳は彼の嘘を付く時の巧妙すぎる演技に過剰な反応を示して硬直化、死刑の後に見せる茫然とした表情すら演技ではないかと疑いたくなり、無力感から創作意欲を失い、結局アルコール中毒で夭逝したことを字幕により示されてもピンと来ないところが出てきてしまった。
勿論死刑の瞬間を見て心理的影響を受けない人間などいないであろうし、それ以前のジレンマに相当苦しめられたことは形式としては理解できるので僕自身のせいではあろうが、この辺りにカポーティという複雑怪奇な人間を取り上げる難しさを感じてしまうのである。
いずれにしても、これはカポーティの人となりを「冷血」を完成させる経緯を通して凝視的に捉えようと試みた作品であり、観客としては演ずるホフマンを堪能すべき作品である。
「M:i:III」では全くの巨漢に見えたホフマンが実際のカポーティ程でないにしてもあれほど小さく見えるだけでも圧倒的な演技と言うべし。勿論本作出演に当たり彼は体重を減らしたらしいが、それだけにあらず、演技で小さく見せているのである。恐れ入りました。キャサリン・キーナーも好調。
出来栄えとは関係ないが、ジョン・ヒューストンが監督した「悪魔をやっつけろ」(カポーティの脚本作)やリー女史が書いてロバート・マリガンが映画化した「アラバマ物語」といった楽屋裏的な話が出るのがオールド・ファンには嬉しい。
「カポーティに聴衆を」でした。
この記事へのコメント
間、恐れ多くも、かしこみ、かしこみ(笑)北海道を
代表いたしまして(エッラソーにってね~^^)
不肖viva jijiめがセッセと日産自動車?あっ、違った
日参いたしておりますです、はい。(--)^^
>複雑怪奇な人間を取り上げる難しさを
はっきり言えますよ、私は。
19歳で天才作家と持ち上げられ名声を欲しいままにしたか
なんか知りもはんけんども~、要は、狡猾で小賢しくて
アル中で“ヤなやつ”の部類だったんでしょう、
カポーティは。^^
いろんな人種と性癖と過去・現在を持った人間も
あの当時のアメリカは一過性とも思える彼の能力と
話題性だけで、その辺にはべらす器量があった
・・・のでしょうか。
それにしてもベネット・ミラーの作風。
静謐で私はとても気に入りましたし、
あそこまでなりきりホフマンには特に快哉を!
>「冷血」
懐かしく再見。
初見時はなにを見ていたんでしょう。(--)^^
鋭くて硬質なタッチで、すばらしかった!
カポーティ自身がどういう人間かという部分については
大体把握できたと思うですが、
彼が犯人と接見している時の本心がもっと正確に把握できれば
僕としては幕切れの字幕を読んだ時に
もっと大きな感慨が湧いたのではないかと思うのです、
たとえ彼がどんなに打算的な人間であったとしても。
ホフマンは絶品ですし、ベネット・ミラーという新人さんの
空気感醸成も抜群でしたが、
自然と湧き上がる感銘という点で、僅かに判然としない部分が
かなりマイナスになった気がして惜しいなあと感じた次第。
>「冷血」
今回はHDDに余裕がなかったので来月観直す予定。
>カポーティに聴衆を
「ティファニーで朝食を」をもじったつもりですが、
面白くないですかね?
自分では結構気に入ったのですが。
>「冷血」
そうでしたか? あはは、全然記憶にないです。
本文でも書いたのですが、「冷血」は多分右も左も碌に解らない高校時代に観たので、そう強い印象がなかったのであります。
だから、来月忘れずに観ることが出来れば、殆ど初鑑賞同様に楽しむことができますね。楽しみですじゃ。
「カポーティ」はムードも良いですし、やはり佳作・秀作と言って良いと思いますが、上にくどくど書いたようなところが残念でしたね。
それでは、メリー・クリスマス!
打算的というよりか、作家の業のようなモノを感じましたね。小説よりも奇異なこの事件を余すところなく書き上げてしまいたい、そんな思いに駆り立てられていたのではないかと。
カポーティの真意はともかく、「冷血」は犯人たちを示す言葉であって、そこを隠しているというだけでサスペンスになっている。映画としては文句無く面白いですよね。
「冷血」、再見したいんですが、レンタルにないのでTV放送を願っております。
>TB
こちらのほうも記事は読んだはずですが、TBできなかったです。
四月は一番忙しかった頃です。どうもすみません。<(_ _)>
>打算的というよりか、作家の業のようなモノ
心理学的に言えば、もっと欲動的なものなんでしょうか。
>映画としては文句無く面白いですよね。
これが本当のセミ・ドキュメンタリーですね。
映画界が特に激しく二分化されている日本ではちょっと作られそうもない。
>「冷血」
WOWOWに入るべし。(笑)
尤も今から入っても放送しませんけど。^^