映画評「あなたを忘れない」

☆☆★(5点/10点満点中)
2006年日本=韓国映画 監督・花堂純次
ネタバレあり

本作は2001年1月に新大久保駅で関根史郎氏と韓国留学生イ・スヒョン氏が線路に落ちた男性を助けようとして共に電車事故で死亡した事件に基づいて作られたフィクションである。

日本の音楽に憧れて来日したスヒョン青年(イ・テソン)は日本語を学びバイトしながら生活を続けるある日、ストリート・ミュージシャンの星野ユリ(マーキー)と知り合い親密になっていく。
 彼女の父親(竹中直人)は企業戦士時代韓国企業との商売に失敗して以来韓国人嫌い(厳密には差別者ではない)になり、スタジオを経営する現在は火の車。結果的に娘を傷つけてしまう。
 予選を勝ち抜いた彼女たちのバンドが本戦出演する日、新大久保駅に立った青年は線路に落ちた男性を発見する。

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映画としては素直だが多少破綻のある脚本を極めて素朴に映像化した印象で、出来栄えは平均点といったところだから、大きな論議を呼ぶほどの作品ではない。こんな誠実な人間がいらっしゃいましたと思って観れば十分である。
 ところが、本作のような作品を観ると、必ず映画の出来など眼中になく瑣末なことにいきり立つ、隠れナショナリストが顕在化する。作者がどんなに客観的に素材を扱おうと彼らは恣意的に解釈するから困るが、彼らが映画評と称して語らない限り僕は彼らの立場を論ずるつもりはない。

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世間で問題にされている一点は一緒に亡くなった関根氏がドラマに絡んで来ないということらしい。しかし、本作はドラマであってドキュメンタリーではない。両方を並行して描いた場合どうしてもドラマとして散漫になるので、一人に集中した方が無難である。また、正確なことは解らないが関根氏の家族が「そっとしておいて欲しい」と仰ったとも聞く。
 関根氏の描写の省略をもって日本人を冷たく描いているとするのは、それこそ恣意的な解釈である。事実と違う云々はそれ以前にどうでも良いことだ。

もう一点は韓国青年がタクシーにはねられた時の目撃者の援助拒否。文字通りここで拒否反応を示した観客が多かった模様だが、日本人はかつて人情の細やかな人が多かったものの、そうでない人が増加中なのは紛れもない事実である。まして若い時東京で勉学した経験を踏まえると、都会では他人との接触を拒む人が多い。しかも、わが国民は数百年来外国人に対して苦手意識が強く、人情や差別とは関係なく日本語を喋らない人を敬遠しがちではないか。といった次第で僕には寧ろ「さもありなん」。
 いずれにしても、作者はここで日本人論を展開したわけではなく、これはあくまで次のシークェンスへの契機となる出来事にすぎない。

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しかし、日韓の対比は行われている。子供の両親に対する態度である。
 儒教の影響の色濃い韓国では年長者の前では家族であっても煙草は吸わず、尊敬語を使うのはよく知られた事実。主人公がバスの中で同じ年の韓国人青年(ソ・ジェギョン)から年を訊かれる場面がそれをよく物語っている。
 日本では江戸時代末期に国学が胚胎した頃からそんな儒教的な考えは徐々に廃れ、戦後の米国式民主主義導入で決定的に排除されているが、本作の中でその対比は明瞭である。

後は青年の美談の一本勝負だが、富士山にマウンテンバイクで登った後向った大阪の韓国人長屋(?)でのエピソードは唐突でぎこちない印象を否めず、バンドのいざこざは韓国青年を軸にした展開の中では無駄なのでぐっと整理できる。105分くらいで描き切れれば少なくとも★一つは増やせたと思う。

僕のご贔屓バンド、スピッツは人気者ですな。

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  • あなたを忘れない

    Excerpt: すみません。チケット売り場で「あなたを忘れたい、一枚」と言ってしまいました。 Weblog: ネタバレ映画館 racked: 2008-01-19 01:06
  • <あなたを忘れない> 

    Excerpt: 2006年 日本・韓国 130分 原題 26 Years Diary 監督 花堂純次 原作 康煕奉「あなたを忘れない」    辛潤賛「息子よ!韓日に架ける命のかけ橋」    佐桑徹「李秀賢さん.. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2008-01-22 08:40
  • ≪あなたを忘れない≫(WOWOW@2008/01/19@033)

    Excerpt: あなたを忘れない   公式HP   公式HP   詳細@yahoo映画 2001年1月、JR新大久保駅でホームから転落した客を救おうと、 線路に飛び降り犠牲となった韓国人留学生の真実を.. Weblog: ミーガと映画と… -Have a good movie- racked: 2008-03-04 14:17