映画評「007/カジノ・ロワイヤル」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年イギリス=アメリカ映画 監督マーティン・キャンベル
ネタバレあり
007史上初めてのリメイクである、とは言っても40年前に作られた最初の作品は偽ボンドが何人も出てくるパロディ映画だったので、本家では勿論初めて。
二つの殺人を実行して007に昇格したジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)がマダガスカルでテロリストを追い詰めて殺して若気を発揮する一幕の後、M(ジュディ・デンチ)は、テロリストの資金をテロにより増やしてテロリストに還元する死の商人ル・シッフル(マッズ・ミケルセン)と対決させる為に仕方なくポーカーの腕が一番であるボンドをモンテネグロのカジノに派遣、財務省の美人ヴェスパー(エヴァ・グリーン)をお目付役として随行させる。現地の協力者はマティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)である。
ところが内部に裏切り者がいた為に勝負どころか命まで失いかねないピンチに陥り、辛うじて命拾いした後CIAの協力も得て最後の大勝負に出る。
序盤はヤマカシもどきの高所アクション、次に飛行機爆破テロを食い止める大仕掛け、中盤は賭博映画の心理戦を堪能させ、最後はロマンスを絡めたアクション付きどんでん返しという具合に、見せ場満杯である。CGに頼らない姿勢も良い。
ところが、ロマンスが絡んで来る辺りから序盤から見え隠れしていた弱点が表面化する。リアル志向である。「M:ⅰ:Ⅲ」で指摘したようにスパイの私生活は露骨に描かれるべきではなく、ジャンル映画は必要以上にリアリティを求めるべきではない。
リアルさを求めていけばどうしても性格描写を必要とし、テンポを鈍重にする。性格描写が観たいなら人間ドラマを見れば良いのであり、一種の荒唐無稽を売りにしてきた「007」シリーズにスローさを求めて何になろう。
リアリズムをジャンル映画に求めるのは一見尤もらしいが、全く筋違い。色々なジャンルやタイプがあるから映画は楽しいのであり、画一的にリアリティを求めることは映画から夢を奪うことに他ならない。スパイを我々と同じレベルに下げて面白いとでも言うのだろうか。
いかなる映画も人間の基本的な行動心理学を満たす必要はあるが、ジャンル映画ではそれをクリアすれば十分なはずである。
といった次第で、見せ場が多い故にトータルとしてこの程度の星は進呈したいが、最後の30分には相当がっかりさせられた。本作の異様な評判の良さはちょっと困った現象と苦笑せざる得ない。
作品同様にダニエル・クレイグのボンドも好評だが、初々しい時代のお話という設定とは言え知的な色気とウィットに欠け、僕は余り気に入らない。大いに走りまくるアクションは大変宜しい。
業務連絡:00は「ダブル・オー」と読むらしいが、慣例に従って「ゼロゼロ」とし<さ行>にしておきました。
アリストテレス曰く、「喜劇は一般人を扱い、性格描写が重要。悲劇は英雄を扱い、行動を描写する」と。
2006年イギリス=アメリカ映画 監督マーティン・キャンベル
ネタバレあり
007史上初めてのリメイクである、とは言っても40年前に作られた最初の作品は偽ボンドが何人も出てくるパロディ映画だったので、本家では勿論初めて。
二つの殺人を実行して007に昇格したジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)がマダガスカルでテロリストを追い詰めて殺して若気を発揮する一幕の後、M(ジュディ・デンチ)は、テロリストの資金をテロにより増やしてテロリストに還元する死の商人ル・シッフル(マッズ・ミケルセン)と対決させる為に仕方なくポーカーの腕が一番であるボンドをモンテネグロのカジノに派遣、財務省の美人ヴェスパー(エヴァ・グリーン)をお目付役として随行させる。現地の協力者はマティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)である。
ところが内部に裏切り者がいた為に勝負どころか命まで失いかねないピンチに陥り、辛うじて命拾いした後CIAの協力も得て最後の大勝負に出る。
序盤はヤマカシもどきの高所アクション、次に飛行機爆破テロを食い止める大仕掛け、中盤は賭博映画の心理戦を堪能させ、最後はロマンスを絡めたアクション付きどんでん返しという具合に、見せ場満杯である。CGに頼らない姿勢も良い。
ところが、ロマンスが絡んで来る辺りから序盤から見え隠れしていた弱点が表面化する。リアル志向である。「M:ⅰ:Ⅲ」で指摘したようにスパイの私生活は露骨に描かれるべきではなく、ジャンル映画は必要以上にリアリティを求めるべきではない。
リアルさを求めていけばどうしても性格描写を必要とし、テンポを鈍重にする。性格描写が観たいなら人間ドラマを見れば良いのであり、一種の荒唐無稽を売りにしてきた「007」シリーズにスローさを求めて何になろう。
リアリズムをジャンル映画に求めるのは一見尤もらしいが、全く筋違い。色々なジャンルやタイプがあるから映画は楽しいのであり、画一的にリアリティを求めることは映画から夢を奪うことに他ならない。スパイを我々と同じレベルに下げて面白いとでも言うのだろうか。
いかなる映画も人間の基本的な行動心理学を満たす必要はあるが、ジャンル映画ではそれをクリアすれば十分なはずである。
といった次第で、見せ場が多い故にトータルとしてこの程度の星は進呈したいが、最後の30分には相当がっかりさせられた。本作の異様な評判の良さはちょっと困った現象と苦笑せざる得ない。
作品同様にダニエル・クレイグのボンドも好評だが、初々しい時代のお話という設定とは言え知的な色気とウィットに欠け、僕は余り気に入らない。大いに走りまくるアクションは大変宜しい。
業務連絡:00は「ダブル・オー」と読むらしいが、慣例に従って「ゼロゼロ」とし<さ行>にしておきました。
アリストテレス曰く、「喜劇は一般人を扱い、性格描写が重要。悲劇は英雄を扱い、行動を描写する」と。
この記事へのコメント
>ちょっと困った現象と・・・・
本作公開前のクレイグ・バッシングも
アホかいな、と思えるほど異常でしたでしょ。^^
あれで、す~~ぐ同情投票のお好きな
女性陣が・・・
~あ~~ら、フタを開けてみれば
そんなに悪くないんじゃありませんの~
クレイグさん、がんばっていらっしゃる~
になったと私は確信しておりますな~。
最初のバッシングは宣伝屋の陰謀かもよ~(--)^^
>大いに走りまくる
このクレイグの走りと
「ターミネーター2」の
金属人間のあの男の走りで
競争してるの私しゃぜひ観たい!
最後に言わせてちょ。
D・クレイグは海千山千の
ボンド役は無理。
まんず、お品と色気が無い。
コネリー氏とは土俵がちがいます。
「雨の訪問者」にお酒飲まされて
回転椅子でグルグルしてたM・ジョベールの
娘さんのエヴァさんは、演技、ヘタッピ。^^;
アクション娯楽大作に、あんな
辛気くさいお顔立ちは逆効果とも。
>最初のバッシングは宣伝屋の陰謀かもよ~(--)^^
さすがに鋭い!
そう言えば「荒野の用心棒」の盗作騒動も案外宣伝効果を狙ったものか、なんて揶揄する人もいたとか。
>競争してるの私しゃぜひ観たい!
観たい観たい!^^
>お品と色気が無い
全くですなあ。
英国人であっても英国紳士には見えない。
正装していてもジーパン姿が脳裏を横切ってしまったんですよ。
やはり髪の毛で思い出させるマックィーンのせい?
>エヴァ・グリーン
ええっ!
あのそばかす娘だったマルレーヌの?
似てないなあ?
しかし、エヴァーグリーンと紛らわしい、ふざけた名前ですね。^^;
>WOWOW
コネリーの「007/危機一発(ロシアより愛をこめて)」は今回HDDと時間が許さなかったので、月末に観る予定です。
ムーアでは「私を愛したスパイ」が一番観たいですが、今回はなかったですね。
レーゼンビーの「女王陛下の007」は主題歌がお楽しみ。
>一番身近なボンドさん
そういう時代なんでしょうかね。
007は本来スーパーマン的スパイなので、僕は歓迎できないなあ。^^;
>インディーズ作品に向いている
イエス!
「Jの悲劇」やナレーションがうるさいがなかなか面白いレイヤー・ケイキ」みたいな小バジェットの作品でのほうが良さそうですね。
>荒唐無稽を売りにしてきた「007」シリーズ
「ダイ・アナザー・デイ」の消える車のようなマンガちっくなのは困りますが、やはり秘密兵器は必須ですね。
>消える車
そんなのもありましたっけね。^^
まあ、考えてみれば携帯電話も007がスタートした頃から眺めれば、秘密兵器ですね。逆に「007は二度死ぬ」でカーナビみたいな秘密兵器(?)も出てきたような記憶がありますが、今では当たり前。
それはともかく、スパイの性格と生活をネチネチと描くようなのはこの一本でおしまいにして欲しいと思うんですよ。
本作の苦い経験から007はプレイボーイになったということらしのですが。
アリストテレスの格言。名言ですね。覚えておこう。
>採点
甚だ恐縮です。
作る目的や狙いに応じて極力客観的に☆★を付けているつもりですが、客観的な立場による高レイトだからと言ってどなたにも受けるわけではないのは当然につき、もし外れの場合にはご容赦ください。<(_ _)>
>HDD
ほぼ同質でハイビジョン放送を4倍の容量で記録できる機器があります。将来的には欲しいです。
>アリストテレス
「詩学」からの引用です。
そっくりそのままというわけではなくて、要旨をまとめたものですが、僕の考え方と全く同じだったのでびっくりしました。
結局基本はいつの時代も変わらない。映画の描くのも二つのタイプと、そのヴァリエーションです。
この作品は、「犬神」のリメイクと一緒に劇場でみました。
私はこのダブルオーシリーズ(あっ、ゼロゼロでしたか)好きなんですよ。ただ、私の親友のひとりもボンドはコネリー以外認めない奴がいます。やはり「ロシア」が一番だと。
ただ、私は年代的には、もろはロジャー・ムーアなんですよね。
ダブルーを最初に劇場で鑑賞したのも、「私を愛したスパイ」か、「ムーンレイカー」だったと。
しかし、私は自身のブログでも散々書いてきましたが、私にとってはピz-ス・ブロスナンが一番なんですね。私の中ではあれ以上にボンドは恐らくないでしょうね。それだけに、契約等の関係でもめて4代目ボンドになれなかったのが非常に残念でなりません。若い時期にあと2作はピアースボンドをみれたなと・・・。
とにかく、ダブルオーはいいんですよ。荒唐無稽で。消える車なんてかわいいもんですよ。海をいくエスプリや「ムーンレイカー」もマンガですよ。大人のマンガでいいんです。そして、私にいわせると流れを断ち切る勇気よりも、流れを踏襲してゆく勇気のがパワーがいるのではないかと、この作品に関しては思います。
やはり、途中、女とのロマンスというか、たるいですよね。ダブルオーにそれはもとめていない。プレイでいいんです。そしてシャレたセリフと優雅なふるまいがやはりボンドには必要、それでいて殺るときはためらわずに殺る。それがボンド。目一杯でハードなだけならボンドは入りません。
そして、カードをしている時のこのボンドは一瞬ですが、マックィーンに似くさいですよね・・・。
まあ、ラストのあたり、最後にあのセリフをはくところがまだ救いというか、よかったかな。けっこう楽しめたんですが、やはり、私にはボンドではないかな~。
私はピアースが、ブロスナン・ボンドがやはりショーン・コネリー以来、最高のボンドなんですよね~。
では。
今後もダブルオーはなんだかんだ鑑賞するでしょうが、やはりこのマックィーンもどきの金髪あんちゃん(歳はそこそこいってるようですが)ではチョット違うんですよね~・・・・。
三つもコメントがあるのですっかり怒られるのかと思いましたが、基本は僕と同じですね。^^
ロジャー・ムーアが出てきた当時は「何じゃい!」と思ったものですが、慣れれば何と言うことはなかったです。^^;
しかも「私を愛したスパイ」は「女王陛下」以降暫く余りパッとしなかったシリーズの中で破格の出来栄えと思うておりますよ。^^
因みに僕のベストは、やはりコネリーですね。艶っぽい知的な色気が良いんだなあ。^^
>ピアース・ブロスナン
彼も良いですね。
まず、ボンドは英国紳士的ではなくてはならない。
それを彼ほど満足する役者はいないですね。
今回のクレイグ氏は確かにマックィーンを思わせるところもあり、そのせいか土の香りがしてしまう。
若い観客はそんなことはないでしょうけどね。
僕が一番好きなのは3台目のロジャー・ムーア。次が5代目のピアース・ブロスナンです。
そしてなぜか最近は1967年版「カジノロワイヤル」がお気に入りで録画した日本語版の色々な場面を見て楽しんでいます。大女優デボラ・カーが出てくる場面も面白いです。
>♪ヘイ・じゅうどう一直線♪
そういうのもほのぼのしていて、いいですね(笑)。
>“ドラマツルギー上”を“文脈上”に置き換えて
わかりやすいです。ありがとうございます。
>当時賛否両論でした。
人間なんていい加減なもんで、「水戸黄門」でも東野英治郎以外には黄門さんはないと思っていた人が多いはずなのに、ずっとやっていると、否定的意見は消えてしまう。このダニエル・クレイグに至っては、実際に見たら良いじゃない?ということだったらしく、悪い前評判を覆しました。
>僕が一番好きなのは3台目のロジャー・ムーア。
僕は、初めて観たということもあり、ショーン・コネリー。艶のある色気が子供心にも良かった。
>1967年版「カジノロワイヤル」がお気に入り
これは50年近く見ていないので、年末にでも図書館からビデオを借りて来ようと思います。今は違う図書館に行脚中。