映画評「明日に処刑を・・・」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1972年アメリカ映画 監督マーティン・スコセッシ
ネタバレあり
「タクシー・ドライバー」(75年)の成功のおかげで製作4年後に日の目を見たマーティン・スコセッシの商業映画第1作である。世間では無視され、現在における評判も余り芳しくないが、僕は昔からこの小品が大好きだ。
世界恐慌のど真ん中だった1930年代初め、飛行機パイロットの父を失って天涯孤独になり、貨車にただ乗りするホーボーの生活に入ったバーサ・トンプスン(バーバラ・ハーシー)が、流れ者の詐欺賭博師レイク(バリー・プリマス)と組んで稼ぐうちにインチキ賭博に気づいた相手を射殺した挙句に逃げ込んだ貨車で愛する組合活動運動家ビル(デーヴィッド・キャラディーン)と再会、資金稼ぎの為に働いた強盗が元で組合に突き放されたビルはいよいよ強盗に勤しむようになる。
彼の服役中に娼婦になった彼女が再会したビルは、やがて追跡してきた保安官一味により残酷な処罰を受けてしまう。
まだ30歳だったスコセッシの作風は荒々しく雑な部分もあるが、その代わり若々しいエネルギーに満ちて絶大なる魅力を放つ。例えば、窓のある廊下をカメラが移動する長いショットでは露出を調整せず光が差し込んでもそのまま撮るアマチュア的な演出を見せ、技術的にきちんと作れば良い映画になるというものではないことを見事に証明する。
内容的には序盤から「俺たちに明日はない」を彷彿とするカントリー&ウェスタン音楽が使われ、バーサが車を使って外で労働中のビル、友人の黒人ボン(バーニー・ケイシー)、レイクを救出する場面以降文字通り似たムードの逃走犯罪劇が展開。原題とは全く関係ない邦題も勿論その辺りを意識したものである。
あの傑作同様に最初はコミカルな味わいを帯びていたものが徐々に厳しいムードに変わっていく構成も良い。
圧巻と言うべきは、キリストのように貨車の外部に磔にされたビルをバーサが必死に追いかける幕切れで、最初は貨車の上方から俯瞰で、続いて前方から延々と撮り続け、やがて走れなくなったバーサの姿が遠のいていく。こんな鬼気迫るシーンは後年の代表作にもなかなか見い出せないように思う。
1972年アメリカ映画 監督マーティン・スコセッシ
ネタバレあり
「タクシー・ドライバー」(75年)の成功のおかげで製作4年後に日の目を見たマーティン・スコセッシの商業映画第1作である。世間では無視され、現在における評判も余り芳しくないが、僕は昔からこの小品が大好きだ。
世界恐慌のど真ん中だった1930年代初め、飛行機パイロットの父を失って天涯孤独になり、貨車にただ乗りするホーボーの生活に入ったバーサ・トンプスン(バーバラ・ハーシー)が、流れ者の詐欺賭博師レイク(バリー・プリマス)と組んで稼ぐうちにインチキ賭博に気づいた相手を射殺した挙句に逃げ込んだ貨車で愛する組合活動運動家ビル(デーヴィッド・キャラディーン)と再会、資金稼ぎの為に働いた強盗が元で組合に突き放されたビルはいよいよ強盗に勤しむようになる。
彼の服役中に娼婦になった彼女が再会したビルは、やがて追跡してきた保安官一味により残酷な処罰を受けてしまう。
まだ30歳だったスコセッシの作風は荒々しく雑な部分もあるが、その代わり若々しいエネルギーに満ちて絶大なる魅力を放つ。例えば、窓のある廊下をカメラが移動する長いショットでは露出を調整せず光が差し込んでもそのまま撮るアマチュア的な演出を見せ、技術的にきちんと作れば良い映画になるというものではないことを見事に証明する。
内容的には序盤から「俺たちに明日はない」を彷彿とするカントリー&ウェスタン音楽が使われ、バーサが車を使って外で労働中のビル、友人の黒人ボン(バーニー・ケイシー)、レイクを救出する場面以降文字通り似たムードの逃走犯罪劇が展開。原題とは全く関係ない邦題も勿論その辺りを意識したものである。
あの傑作同様に最初はコミカルな味わいを帯びていたものが徐々に厳しいムードに変わっていく構成も良い。
圧巻と言うべきは、キリストのように貨車の外部に磔にされたビルをバーサが必死に追いかける幕切れで、最初は貨車の上方から俯瞰で、続いて前方から延々と撮り続け、やがて走れなくなったバーサの姿が遠のいていく。こんな鬼気迫るシーンは後年の代表作にもなかなか見い出せないように思う。
この記事へのコメント
こないだ話題に上ったと思ったらもうご覧になったのですね。
ス、素早い!(笑)
わたしはこの作品は未見なのです。
とても見たくて探しているのですが・・・・
あ、「アリスの恋」あのコメントのやりとりのあと、またちゃんと見たくなって借りてきました。
見たら近々アップしますね。
「スコセッシ・オン・スコセッシ」というスコセッシへのロングインタビューを起こした本があってそれもこないだ読みました。
裏話や、スコセッシが見てきた映画などとっても読みごたえあって、呼んだ後、また彼の作品を追いかけたくなりました。
記事にあげてくださった画像がまたいいですね。
ますます見たくなります。
たまたまWOWOWが放映してくれたということもあるんですけどね。
「ミーン・ストリート」もやりますが、余り気が進まないです。^^;
レンタルではちょっと難しいかもですね。スコセッシ・ファンでも好きな人が余りいないようですから。
>スコセッシ・オン・スコセッシ
へえ、そんな本があるんですか。
昨年TVで観た時に今村昌平に関するコメントになかなか面白いものがあったので、寧ろ最近彼への関心が出てきました。
一流監督の自作以外の作品への言及にはなかなか興味を呼ぶものがありますよね。^^