映画評「ブラックブック」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年オランダ=ドイツ=イギリス=ベルギー映画 監督ポール・ヴァーホーヴェン
ネタバレあり
オランダ出身のパウル(ポール)・ヴァーホーヴェンが母国に戻って作り上げた戦争スパイ・スリラー。実話がベースになっているというが、相当映画的に改変されている模様。
1956年のイスラエルのキブツ(集団主義的共同村)で女性同士が再会する描写から始まるが、これがある為にヒロインが最後まで生き残ることが解ってしまう。
そこから44年のオランダに舞台を移し、レジスタンスのメンバーと言う男にドイツ軍に目を付けられたと言われた元歌手カリス・ファン・ハウテンがその手配で再会した家族らと共に逃避行をしている最中に待ち伏せしていたワルデマー・コブス配下のナチス兵たちに襲撃され、彼女以外は全員死んでしまう。
この一幕が全ての伏線である。
農民に救われた彼女はレジスタンスに参加、金髪に染め、メンバーのトム・ホフマンと共に米軍が落とした支援物を輸送する役目を負い、その途上で知り合ったドイツ軍情報部トップのクリスチャン・コッホに接近、情報部で働き始める。
この中盤では銃器を輸送中のレジスタンスのトラックが子供たちを避けようとして家に追突、子供たちが野菜を盗んでいくとそこから銃器が現れる、という展開がヒッチコック的なアイデアで大変面白い。が、サスペンスの醸成はやや馬力不足の感あり。
コッホの同僚でユダヤ人逃亡をアレンジして資産を奪っていたコブスの机にヒロインの手で盗聴器を仕掛けることに成功したレジスタンスは、トラック事故で逮捕されたメンバー数名を取り戻すべくナチ兵を偽装して奪還作戦を敢行するが、情報が筒抜けで失敗してしまう。
彼女がホフマンにより平和主義のコッホと共に救われて程なく終戦が訪れるが、盗聴器を逆に利用された彼女は売国奴として捕えられてしまう。
この盗聴器の逆利用も後のインシュリン注射と同じように残虐味のある面白いアイデアであり場面である。
この後の展開は逆転また逆転といった具合に息付く間もないほど激しく展開するが、プロローグの存在が最も手に汗を握らせるはずのこのシークェンスでの感興を殺ぐことになる。
未鑑賞の方の為に詳らかに言えないので痒い所に手の届かない表現になってしまうが、これ以降のホフマンの行動に腑に落ちないところも多い。
ただ、幕切れは上手い。キブツの入り口には「ユダヤ人犠牲者の資金により設立」と書かれているのだ。前段がある故に【資金】が具体的な意味を持ち、ちょっとした社会派的なムードが醸し出される。
ヒッチコックとフリッツ・ラングのファンはニヤッとしていることでしょう。
2006年オランダ=ドイツ=イギリス=ベルギー映画 監督ポール・ヴァーホーヴェン
ネタバレあり
オランダ出身のパウル(ポール)・ヴァーホーヴェンが母国に戻って作り上げた戦争スパイ・スリラー。実話がベースになっているというが、相当映画的に改変されている模様。
1956年のイスラエルのキブツ(集団主義的共同村)で女性同士が再会する描写から始まるが、これがある為にヒロインが最後まで生き残ることが解ってしまう。
そこから44年のオランダに舞台を移し、レジスタンスのメンバーと言う男にドイツ軍に目を付けられたと言われた元歌手カリス・ファン・ハウテンがその手配で再会した家族らと共に逃避行をしている最中に待ち伏せしていたワルデマー・コブス配下のナチス兵たちに襲撃され、彼女以外は全員死んでしまう。
この一幕が全ての伏線である。
農民に救われた彼女はレジスタンスに参加、金髪に染め、メンバーのトム・ホフマンと共に米軍が落とした支援物を輸送する役目を負い、その途上で知り合ったドイツ軍情報部トップのクリスチャン・コッホに接近、情報部で働き始める。
この中盤では銃器を輸送中のレジスタンスのトラックが子供たちを避けようとして家に追突、子供たちが野菜を盗んでいくとそこから銃器が現れる、という展開がヒッチコック的なアイデアで大変面白い。が、サスペンスの醸成はやや馬力不足の感あり。
コッホの同僚でユダヤ人逃亡をアレンジして資産を奪っていたコブスの机にヒロインの手で盗聴器を仕掛けることに成功したレジスタンスは、トラック事故で逮捕されたメンバー数名を取り戻すべくナチ兵を偽装して奪還作戦を敢行するが、情報が筒抜けで失敗してしまう。
彼女がホフマンにより平和主義のコッホと共に救われて程なく終戦が訪れるが、盗聴器を逆に利用された彼女は売国奴として捕えられてしまう。
この盗聴器の逆利用も後のインシュリン注射と同じように残虐味のある面白いアイデアであり場面である。
この後の展開は逆転また逆転といった具合に息付く間もないほど激しく展開するが、プロローグの存在が最も手に汗を握らせるはずのこのシークェンスでの感興を殺ぐことになる。
未鑑賞の方の為に詳らかに言えないので痒い所に手の届かない表現になってしまうが、これ以降のホフマンの行動に腑に落ちないところも多い。
ただ、幕切れは上手い。キブツの入り口には「ユダヤ人犠牲者の資金により設立」と書かれているのだ。前段がある故に【資金】が具体的な意味を持ち、ちょっとした社会派的なムードが醸し出される。
ヒッチコックとフリッツ・ラングのファンはニヤッとしていることでしょう。
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