映画評「犬神家の一族」(2006年版)
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・市川崑
ネタバレあり
市川崑死す。
3月にWOWOWに出るのが分っていたので、今回の緊急追悼放送を観たものか悩みに悩んだ。内容的にカットもあるし、映画の価値を激減させるCMにより、作者が大事にしているリズムも呼吸もぶち壊されてしまうからである。結局、完全版は後日WOWOWで観ることにして付き合うことにした。しかし、ただそのまま観るのは余りにも失礼と思いHDDに録画してからCMを削除し再編集した後観た努力はご評価戴きたい(笑)。
因みに本作は135分、本放送は121分。4分ほどエンド・クレジットがあるとしても正味10分のカットはある。これは後で正確に確認しなければならない。
さて、崑ちゃん自身の傑作を30年ぶりにリメイクした作品であることは、周知の通り。
僕は横溝正史の大ファンというわけではないが、金田一耕助ものでは市川=石坂コンビがベストだと思っていて、どうせセルフ・リメイクするなら「犬神家」ではなく、何らかの事情で兵ちゃん(石坂)が再登場しなかった「八つ墓村」を彼の主演で作り直して欲しかった。
しかし、ない物ねだりをしても仕方がないので、オリジナルを数回観ているという前提において、少々思いついたことをしたためよう。
観始めて気付いたことは、お話を76年版から変えていないのは勿論、カット割りもかなり忠実、音楽もほぼそのまま、ということである。といった次第で物語についてはオリジナルの批評を参考にして下さい。
ほぼ同じ脚本、演出、音楽なのにオリジナル程おどろおどろした印象がないのはどうしたことだろうか。1年前にオリジナルを再鑑賞した時は本作よりおどろおどろしていた印象を覚えたので、慣れてしまったわけではない。
思うに、市川監督は最小限の変更のうちに基調となるムードを変えたのではないか。オリジナルは映画の冒頭で亡くなる当主の怨念を底流にしていたのに対し、本作では愛情、怨念に似た強い愛情に代えられているような気がするのである。その証拠に当主の過去にまつわる説明がごっそり削除されている(放送によるカットではないのは確認済み)。
次女・竹子(松坂慶子)の息子が死んだ時に繰り出される、珠世(松嶋菜々子)のものと思われるフラッシュバックが通常のモノクロになっていて、オリジナルのアニメ化のような映像ではない(下画像参照、上が本作、下がオリジナル)。こうした演出面のちょっとした変更もオリジナルよりソフトなイメージを成しているかもしれない。その結果、ミステリーとしてはネタが割れているということも手伝って、重層的に語られる親子の強い情愛に強く感じ入ってしまうのである。
今回の映画化も日本映画界の現状を考えるとなかなか充実した配役とは思うが、代えられた顔ぶれが総じて小粒化した感があり、中でもコメディリリーフとして坂口良子と深田恭子の資質の差が一番目立つ。兵ちゃん、加藤武といったオリジナル組の老いもかなり気になる。配役が本作における最大の差であり、オリジナルに劣る最大要因になっていると言って過言ではあるまい。
変更が少ない中で幕切れは微妙にしかし明確に変えられていて、送別されるのが嫌いな金田一が逃げ出す。その後ろ姿が暫く捉えられ、やにわに彼は振り返る。老いた兵ちゃんが崑ちゃんにダブり、まるで「さよなら」と言っているようで、涙を禁じえなくなった。案外彼自身にもこれが遺作になる予感があったのではないかという気さえしてくる。
改めて偉大な業績に感謝しつつ、ご冥福をお祈り致します。
2006年日本映画 監督・市川崑
ネタバレあり
市川崑死す。
3月にWOWOWに出るのが分っていたので、今回の緊急追悼放送を観たものか悩みに悩んだ。内容的にカットもあるし、映画の価値を激減させるCMにより、作者が大事にしているリズムも呼吸もぶち壊されてしまうからである。結局、完全版は後日WOWOWで観ることにして付き合うことにした。しかし、ただそのまま観るのは余りにも失礼と思いHDDに録画してからCMを削除し再編集した後観た努力はご評価戴きたい(笑)。
因みに本作は135分、本放送は121分。4分ほどエンド・クレジットがあるとしても正味10分のカットはある。これは後で正確に確認しなければならない。
さて、崑ちゃん自身の傑作を30年ぶりにリメイクした作品であることは、周知の通り。
僕は横溝正史の大ファンというわけではないが、金田一耕助ものでは市川=石坂コンビがベストだと思っていて、どうせセルフ・リメイクするなら「犬神家」ではなく、何らかの事情で兵ちゃん(石坂)が再登場しなかった「八つ墓村」を彼の主演で作り直して欲しかった。
しかし、ない物ねだりをしても仕方がないので、オリジナルを数回観ているという前提において、少々思いついたことをしたためよう。
観始めて気付いたことは、お話を76年版から変えていないのは勿論、カット割りもかなり忠実、音楽もほぼそのまま、ということである。といった次第で物語についてはオリジナルの批評を参考にして下さい。
ほぼ同じ脚本、演出、音楽なのにオリジナル程おどろおどろした印象がないのはどうしたことだろうか。1年前にオリジナルを再鑑賞した時は本作よりおどろおどろしていた印象を覚えたので、慣れてしまったわけではない。
思うに、市川監督は最小限の変更のうちに基調となるムードを変えたのではないか。オリジナルは映画の冒頭で亡くなる当主の怨念を底流にしていたのに対し、本作では愛情、怨念に似た強い愛情に代えられているような気がするのである。その証拠に当主の過去にまつわる説明がごっそり削除されている(放送によるカットではないのは確認済み)。
次女・竹子(松坂慶子)の息子が死んだ時に繰り出される、珠世(松嶋菜々子)のものと思われるフラッシュバックが通常のモノクロになっていて、オリジナルのアニメ化のような映像ではない(下画像参照、上が本作、下がオリジナル)。こうした演出面のちょっとした変更もオリジナルよりソフトなイメージを成しているかもしれない。その結果、ミステリーとしてはネタが割れているということも手伝って、重層的に語られる親子の強い情愛に強く感じ入ってしまうのである。
今回の映画化も日本映画界の現状を考えるとなかなか充実した配役とは思うが、代えられた顔ぶれが総じて小粒化した感があり、中でもコメディリリーフとして坂口良子と深田恭子の資質の差が一番目立つ。兵ちゃん、加藤武といったオリジナル組の老いもかなり気になる。配役が本作における最大の差であり、オリジナルに劣る最大要因になっていると言って過言ではあるまい。
変更が少ない中で幕切れは微妙にしかし明確に変えられていて、送別されるのが嫌いな金田一が逃げ出す。その後ろ姿が暫く捉えられ、やにわに彼は振り返る。老いた兵ちゃんが崑ちゃんにダブり、まるで「さよなら」と言っているようで、涙を禁じえなくなった。案外彼自身にもこれが遺作になる予感があったのではないかという気さえしてくる。
改めて偉大な業績に感謝しつつ、ご冥福をお祈り致します。
この記事へのコメント
最近ブログの更新をさぼりまくっているイエローストーンです。
市川監督、本当に残念でした。
私もTVで「犬神」みてしまいました。
感想はすでに自身のブログで記述しているとおりで、また原作との比較記事も散々書きましたので詳細はひかえますが、そう、おっしゃるとおり、愛を強く描いてますね。私は佐兵衛翁自身の深い愛を、珠世の強い想いに重ねたと感じます。より原作の核を芯に、様々な愛を強く表現し、闇の部分、つまり怨念を表面にだしませんでしたね。
そして、それが映画オリジナルのものですが、松子婦人の最期のセリフに凝縮されています。
オリジナルの「佐清、珠世さんを父の怨念から解いておやり。」が「父の想念から解いておやり。」に。
「あの人はまるで天からきた人のようだ・・・。」
私はオリジナルのラストのが好きですが、兵ちゃんがふりかえり、一礼するシーン、監督の遺作になってしまったことを思うと、非常に感慨深いものがあります。
では。
お久しぶりです~。^^
>珠世の強い想いに重ねた
愛と言っても余りに珠世のロマンスだけを抽出するといかにも通俗趣味ですが、祖父の想いと重ねると、それは重い(洒落ではないです)テーマとなりますね。テーマと言うより通奏低音ですが。
闇の部分を出さないことにより、おどろおどろしたムードが減じたことが果たして良かったのかは微妙だと思いますが、それによって作り直した意義も出せたのかな?
>ラスト
一礼が崑ちゃんの観客へのお礼に思えてきて、目頭が熱くなりましたよ。
>オカルトチック
実は、余りそちらの方向に進むのに市川監督は抵抗があったので、オリジナルでも抑えたといったということも風の便りに聞きましたよ。
そこで監督はリメイクに当って、元来底流にあった<愛>を<怨念>に代えて前面に出したのでしょう。