映画評「ワールド・トレード・センター」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アメリカ映画 監督オリヴァー・ストーン
ネタバレあり
「ユナイテッド93」は9・11全米同時多発テロそのものを描いたが、オリヴァー・ストーンが監督をした本作は倒壊した世界貿易センターの下敷きになった港湾警察官二名を巡る救出劇を描く。
事故の一報で第1タワーに乗り込んだ巡査部長マクローリン(ニコラス・ケイジ)と部下のヒメネス(マイケル・ペーニャ)が、第2タワーに旅客機が飛び込んだのも知らぬままコンコースを移動中に第1タワーが倒壊、生き埋めになってしまう。
以降、身動きできないまま家族のことを思う二人と彼らを心配する家族の模様をカットバックで、時に回想場面を挟みながら展開、やがて元海兵隊軍曹カーンズ(マイケル・シャノン)らに発見され、救助隊に救出される。
本稿を書く前に例によってallcinemaを覗いてきたが、これまた余りにも的外れなコメントが目立つ。一番多いのがストーンの政治的姿勢への批判で、次がアメリカへの批判。
今回ストーンは製作こそすれ脚本には携わっていず、彼が責めを負うべきは脚本を如何に映像化しているかという点に限るべきである。監督は最終的な責任を負うべきだが、最終的な責任とは全責任を意味するものではないので、本作でストーンの宗旨変えに言及しても意味がない。
脚本を書いたアンドレア・バーロフが狙ったのは政治的問題から最も離れた【悪を犯す人類という存在が一方でこうして団結することもできる】という一点である。そうした善悪二元論的な単純化を以ってアメリカ若しくはアメリカ映画界を批判するのも意味がない。アンドレア嬢は実際にあった事件を以って普遍的な人間性を描こうとしたに過ぎないからである(この点を考慮すれば、「事件の後イラク戦争に参加した」海兵隊軍曹に関する説明も違うように理解できる。つまり【善を行う人間が戦争という悪に参加もできる】という主題の反転である。それを単純にイラク戦争擁護もしくはアメリカ万歳の立場と理解するのは短絡に過ぎよう)。
だからこそ僕は幕切れに失望した。僕が本作を半ば観て感じたこと(主題)を、彼女は主人公のナレーションで改めて説明するという愚挙を犯すのだ。単細胞の僕が理解できることなら大概の人は理解できるわけで、そこまで説明しては余韻も何もあったものではない。良い観客を育てることもできない。80年代以降のアメリカ映画は余りに映画の主題を最後に解説しすぎる。
翻って考えれば、ストーンはナレーションの前に脚本の用意した主題を観客に理解させることに成功したわけで、褒められても貶される理由はないということになる。特に序盤と現場のドキュメンタリー・タッチは優秀で、救出場面では思わず僕の目に涙が滲む。
反面、家族が心配する模様にこれほど長く尺を割く必要はない。家族としては当然の心理なのだから家族愛を描くにしてももっとあっさりしたもので十分、トータルで10分は優に省略できるはずである。暗闇の場面ばかり故の単調さを避けるという狙いとしても行き過ぎの感あり。
それは脚本に帰する問題だが、家族の場面ではストーンのタッチも甘くなる。それでも余りの無気力さに目を覆った「炎のメモリアル」よりは遙かにきちんと描いている。
夾雑物を取り払って事実を描くことに徹した「ユナイテッド93」の迫力に比べると段違いとは言え、記憶に留める価値は十分ある。
2006年アメリカ映画 監督オリヴァー・ストーン
ネタバレあり
「ユナイテッド93」は9・11全米同時多発テロそのものを描いたが、オリヴァー・ストーンが監督をした本作は倒壊した世界貿易センターの下敷きになった港湾警察官二名を巡る救出劇を描く。
事故の一報で第1タワーに乗り込んだ巡査部長マクローリン(ニコラス・ケイジ)と部下のヒメネス(マイケル・ペーニャ)が、第2タワーに旅客機が飛び込んだのも知らぬままコンコースを移動中に第1タワーが倒壊、生き埋めになってしまう。
以降、身動きできないまま家族のことを思う二人と彼らを心配する家族の模様をカットバックで、時に回想場面を挟みながら展開、やがて元海兵隊軍曹カーンズ(マイケル・シャノン)らに発見され、救助隊に救出される。
本稿を書く前に例によってallcinemaを覗いてきたが、これまた余りにも的外れなコメントが目立つ。一番多いのがストーンの政治的姿勢への批判で、次がアメリカへの批判。
今回ストーンは製作こそすれ脚本には携わっていず、彼が責めを負うべきは脚本を如何に映像化しているかという点に限るべきである。監督は最終的な責任を負うべきだが、最終的な責任とは全責任を意味するものではないので、本作でストーンの宗旨変えに言及しても意味がない。
脚本を書いたアンドレア・バーロフが狙ったのは政治的問題から最も離れた【悪を犯す人類という存在が一方でこうして団結することもできる】という一点である。そうした善悪二元論的な単純化を以ってアメリカ若しくはアメリカ映画界を批判するのも意味がない。アンドレア嬢は実際にあった事件を以って普遍的な人間性を描こうとしたに過ぎないからである(この点を考慮すれば、「事件の後イラク戦争に参加した」海兵隊軍曹に関する説明も違うように理解できる。つまり【善を行う人間が戦争という悪に参加もできる】という主題の反転である。それを単純にイラク戦争擁護もしくはアメリカ万歳の立場と理解するのは短絡に過ぎよう)。
だからこそ僕は幕切れに失望した。僕が本作を半ば観て感じたこと(主題)を、彼女は主人公のナレーションで改めて説明するという愚挙を犯すのだ。単細胞の僕が理解できることなら大概の人は理解できるわけで、そこまで説明しては余韻も何もあったものではない。良い観客を育てることもできない。80年代以降のアメリカ映画は余りに映画の主題を最後に解説しすぎる。
翻って考えれば、ストーンはナレーションの前に脚本の用意した主題を観客に理解させることに成功したわけで、褒められても貶される理由はないということになる。特に序盤と現場のドキュメンタリー・タッチは優秀で、救出場面では思わず僕の目に涙が滲む。
反面、家族が心配する模様にこれほど長く尺を割く必要はない。家族としては当然の心理なのだから家族愛を描くにしてももっとあっさりしたもので十分、トータルで10分は優に省略できるはずである。暗闇の場面ばかり故の単調さを避けるという狙いとしても行き過ぎの感あり。
それは脚本に帰する問題だが、家族の場面ではストーンのタッチも甘くなる。それでも余りの無気力さに目を覆った「炎のメモリアル」よりは遙かにきちんと描いている。
夾雑物を取り払って事実を描くことに徹した「ユナイテッド93」の迫力に比べると段違いとは言え、記憶に留める価値は十分ある。
この記事へのコメント
癖のあるアメリカ映画。(--)^^
かたや、
説明はおろか、“おぬしら、観てわからぬかっ、
このゲイジュツ作品がっ!”ってアタマこずかれて
いるかのような、どこの国とは特定できませぬが
想像はつく、どっかの映画。^^
ましてや、
私から監督に説明してあげたくなるよな、
これもどこの国とも言いたくないけれど
どっかの国の映画とか・・・・(笑)
おそらくストーンからするといささか不本意なホン
だったのかもね。でも映画としては最後まで
持ちこたえた感は強く残っておりますが。
allcinemaの単純思考コメントは
こういう色濃い監督作品になると
俄然、まるで鬼の首でも取ったように
涌いて出る。(--)
中にはキチンと冷静・評価されている方も
いらっしゃるので時々読ませていただきますが。
アメリカ映画は元来そういう傾向にありますが、
21世紀に入ってから
ナレーションで進行する作品が増え、
言葉で説明しているのに相変わらず長い、
という困った作品が増加中ですね。
昔からナレーションは嫌いでしたが、最近のはひどいです。
>私から監督に説明してあげたくなるよな、
もしかして、わが邦では?(笑)
>持ちこたえた感
文句は言っておりますが、
要は「もっと上を目指すなら」という前提での
愚見ですから・・・
上出来の部類と思いますよ。
>allcinema
【みんなのシネマレビュー】よりは
まともかなと思いましたが
ちょっと本作に関しては的外れがひどいのが
多かったですね。
名前を憶えている方では一名
傾聴に値する方がいらっしゃいます。