映画評「おわらない物語-アビバの場合-」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2004年アメリカ映画 監督トッド・ソロンズ
ネタバレあり

トッド・ソロンズが1995年に発表した「ウェルカム・ドールハウス」と関連する異色作。

何が異色かと言えば、アビバという12歳のヒロインを、ジェニファー・ジェースン・リー、シャロン・ウィルキンズ、レイチェル・コー、エマニ・スレッジ、ハンナ・フリーマン、ウィル・デントン、ヴァレリー・シュステロフ、シェイナ・リヴァインという8人の男女優(殆どは子役)が演じていることに尽きる。
 白人・黒人お構いなく、実際のローティーン少女もいればジェニファーのように40を超えたベテラン女優もい、痩せているのもいればシャロン嬢のように150kgくらいありそうな巨漢までバラエティーに富んだ顔ぶれだが、これが主題を表現する手段であることは半ばまで観てくれば解る。

とりあえずお話をば。

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「ドールハウス」のヒロイン、ドーンがレイプされた挙句に妊娠、同じように不幸な子供ができるのを嫌って自殺する。この事件を聞いた幼い従妹アビバが「いつも愛したいから子供をいっぱい作る」と宣言してから数年後、両親の知人の息子と同衾して妊娠したアビバを両親が説得して堕胎させるが、この時の手術で子供が産めない体になってしまう。
 結局家出をして様々な人々と接触するうちに、体に何らかの障害を持った子供たちを養育しながら堕胎医暗殺の拠点でもあるキリスト教団体の世話を受けることになり、その指令により暗殺すべき堕胎医の家まで道案内をする。行動を共にした男は警官に射殺され彼女は家に戻り、子供を作る夢を持ち続ける。

ある意味理解に難渋する作品であり、現在発生している事実として低年齢での性交渉の危険性に触れ、旧教的な考えによる堕胎禁止運動を巡ってその偽善を扱っているように思える一方、唯一はっきりとしているのはドーンの兄マーク(マシュー・フェイバー)に「一人の人間は年を取ろうと整形をしようと本質は変わらない」と言わせた言葉が作者の主張そのものであり、これが一つの役に8人もの異なるタイプの役者を起用した狙いである、ということ。外観の違う人間を使っていかに同じアビバを表現できるかという作者の挑戦である。

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かくして、作者は母になって子供を愛そうとするアビバを通して「人は愛するものだ」と表現し続ける。堕胎を強制するヒロインの家族も、堕胎手術を施す医者も、その医者を殺す堕胎禁止の運動家も相等しく...。

原題は「回文」で、ヒロインが幼い時に話した「子供を産みたい」という言葉に戻る、物語の円環(即ち、終わらない物語)を意味しているが、「ドールハウス」に比べると気取った感じが強く、印象的な作品ではあるものの、僕の趣味には余り合わない。

おわった物語-NOVAの場合-

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