映画評「愛されるために、ここにいる」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年フランス映画 監督ステファヌ・ブリゼ
ネタバレあり

邦画「Shall we ダンス?」は娯楽的に極めて優れた作品だと思っているが、ステファヌ・ブリゼなる本邦初紹介になる監督の作品は同じようなスタートを切りながら、もっと文学的にアプローチしていてぐっと別の趣がある。

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51歳の離婚男性パトリック・シェネは裁判所の執行官。言わば取り立て屋で、やむを得ないという思いで業務をこなしているある日、運動不足が祟って心臓疾患を病んでいることが判明、「何か運動せよ」と医者に言われた為に、隣のビルに見えるタンゴ教室に通ってみることにする。
 その教室で昔近所に住んでいた現在30代半ばくらいのアンヌ・コンシニと再会して親しくなり、彼女が結婚を控えていることを知らずに熱を上げるが、事実を知らされて激怒する。やがて、秘書の言葉から再びダンス教室に現れた彼を、結婚に迷いを生じていた彼女は微笑みを以って迎える。

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面白くもない仕事を淡々とこなし病気に持ち、頑迷な父親に苦しめられるという離婚男性シェネと、教師をしながら小説を書くのに夢中になりダンス教室についぞ顔を出さない婚約者にマリッジ・ブルーを募らせていくアンヌをカットバックで描き二人の心理を積み上げていくオーソドックスな作劇で、とりわけ初老男シェネが八方ふさがりの閉塞感を恋によって突き破ろうとする模様が手に取るように解るのが良い。「激しい情熱」という香水を名前で拒否するようではいかにもお堅いが、この場面は困惑した店員の様子を含めて頗る感じが出ている。

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定石的な物語と言えないことはないものの、ダンス教室の場面に挟んで父親(懐かしいジョルジュ・ウィルソン)や息子との似たような場面を繰り返すうちに、フランス映画らしいややくすんだ画調の中に主人公の心理の僅かな変化を絶妙に浮かび上がらせ、味わいが深い。

シェネも相手役のアンヌ・コンシニも好演。

フランス伝統の恋愛心理劇なり!

この記事へのコメント

2008年02月14日 07:39
関心を持った女性に、次に出逢うまでの“間”に
男性はまたその女性を想って“恋”をするとか・・・

その“間”にうま~く挿入したエピソードと
主人公の心境の“揺れぐあい”が巧みに表現
された作品と思いました。

お話は相変わらずドドンと(笑)変わりますが、
果たして、プロフェッサーに言わせれば

“viva jijiさん、そんなことはとっくの
とうに、わかっとりますっ!”かも知れませんが
また近頃映画館のスクリーンを観ながら
つくづく、私、思うの・・・

映画を観るというのは集中力を養うことだわ~って。^^

いい映画に出逢うと、散漫だった脳内が
私、クリーンになるような気がしますの。
そういういい映画が年々少なくなっていくのは
寂しいけれど、たまに小品ながら、本作のような
素敵な映画に逢えるのが、これまた、至福~^^
オカピー
2008年02月15日 02:49
viva jijiさん、こんばんは。

>その“間”にうま~く挿入したエピソードと
>主人公の心境の“揺れぐあい”

僕はまた、肉親との生活との狭間に
彼女との出会いがあるのか思ってました、
なんちゃってね。ジョークですよ♪

文学的な表現では姐さんはやはりうまいや。
優さんになると、ちょっと異次元ですが。
本当にどうしちゃったんだろうか、優さん?
寂しかねえ。TT

>集中力
同じ映画でも、映画館では集中力が増しますよね。
何しろ金を払っている!
そういう話ではない?
それから、淀川先生ではないけれど、
勘を養うことですね。

ところで、フランス映画はやはり粋ですね。
他の国と恋愛描写の洗練度が違います。^^
2008年02月16日 12:46
TBありがとう。
やっぱり、フランス映画には、いろんなタイプの恋愛をオシャレに描く伝統みたいなのがありますね。
オカピー
2008年02月17日 00:25
kimion20002000さん、こちらこそ有難うございます。

フランス映画は恋愛映画の御用達ですかねえ。
アメリカ映画も伝統的に上手いのですが、元来機微を描くのは苦手で、最近は甘さだけが増加してしますね。
「旅情」なんてのは実に上手くて機微のある作品ですが、あれはイギリス映画。「終着駅」は監督がデ・シーカ。
日本映画はしょぼしょぼしたのしか作れないし。

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