映画評「突破口!」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1973年アメリカ映画 監督ドン・シーゲル
ネタバレあり
「サブウェイ・パニック」をWOWOWで久しぶりに見たばかりだというのに、今度はNHK-BS2でウォルター・マッソー主演の犯罪サスペンスが続いた。どちらも誰でも知っている有名作ではないものの甲乙つけがたいサスペンスの秀作なので、全く嬉しい限り。
曲芸飛行から農薬散布に職替えしたもののどうにも物足りない中年飛行士マッソーが妻ジャクリーン・スコットや若者アンディー・ロビンスンら二人の男たちと共に田舎の銀行支店を襲い、妻と共犯者一人を失っただけでなく、予想外に75万ドルもの大金があった為にうろたえる。ロンダリング前のマフィアの隠し金に違いないからである。
最初の見せ場は強盗場面とそれに引き続く地味なカー・アクションで、「ダーティハリー」で実力を遺憾なく発揮したドン・シーゲルが歯切れ良くパンチのあるアクションを見せる。最近の作品の華美なだけで腰のないへなちょこ描写とは全然違う。痺れるねえ。
ドライバーだった妻が撃たれて死に、彼女を乗せたまま車を爆破する時のドライな処理が見事だが、この直前に見せる主人公のかすかな愛情が良い。
どんな場合においても主人公は極めて冷静沈着で、若者に「慎重すぎる」と批判されるくらい用意周到なのだが、そこに彼のずば抜けた才能があり、若者に隠れ場所のトレーラーハウスから出ないように執拗に指示するのも、マフィアの魔の手の迫ることを半ば予想したことであり、妻の歯形の残っている歯医者に忍び込んでカルテを奪うついでに自分とロビンスンのカルテを交換、本物のカルテを始末してしまうのも後で役に立つ。
案の定探偵宜しく探りまわるマフィアの殺し屋ジョー・ドン・ベイカーは若者を殺す。マッソーは追い詰められたふりをしてマフィアと通じている銀行頭取と連絡を取り、お金を返したいと申し出る。マフィアの行動を読んだ陽動作戦だ。
具体的には観て貰うのが一番だが、終盤彼の操縦する複葉機とベイカーの車での一騎打ちを見ていると思わず童心に帰るというもの。
快調ではあるがスピードで勝負する作品ではない。曲芸飛行野郎が人生でも曲芸を演ずることになるという皮肉が浮かび上がる厚みと粘りのある描写が身上で、なおかつ娯楽映画的に面白いのだから言うことはありません。マッソーのようなとぼけた個性を得ずにはなかなか作れない味わいの一編と言うべし。
1973年アメリカ映画 監督ドン・シーゲル
ネタバレあり
「サブウェイ・パニック」をWOWOWで久しぶりに見たばかりだというのに、今度はNHK-BS2でウォルター・マッソー主演の犯罪サスペンスが続いた。どちらも誰でも知っている有名作ではないものの甲乙つけがたいサスペンスの秀作なので、全く嬉しい限り。
曲芸飛行から農薬散布に職替えしたもののどうにも物足りない中年飛行士マッソーが妻ジャクリーン・スコットや若者アンディー・ロビンスンら二人の男たちと共に田舎の銀行支店を襲い、妻と共犯者一人を失っただけでなく、予想外に75万ドルもの大金があった為にうろたえる。ロンダリング前のマフィアの隠し金に違いないからである。
最初の見せ場は強盗場面とそれに引き続く地味なカー・アクションで、「ダーティハリー」で実力を遺憾なく発揮したドン・シーゲルが歯切れ良くパンチのあるアクションを見せる。最近の作品の華美なだけで腰のないへなちょこ描写とは全然違う。痺れるねえ。
ドライバーだった妻が撃たれて死に、彼女を乗せたまま車を爆破する時のドライな処理が見事だが、この直前に見せる主人公のかすかな愛情が良い。
どんな場合においても主人公は極めて冷静沈着で、若者に「慎重すぎる」と批判されるくらい用意周到なのだが、そこに彼のずば抜けた才能があり、若者に隠れ場所のトレーラーハウスから出ないように執拗に指示するのも、マフィアの魔の手の迫ることを半ば予想したことであり、妻の歯形の残っている歯医者に忍び込んでカルテを奪うついでに自分とロビンスンのカルテを交換、本物のカルテを始末してしまうのも後で役に立つ。
案の定探偵宜しく探りまわるマフィアの殺し屋ジョー・ドン・ベイカーは若者を殺す。マッソーは追い詰められたふりをしてマフィアと通じている銀行頭取と連絡を取り、お金を返したいと申し出る。マフィアの行動を読んだ陽動作戦だ。
具体的には観て貰うのが一番だが、終盤彼の操縦する複葉機とベイカーの車での一騎打ちを見ていると思わず童心に帰るというもの。
快調ではあるがスピードで勝負する作品ではない。曲芸飛行野郎が人生でも曲芸を演ずることになるという皮肉が浮かび上がる厚みと粘りのある描写が身上で、なおかつ娯楽映画的に面白いのだから言うことはありません。マッソーのようなとぼけた個性を得ずにはなかなか作れない味わいの一編と言うべし。
この記事へのコメント
多分オカピーさんは書き漏らされたのでしょうが、ラストシーンは「北北西に進路をとれ」へのオマージュでしたね。
おおっ、トラックバック0コメント0回避できました。
どうも有難うございます。
>サブウェイ・パニック
ニューシネマ時代の作品だからロケ中心でライティングも自然光的、40~50年代のセミ・ドキュメンタリー映画のようでした。
こちら「突破口!」も同様で、ハリウッド映画はまたニューシネマ以前のスタイルに戻った感が強いですね。
>北北西に進路をとれ
洩らしたというわけでもないです。
「007/ロシアより愛をこめて」でそれこそそっくりな場面を見てしまった後なので、強く感じなかったのかな。^^;
TBさせていただきました。
あらためてシーゲル作に唸りました。
同年、マッソーは「マシンガン・パニック」にも
出ているんですね~未見なんです。観たいです。
ちなみに「ダイ・ハード」シリーズ
数晩かかって全作観直しまして「やっぱり面白いなぁ」と
ごきげんよろしついでに、とはエラソーですけど
「ダーティ・ハリー」シリーズもと考えております。
「1」しか観ておりませんのに、やはりよいのは
「1」ではないかと勝手に思い込んでおりますが、
プロフェッサーのオススメありましたら、ぜひ。
ほんに
ますます女性らしさから遠ざかる男前の私ざます。
ニューシネマが登場した頃は古い世代から眉をひそめられたのでしょうが、今見るともの凄く映画的な精神に則られていて、この作品などいかにも“映画”ですよね。
映画芸術的に映画史に名を残す監督ではないかもしれませんが、ドン・シーゲルはやはり映画ファンが忘れてはいけないプロの作家でしたねえ。
>「マシンガン・パニック」
マッソー氏は結構犯罪映画づいていたんですね、この頃。
本作や「サブウェイ・パニック」ほどはお薦めできませんが、原作ものの良さがあったかも。
>「ダーティ・ハリー」シリーズ
一作目は別格な傑作ですが、二作目は勘違い警官たちの面白さでお薦め。
三作目は大分落ちますが、まだ観られると思います。
四作目以降は敢えて観なくてよろしいかと。但し、今のアクション映画よりは大分ましでしょう。
最初は田舎町の平和そうな映像が映る。その後、銀行強盗。
犯行グループ4人のうち1人が射殺される。そして妻もその後死亡。
この先どうなるのか?ハラハラしながら最後まで見ました。
>スターリンへの回帰ですね。
>第三次世界大戦が始まりかねません。
恐ろしいです。
>段々1931年満州事変を受けての日本(国連脱退)みたいにロシアがなってきました。
90年ぐらい前の日本みたいな事をしているロシアなんですね。
>面白かったです。
映画的にも実に良いです。ドン・シーゲルはやはり良い監督。
>90年ぐらい前の日本みたいな事をしているロシアなんですね。
ロシアは世界で一番核弾頭を持っている大国ですが、NATOや自由主義国に囲まれれば窮鼠の状態。窮鼠(旧ソ連か?)が猫を噛んで、核弾頭を発射しなければ良いと思います。
旧ソ(窮鼠)NATO(猫)を噛む、なんてのは如何?
>旧ソ(窮鼠)NATO(猫)を噛む、なんてのは如何?
いいんじゃないんですか?(拍手!)春風亭昇太師匠よりもずっと辛口の三波伸介さんでも座布団一枚くれますよ。
>ドン・シーゲルはやはり良い監督。
見終えた後にいつも通りのパターン。「ぼくの採点表」を読みました。
双葉師匠の採点は75点。431ページの終わりまでの6行に誉め言葉が書いてある。その先も長いだろうと思いながらページをめくったら5行だけ。ちょっと意外でした(苦笑)。
>アンディー・ロビンスン
「ダーティハリー」での犯人役とはまた違った好演でした。
>辛口の三波伸介さんでも座布団一枚くれますよ。
あははは、有難うございます。
しかし、昨日湯船に使いながら考えたのですが、ここに最初に出す代わりに新聞にネタとして出せば1000円くらい貰えた可能性がありました(一応、新聞社の規定で“二重投稿でないこと”となっていますから)。
順番が逆でしたよ(笑)
>「ぼくの採点表」を読みました。
>その先も長いだろうと思いながらページをめくったら5行だけ。
前にも言った、前月に別の批評家が【鑑賞てびき】というのを書いた作品だったわけです。シーゲルご贔屓の双葉師匠はもっと長いのを書きたかったでしょうがねえ。「ぼくの採点表 1970年代」にはこういう作品が多いのです。
しかし、不思議なのは、そういう作品にも、「スクリーン」誌上にはなかった太字コメントがついていること。ご自分のメモにでも書いてあったのでしょうかねえ?
>前月に別の批評家が【鑑賞てびき】というのを書いた作品だったわけです。
なるほど。それで双葉師匠のコメントが少なめだったんですね。
>「スクリーン」誌上にはなかった太字コメントがついていること。
それは知りませんでした。太字コメントは価値があります!
メモに残っていたのでしょう。うれしく思います。
>複葉機
「カプリコン1」の終盤を思い出します。あるいは「ゴルゴ13」でもそういう話がありました。
>>複葉機
>「カプリコン1」の終盤を思い出します。あるいは「ゴルゴ13」でも
複葉機が好きです。だから、第一次大戦を描いた空軍絡みの映画も好きなんです。
「カプリコン1」は救出に使われたんですね。
「ゴルゴ13」は映画版ですか? 高倉健主演の映画版は観ましたが、何しろ半世紀近く前に観たきりですので、まるで憶えていません。