映画評「ラストキング・オブ・スコットランド」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2006年アメリカ=イギリス映画 監督ケヴィン・マクドナルド
ネタバレあり
本作を作ったケヴィン・マクドナルドはドキュメンタリー畑の人である。日本未公開の「ブラック・セプテンバー」、再現ドラマを交えた「運命を分けたザイル」を見る限りは技術的に今一つ信用できないところがあるが、ドラマ映画ではどうか。まずはお手並み拝見。
タイトルからは英国の歴史劇ではないかと想像されるものの、1970年代の悪名高きウガンダのアミン大統領をテーマにした半伝記映画である。
構成上の主人公は架空らしいニコラス(ジェームズ・マカヴォイ)という新卒医師で、敵対するイングランドではなくスコットランド出身という理由により政権を奪ったばかりのアミン(フォレスト・ウィッテカー)に妙に気に入られ、主治医以上に顧問として重用されるが、周囲の人物たちが次々と失踪する現実に遭遇し、逃げたくても国外脱出を禁じられるうち彼の第三夫人と懇ろになってしまう。
ニコラスという人物を創出したのは、人食いとも言われ冷蔵庫に生首があったと揶揄されるアミノという人物を鏡のように映す為である。文学や映画ではよくある形式上の主人公である。
そこまでは良いが、頭の中を覗いてみたくなるような彼の軽薄さが映画を非常に興醒めるものとした。完全実話ならともかく、そうでもないのだから、非常に困る。
つまり、大統領の残虐非道な性格が判った後に第三夫人とヨロシクやり、後になって慌てるのを見ても同情する気が起らない。同じような展開でも彼が大統領の性格を知る前に事に及んだのなら全くお話が変わってくるわけだから、いくら狂言回しであっても「ちょっと知恵が足りないのではありませんか」と脚本ペア(ピーター・モーガン、ジェレミー・ブロック)に文句を言いたくなる。
肝心のアミンについては性格が気まぐれで支離滅裂で残忍という辺りはよく理解できるが、彼にしても最初から悪政を目指したわけではないだろうから、その原動となっていった地政学的ダイナミズムについて説明が殆ど為されないのは物足りない。物足りないだけでなく妙にリアルな特撮などもあって後味も必要以上に悪い。
という次第でドラマとしてはアミンのプロフィールを一部見せてもらった程度で些か腰が弱く、アカデミー賞を始めアメリカの各賞を総なめにしたウィッテカーの不気味さを漂わせた演技が見どころと言うべし。ヒトラーの例を出すまでもなく独裁者は他者を信用しない為に孤独の中で衰退していく運命を免れないというムードをうまく醸成している。
本作を含めた一連のアフリカ残酷物語を見ていると、かつて暗黒大陸と言われたアフリカは全く別の意味で今も暗黒大陸であるという暗澹たる思いに駆られる。
2006年アメリカ=イギリス映画 監督ケヴィン・マクドナルド
ネタバレあり
本作を作ったケヴィン・マクドナルドはドキュメンタリー畑の人である。日本未公開の「ブラック・セプテンバー」、再現ドラマを交えた「運命を分けたザイル」を見る限りは技術的に今一つ信用できないところがあるが、ドラマ映画ではどうか。まずはお手並み拝見。
タイトルからは英国の歴史劇ではないかと想像されるものの、1970年代の悪名高きウガンダのアミン大統領をテーマにした半伝記映画である。
構成上の主人公は架空らしいニコラス(ジェームズ・マカヴォイ)という新卒医師で、敵対するイングランドではなくスコットランド出身という理由により政権を奪ったばかりのアミン(フォレスト・ウィッテカー)に妙に気に入られ、主治医以上に顧問として重用されるが、周囲の人物たちが次々と失踪する現実に遭遇し、逃げたくても国外脱出を禁じられるうち彼の第三夫人と懇ろになってしまう。
ニコラスという人物を創出したのは、人食いとも言われ冷蔵庫に生首があったと揶揄されるアミノという人物を鏡のように映す為である。文学や映画ではよくある形式上の主人公である。
そこまでは良いが、頭の中を覗いてみたくなるような彼の軽薄さが映画を非常に興醒めるものとした。完全実話ならともかく、そうでもないのだから、非常に困る。
つまり、大統領の残虐非道な性格が判った後に第三夫人とヨロシクやり、後になって慌てるのを見ても同情する気が起らない。同じような展開でも彼が大統領の性格を知る前に事に及んだのなら全くお話が変わってくるわけだから、いくら狂言回しであっても「ちょっと知恵が足りないのではありませんか」と脚本ペア(ピーター・モーガン、ジェレミー・ブロック)に文句を言いたくなる。
肝心のアミンについては性格が気まぐれで支離滅裂で残忍という辺りはよく理解できるが、彼にしても最初から悪政を目指したわけではないだろうから、その原動となっていった地政学的ダイナミズムについて説明が殆ど為されないのは物足りない。物足りないだけでなく妙にリアルな特撮などもあって後味も必要以上に悪い。
という次第でドラマとしてはアミンのプロフィールを一部見せてもらった程度で些か腰が弱く、アカデミー賞を始めアメリカの各賞を総なめにしたウィッテカーの不気味さを漂わせた演技が見どころと言うべし。ヒトラーの例を出すまでもなく独裁者は他者を信用しない為に孤独の中で衰退していく運命を免れないというムードをうまく醸成している。
本作を含めた一連のアフリカ残酷物語を見ていると、かつて暗黒大陸と言われたアフリカは全く別の意味で今も暗黒大陸であるという暗澹たる思いに駆られる。
この記事へのコメント
これはフォレスト・ウィッテカーがオスカーとったということもあり、内容的にも興味ありで劇場で見たんですけど、ウィッテカーの熱演が浮いてしまっているし、書かれているように後味も悪いし、何を描いた映画なのか曖昧なまま、どっと疲れた映画でした。
俳優たちもウィッテカーにしろマカヴォイにしろ魅力感じられなかったな。こういう後味の悪い映画ってあまり観たくない。映画で後味悪かったら、ダメージ大きいですからね。ではお疲れ様でした。しかし用心棒さんも言われているけれど、毎日の記事アップには感心します。それも広範囲にわたってますものね。私は観たらすぐ書かないと忘れるし、前に進めないから、でも観たい映画に偏ってるし、そこへいくとP様って体力以上に精神力があるなって、観られている作品とレビューみていつも思う。
後味の悪い映画の映画評って普通以上にエネルギー要るでしょうに…。
モミモミ(肩お揉みしたい気持ち!)
やはり、ニコラスは架空の人物なのですか。
あれだけ劇的だとオカピーさんの仰るように、アミンを鏡のように映す役割を果たせていなく、アミンの物語のはずが、ニコラスの冒険談になってしまったように思います。
>何を描いた映画なのか曖昧
全くね。
アミンを描きたいのは解りますが、アミンを通して何を描きたいのか解らない。
方針としては、この若い医師をアミンの鏡或いは狂言回しに徹しきれなかった事による失敗。
世間で言われる程良い映画とは全然思えなかったですね。
>精神力
まあ1万本以上をこうして書き続けてきましたから「ない」と言ったら嘘になりますけど、ジャンルを問わず映画が好きなんですなあ。
その僕をして、最近は「こんな映画は厭だな」というのが増えてきました。駄作は構わないんですが、映画への愛が感じられない作品が準娯楽映画と言われるジャンルに確実に増えていますよ。
>モミモミ
どうも有難うございます。<(_ _)>
>ニコラス
実在する何人ものの人物を併せた、ということらしいです。
>あれだけ劇的だと・・・アミンを鏡のように映す役割を果たせていなく
確実にそういうことです。
物語を展開する基本を脚本家たちが理解していない気さえしますよ。
我々はあの男に無理に同情する義務はないのですが、作者は観客が見ている時に「なんだい」と思わせてはいけないわけですよね。
ウィッテカーは不気味でしたが、後味が今一つです(笑)。